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母が化粧をしながら誰かと話している。とはいえ家の中にはぼくと母のほかに飼い猫しかいないのだから、単に独り言を言ってるのだと思っていた。ところが段々と母の声が激しくなってなにか口論のようになってきたので、さすがに放っておけなくなって様子を見にいった。「誰と話してるの」と聞くと、「うるさいわね」と鏡の中から聞こえてきた。「いまアドバイスしてるんだからあんたはどこか行ってなさい」「あんたとはなによ人の息子に向かって、大体あんたのアドバイスなんか要らないのよ」「わたしのアドバイスを聞かないからいつまでも経ってもブスのままなのよ」などと延々口論が続くので、なんなんだよと思って猫を連れて部屋を出た。