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210/1000 ローレンス(喫煙)@石川県金沢市片町 200128
金沢の中心地、片町、香林坊の裏手には映画館があって、子供の頃よく連れてきてもらったのを思い出します。今はその面影はほとんど無くなりました。
そんな中、ずっと見守り続けている喫茶店があります。
ビルの2階
階段を上っていきます。
ローレンスの看板
2階のドンつきの左が入口です。入ってみます。
入って目の前に広がる景色。これはなんだ。人はいるのだろうか。こんにちは、と声をかけると、
「はいはい、お好きな場所へかけて」
奥の方から声が聞こえてきて、現れたのは、メガネをかけた髪の長い女性。このお店のマダムのようです。中に入ってみると、独特の世界観が広がっていました。
お店の中心の席に座りました。
座るや否や、
「あなた、父のお知り合い?前いつ来られたの?どちらから?」
マダムに矢継ぎ早にきかれたので、初めてで地元出身だと言うことを伝えると
「そうなの、ここにくる人は、先代、あ、父ね、父を訪ねて来る人も多くて、そうかなと思って。私も後を継いで16年ほど経つけど、昔を懐かしんで来る人も多いのよ。」
そうなんですね、と答えるや否や
「大学で県外から来る人学生さんがよく来るのよ。美大生とか。学校が終わって来る、そんな場所になってるのね。だから地元の人より多いかもね。たまに懐かしんで来る人もいるけど、来店する人の平均年齢は30代よ。」
飾りがすごいですね、と話しだすと、
「これ、朽ち果てる姿なの。私も美大出て、美術を教えてたの。でも両親から継いでここをやるようになったでしょ。だったら好きなようにやらせてもらう条件で好きにやらせてもらってるの。あっその絵も私のね。」
お店そっちのけで話が続きます。私もそのトークにどんどん引き込まれていきます。
別のお客さんが入ってきて、私からその人に会話の方向が変わったのでほっとひと息。じっくり周りを見渡してみます。
やっぱりすごい。喫茶店にいると言うより、何処か古くなった中世の館にいるような気分になります。となりから
「ここ、五木寛之さんがいつも座ってた席よ。」
あっ、そうか、五木寛之さん、金沢に住んでたんですよね。奥様の実家が金沢で。今度はそこに座ってみよう。そう思っていると、
「何飲みますか。私珈琲が好きではないので本当はやめたいのね。」
と言いながらメニューを渡されました。
そんなこと言われると、珈琲頼めないじゃないですかw なのでホットココアを。
「ココアお好きなの?うちのはちょっと違うわよ。この前もよそのお店の方が飲みに来たけど。私は他のお店がどんなものか知らないのよ。飲んだことないし。自分で考えて想像して作るの。」
そう言いながら、本を渡された。
「ムンク知ってる?」
叫びのですか?
「そうそう、彼が描いた思春期って画があるの。それをイメージした、思春期ココア。思春期て13歳から15歳の間、ちょうど中学生ね。子供から大人になる多感な時ね。大人になると辛いこと、苦いことばかりよね。それを感じる年齢、それをココアにしたの。14歳がちょうど真ん中ね。13歳だと甘め、15歳は少し大人になるので苦めね。どうしする?」
では真ん中の14歳でと、お願いすると
「時間がかかるわよ。何せ自分で一から作るんだもの。あっそうそう、今日お釣りがないので、ぴったりで頂戴ね。さっき来た人に渡してしまったのでお金ないのよ。」
そう言えば、さっき、何かの集金来てたなぁ(決して取り立てやさんではありません)確認のため、ココアいくらかを聞いてみました。
「660円よ。」
細かいのない。仕方がないので、外で両替してきます。と伝えて店を出ました。
「ごめんなさいねー。」
店の前にパン屋さんがあったので、さすがに両替してとは言えないので、水をひとつ買って千円をくずしてきました。
「ごめんなさいねー、今作ってるから。バンホーテンときび砂糖を混ぜて、熱して、焦げ目をつけて苦味を出すの。実験よ。人生って得体の知れないものね。」
たびたび、「得体の知れない」と言う形容詞を使ってるなと思っていると
「おまたせ。」
「お菓子もどうぞ。前のスーパーで買ったのよ。食べれなかったら持って帰って。節分近いから豆も入れたわ。」
思春期ココア14歳、飲んでみます。
わっ美味しい。最初口の中に甘さが広がって行きます。そしてじわっと苦味が降りて来る。毎回飲むごとに、その感覚が味わえる。これ、何でできているんだろう。さっきレシピを聞いたのに、そう思ってしまうほど、何か得体の知れないものが入っているように感じます。
店を出るとあたりは暗くなってます。どれだけ時間が経ったのだろう。長いようで短く感じます。不思議な時間、体験でした。
帰り際に、マダムが生き方、働き方についての話、
好きな事をする時に得るものと失うものについて
自体験で語ってくれました。とても現実的で深い話を。今の自分にとても感じる言葉。これは癖になりそうです。
次、来た時は、もう少し苦味を知った15歳の思春期を頂きたいと思います。
↓1967年に「蒼ざめた馬を見よ」で第56回直木賞を受賞した瞬間、五木寛之はここにいたんですね。
石川県金沢市片町2-8-18