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歩くことがとても難しい。難しいと感じているのはもしかしたらぼくだけだろうか。滅多なことでは転んでいる人を見ることはない。皆無ではないとはいえ、せいぜい転ぶだけの話だ。玉乗りは曲芸だろう。玉がどれだけ巨大でもそれは変わらないはずだ。ぼくは油断したらここから転げ落ちる気がしている。心が休まる時がない。おしゃべりに夢中になっている女子学生たちやスマホを見ながら歩いている会社員たちはどれほどのバランス感覚を持っているのだろうか。彼らの驚異的なバランス感覚は羨ましくもあるが、いっそのこと地球から転げ落ちていなくなってしまったら気持ちが晴れるような気がしないでもない。