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やっと夢が叶ってプロの野球選手になれた。大勢の観客に見守られながら迎えた初打席でぼくの打ったボールはぐんぐん伸びてバックスクリーンに入った。やった!と思った瞬間、場内から歓声が消えた。ピッチャーもキャッチャーも審判も消えた。気がつくと球場には誰もいなくなっていた。ぼくは騙されていたのだろうか。部活を頑張って甲子園でも結果を残してやっと立てたプロの舞台だった。それは間違いない。それでもここにはもう野球なんてものはなくなってしまった。これも確かなことだ。野球がない以上、ぼくがやっていたことは棒切れを振り回していただけに過ぎない。ぼくはなにも成し遂げていない。成し遂げていないんだ。