旅行記にサウンドトラックがあったなら
ふと、脳内でそんな戯言がこぼれた。
元来、本というのは文字による表現だ。絵本や写真集などはまた別であるが、旅行記というジャンルは基本的には文章による表現であり、そこに人物写真や風景写真を挿入するのが定石である。
しかし、今回Kindleで自分の旅行記を出版してみて、Kindle本の様々な可能性について気づきがあった。
まず、Kindle端末について。(Kindle Paper white販売サイトより抜粋)
自分自身がKindle端末を5年前から使っているため、Kindleと言えば電子インク式のこの端末を想像しており、自分の本を読んでくれる人たちも同様にこの端末を使うものだと勝手に思っていた。
が、しかし。
いざKindle出版し、まずは周りの友人知人に読んでもらってみると、彼らの半数以上は上記のようなKindle端末ではなく、スマホやタブレット、もしくはパソコンでKindleアプリを使っていたのだ。
つまり、読書専用のデバイスで読んでいるわけではなく、動画や音楽も同時に楽しめる機器で読書をしているのだ。
これは、Kindleで電子書籍を出版する場合、現実的ではないものの、本に動画や音楽を組み込めるということを意味する。
なぜ現実的でないかと言えば、Kindle端末では動画や音楽の再生はできないため、読書が好きなKindle端末保持者をターゲットから除外することになってしまうからだ。
しかし、Kindle端末ではなくスマホやタブレットで読んでくださいと割り切ってしまえば、文字だけでなく動画や音楽をコンテンツとして組み込むことを前提とした作品作りができる。
ところでおれは、よくドローンを飛ばす。そのためドローン関連の書籍をときたま読むのだが、この本には多くの写真と共に、著者が撮影した空撮動画がyoutubeのリンクとして組み込まれている。
Kindleアプリ内で動画が再生されるわけではないので、「本と動画の融合」とは言い難いものの、紙の本ではまずできない表現方法だ。
では、音楽を挿入して本のサウンドトラックのようにするのはどうか?Kindleならではの、新しい読書体験を提供できるのではないか。
でも、結論から言うと、向いていない。
なぜなら、読者が文章を読むスピードと、バックミュージックが流れるスピードは必ずしも合致しないからだ。
映画を例に取ってみればわかるが、映画とは映像と音楽の結合であり、これら2つは視聴者の前では切り離されることなく常に同じスピードで進む。映像だけが速く進んだり、音楽だけが遅れたりすることはない。仮に、1秒でも映像と音楽がずれれば、たちまち違和感だらけになってしまう。
だが、文章を読むスピードというのは、個人によって異なる。
「そのとき、Aは知ってしまった!」という衝撃の展開があったとして、この文章を読者が読んだ瞬間に適切な効果音を習す程度のことは技術的にできるかもしれないが、少なくとも現段階では、読者の読むスピードに音楽を自動的に合わせるというのは不可能に思える。仮にできたとしても、それが楽しい読書体験かと言われると、首をかしげてしまう。文章を読んでいるときに勝手に音楽が鳴ったら鬱陶しくなりそうだ。
というわけで、Kindleで文章に音楽を融合させる、というのはまだまだ現実的ではなく、旅行記にサウンドトラック、というのも絵空事ではあるのだが、ここからは自分の本を読んでくれた物好きな人たちに向けての、おまけのような内容だ。
2005-2006年当時、各国で聞いていた曲を旅行記のトラックとして、バシバシ列挙していきたい。
イギリス James Blunt "Goodbye my lover"
ロンドンのあらゆるところで流れていて、失恋していたわけではないのに何かを失ったような気になった。
フランス Bob Sinclar "Love Generation"
大晦日、パリのクラブにフェデリカたちと行ったときに流れていた。
アンドーラ Manu Chao "Desaparecido"
フランスからアンドーラへ向けて車を走らせていた際、チェコから国外追放された男、ダビッドを拾った。幽霊のような男。
スペイン Daddy Yankee "Gasolina"
当時中南米を中心にレゲトンが爆発的に流行っていて、やや聞きすぎて辟易したこともあったが、スペインでもよく聞いた。
モロッコ Chemical Brothers "Galvanize"
タンジール、フェズ、カサブランカのメディナを彷彿とさせる。ちなみに、ミュージックビデオはスペインのマラガで撮影されたらしい。
西サハラ The Beatles "The Inner Light"
壊れそうな車の中、壊れかけたCDプレーヤーで、西サハラの夜に1人で聞いた。シタールの響きが砂漠の星空にぴったりだった。
モーリタニア Alpha Blondy "Black Samurai"
カナリア諸島への密航を企てるセネガル人、サルの家に滞在中にカセットテープで聞いた。コートジボワールのレゲエ歌手であるアルファ・ブロンディが、自身をブラック・サムライ(黒い侍)と日本語含め数カ国語のチャンポンで歌う凄い曲。
セネガル Gnarls Barkley "Crazy"
目的地にたどり着き、喪失感を覚えながら聞いていた。「アーティストは狂っていないと取り沙汰されない、それなら狂った自分たちを演出してやろう」との冗談から作られたという曲。自分は極めて普通の人間であるのに、「もっと狂わないと」と焦りを感じていたのかもしれない。
さて、こうして書き終えてみると、このnote自体が文章と音楽の融合であるような気もしてきた。note、なかなか可能性が広いじゃないか。
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