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隠れオタの同志に告ぐ!(総督)

 宣(戦)隊ヒーローの一員として、決して見逃せないテレビドラマが放映された。その名も『トクサツガガガ』(NHK総合・毎週金曜夜10時)。主人公である商社勤めのOLは、特撮をこよなく愛する隠れオタク(隠れオタ)でありながら、職場の同僚たちには一切その秘密を明かしていない。原作は2014年から『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で連載中の丹羽庭による漫画。同じ趣味を持つ仲間と出会い、友情を育み、成長するオタク女子の複雑かつデリケートな葛藤を描いた作品として人気を博している。

 第1話の冒頭から、こんな件が目を引いた。「(隠れオタが容易にカミングアウトできない)その心理は、まさに信仰を明かせないキリシタンのそれであろう。十字架を掲げなければ同志は見つからない。しかし、十字架を掲げればキリシタンであることがバレてしまう。擬態すればする程、仲間からは見つけてもらいづらくなり主張が強くなれば、オタバレ(オタクであることが周囲にバレること)の危険が増す。この狭間で隠れオタたちは悩んでいるのだ」

 さらには、隠れオタが所持するグッズを古代ローマ時代における「イクトゥス」になぞらえた丁寧な解説まで……。「その昔、信仰を明かせないキリシタン同士が、他の者たちにバレないよう、一人が半弧を描き相手もキリスト教徒であるなら半弧を描いて互いがクリスチャンであることを確かめ合った」――さすが公共放送。侮れない。

 とりわけ2月15日放送の第5話は、涙なしには観られなかった。「女の子らしさ」を好み、幼いころから決して特撮趣味を認めなかった母親への不満を募らせる主人公が、男の子用のオマケをほしがる女の子に遭遇し、自分の子ども時代と重ねて励ましの言葉をかける。「好きなものは好きと言っていいんだよ」。それは、幼い日の自分へのエールでもあった。

 近隣に教会もミッションスクールもない片田舎に育つクリスチャン家庭の子どもたちは、毎週教会に通っていることや、親族にクリスチャンがいることなどを明かせない、いわば「隠れクリ」であることも少なくない(親が牧師で自宅が教会である場合などは隠しようもないのだが……)。先人たちは、「耶蘇(やそ)」とか「アーメン、ソーメン」と言って冷やかされた苦い記憶を持つ。

 さらに、クリスチャンでありながらオタク趣味を持つ場合などは、二重三重の枷(かせ)に苦しむことになる。ただでさえ少数派として生きながら、安心できるはずの教会でもなお周囲の目を気にして「好きなもの」を公表できずにいる信徒も多い。迫害を恐れてカミングアウトできない隠れオタも隠れクリも、気付いていないだけできっとそばにいるに違いない。LGBTの当事者がそうであるように。

 我々、宣隊ヒーローも身バレしないよう「この世」に潜伏しながら見えざる敵と戦う日々。隠れオタを含め、志を同じくしながら肩身の狭い思いをする全マイノリティの諸君。胸を張って「好きなものは好き」と言える気持ちを抱きしめろ! 人と違って何が悪い? 君は決して一人じゃないし、世界は君が思うほど狭くない!

(2019年3月1日付「キリスト新聞」掲載)

【総督】 名前不明 キョウカイジャーを統括する司令塔。「神の国」建設に寄与するため、あらゆる予定調和を打ち壊し、業界の常識を覆そうと目論む野心家。地上では仮の姿でキリスト教メディアに携わる。サブカル好きの中二病。炎上体質。武器:督促メール/必殺技:連投ツイート/弱点:カマドウマ(便所コオロギ)



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