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猫がいたから追いかけてみた。猫はいろんな道を知っていた。知らない道を通るたび、近所のはずなのにまるで知らない町にいるように思えた。ぼくなんかよりも猫の方がこの辺のことについてずっと詳しいみたいだった。徐々に知っている景色が少なくなって、自分がいる場所もだんだん分からなくなってきた。ふと見ると周りの家がぜんぶ猫で出来ていて、魔法が解けたように一斉に走り出した。たいして広くもない路地で大量の猫が我先にと一箇所を目指して急いでいる。前後をそんなやつらに囲まれているせいで、ぼくは猫を追いかけているのかそれとも別の何かから逃げているのか分からなくなった。

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