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【実録】7月の長井短「汁極道長井短。汁を求め、汁を追い込む女の軌跡」

我が家の冷蔵庫を開くと、真っ先に目に飛び込こんでくるプラスチック製の丼ぶり。冷蔵庫内のメインステージである中段ど真ん中に鎮座まします偽物の丼ぶりを見る度に、心に澱が溜まっていく。

あぁ……捨てたい。

この偽丼ぶりは、数日前長井がUberで注文した台湾まぜそばの容器である。こいつが最近ウチの冷蔵庫内でデカい顔しているのが気に食わない。ひどく不愉快だ。あぁ!?なんぼのもんじゃい!?という気持ちになる。で中をのぞく。

またか……。

それはそれは味の濃そうな茶濁した汁が底の方にわずかに残っている。私としてはこんなに幅の取るもの、一思いに捨ててしまいたいのだが、この「汁がわずかに残ったプラスチック製の偽丼ぶり」は、我が家においてゴミではない。なぜなら、汁極道である長井にとっては価値のあるもの、大事なシノギである。私は舌打ちを響かせ、冷蔵庫内の古株であり、もはや顔役と化した「パスタソースが底の方にわずかに残っているだけのボウル」をかき分け、偽丼ぶりを冷蔵庫にしまう。

「亀島くんはすぐ捨てる。捨て過ぎ」

長井の言葉が頭に響く。
長井ほど汁に厳しい人間を私は知らない。長井は決して汁を逃さない。汁を徹底的に追い込み、最大限に利用する。

長井のこの性質に気付いたのは、ある日、私がトムヤムクンヌードルを食べていた時のことだ。

「ご飯ある?あるなら汁捨てないで」

汁の予約である。

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