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大男がものすごい剣幕で怒鳴り込んできた。何事かと思ったがあまりに興奮していて何を言っているのか要領を得ない。争いは苦手なんだよなあと思いながら、どうせ殴られて相手が満足して捨て台詞を残して去っていくんだろうそこまで我慢すれば終わりなんだろう早くやれよと半ば冷めたような諦めの目で見ていた。その態度が相手の興奮を助長したようで、呼吸がいよいよ荒くなってきた。殴られると思った瞬間に大きく膨らんだ鼻がなにか白いものを吸い込んだ。大男の動きが止まった。そして苦しそうにもがき始めた。真っ赤だった顔がだんだん紫に近寄っていった。「ケケッ」と言ったのがはじまりだった。大男の目はあらぬ方を向き、口はだらしなく垂れ下がり、体はぐにゃぐにゃし始めた。そして最後には地面にひっくり返って気が狂ったように笑い出した。