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「近くにコンビニある?」と聞かれて答えたお店が潰れていた。いやそこが潰れたことは知っていたのだけど、よく通る道でもなかったからうっかりしていたのだ。行ってみると、当然看板もなく白い壁が目立っていた。「ごめんここ最近潰れたんだった。忘れてた」と言っても友人には聞こえていないようだった。彼は自然に店に入っていった。自動ドアもまだ機能していた。冗談かと思って笑って見ていたけれど、彼は出てこなかった。仕方がないから自分も入ろうと思ってドアの前に立ったが開かなかった。店がなくなったのに自動ドアだけ残っているというのも変だとは思ったのだ。それで一気に怖くなった。手で開ければ開くのかもしれなかったが、その勇気はなかった。ラインを送っても返事がない。どうしようどうしようとそればかり考えて入り口のそばで待っていると、数時間経って彼が出てきた。手にはなにも持っていない。ただ、とてもしあわせそうな顔をしていた。

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