読書レポート『BLITZ SCALING』(リード・ホフマン 著)
全体所感
著者がベンチャー経営者(ペイパル、リンクトイン)と投資家(フェイスブック、Airbnb、ウーバー他)の両方の視点を持っており具体的な成長戦略を知ることができた。
昔、「ゼロ・トゥ・ワン」(ピーター・ティール著)を読みました。
スタートアップ関係者は具体的な事例を確認できる良書。
近い空気感だった。
※ピーターがペイパル創業者のため当然ではあるが…
「ブリッツスケーリング」とは…、
└”企業が信じられない速度でスケールアップするための一般的なフレームワーク”
”特定の手法”の両方を指している。
シリコンバレー、中国に代表される現在のテクノロジー主導の世界においては、”電撃戦”(効率<スピード)こそがハイリスク・ハイリターンの戦い方で重要。
ただし、スピードだけではなく綿密な分析(ビジネスモデル)やインフラ整備(ヒト×モノ×カネ)も成長要因として忘れてはならない。
最終的に文化、責任感といったソフト的な側面がブリッツスケーリングの遂行に不可欠であるといった主張についても、重要であることが興味深い。
一方、中小企業やスモールビジネスでは無理にブリッツスケーリングを行うと現在の顧客価値に傷が付いたり、雇用の安定性を失うこともあるため絶対正義ではない。
→自身のビジネス規模をどこまで伸ばし、顧客にどこまで届けたいのかという観点が大事
スタートアップ(社会のペイン、負を解決する)、既存市場の期待値が大きい大企業や
新規事業はスケーラビリティが求められるため、ブリッツスケーリングの考え方・手法の活用が重要。
1.学んだこと
● スケーリングのタイプ(P.45)
確実性を標ぼうする「ファーストスケーリング」ではなく、不確実性を念頭に置いた「ブリッツスケーリング」の違い。スピードを最優先し効率性を犠牲にする、その犠牲が有効だったか検証する暇さえも惜しむ
→ここまでの意思決定力は相当ハイリスクと感じるが、従来の伝統的な企業体質で
内向きに固定化が進むとできない。
日本企業はレガシー体質で欧米との差はこういったところか。
成長曲線についても、第二の曲線を次々と作る(国を問わずどんな企業でも当てはまる)
※フェイスブック、アップル
●3つの基本(P.51)
①攻めと守りの要素
②前向きなフィードバックサイクル
(先に規模の拡大→競争上の優位性→さらなる規模の拡大)
③巨体な利点がある一方でハイリスク
ライバルがついてこれないスピードが大事。二番煎じでは×。
同時に、厳しい選択と大きな犠牲(社員の雇用含む)も含めて実施する覚悟が必要。
●社員数による5つの企業ステージ(P.61)
第1ステージ:ファミリー(1~9)
第2ステージ:部族(10~99)
第3ステージ:村(1,000未満)
第4ステージ:都市(数千人)
第5ステージ:国家(一万人以上)
※ただし、社員数で分類するのは一つの指標に過ぎないことも認識しておく、という点に納得
(カテゴライズするには、企業内の問題や事情はもっと複雑に絡んでいるから)
→サービスの拡大もあわせて重要
●ビジネスモデルのイノベーションを大事にすること
どれだけ良いプロダクトを作ってもビジネスモデルがイケていないと失敗する
(スタートアップが犯す間違いで多い)
”真の天才はテクノロジー・オタクではなく、ビジネス・オタク”
●戦略のイノベーション
「ムダ」と思える資金を大胆に投じることも大事。
└シリコンバレーが他のエリアより巨大企業を生んだ背景は、
リスクを引き受ける意欲が強かったこと
※ウーバーの実例
(顧客を集めるための割引、ドライバーを惹きつけるため給与割り増し)
●成長を最大化する4つの要因(P.79-)
①市場規模
②ディストリビューション(ユーザーに届けるまでの流通)
a)既存ネットワークの活用 b)バイラル性
③粗利益率の高さ
④ネットワーク効果
①TAM(利用可能な市場の合計)の見積もりと将来の成長予測は
不確定要素が高い。
実際は他市場への拡大を考慮し、道筋を立てる。
②モバイル時代の現代はa,bの両方を意識する。
ユーザーとのタッチングポイント、獲得手法の検討。
バイラルはインセンティブが重要。
口コミを大事にしているならリテンションが重要。
(カスタマーサクセス、UI/UXなども大事だろう)
ブームを起こすためには、最初はフリーミアムにすること。(確かに)
③SaaSは販売数量に関わらず複製コストがゼロのため、
AWS、フェイスブックは好事例
(粗利益:60-87%)
※テクノロジー系だけではなく、ZARAのような別業界で
ブリッツスケーリングを達成した企業にも通ずる
共感点
→「粗利益が低い製品が高い製品より売ることが簡単というわけではない」
└だったら、粗利益は高い製品を売る方が良いに決まっている
④正の外部性
→サービスのユーザー数の増加
→ネットワーク効果の増大
→そのサービスにプラスのネットワーク効果がまた働く
⇒スマホが浸透し世界とつながることができる
<5種類のネットワーク効果>
1.直接的
2.間接的
3.双方向
4.ローカル
5.互換性
⇒どれも重要だが、SaaS系は3と5が大事と思う。
※ユーザーのつながりによる派生集客、他サービスと
の連携やシームレスなど
同時にユーザー観点が大事
サービスを利用するかどうかを決めるときに重視すること:
『現在の普及レベルと将来の普及に対する期待』
※大勢のユーザーが集まると予測するとサービスの価値↑
”ボウリングピン戦略”
(ニッチな市場に焦点を当て足場を築き周囲へと拡大)
●確立されたビジネスのパターン(P.114)
必ずしもその通りにしたら上手くいくわけでもない。
①物質的な製品よりソフトウェアを重視すること
→新しいバージョンアップ製品を素早く提供できる
②プラットホームとなるとその業界のデフォルト化する
(例:Appleストア、Amazon)
→関所、通行料、利用料の徴収が容易となる
③フリーミアムモデル
→とにかく無料はバイラル性、ディストリビューションに超強力!
※ユーザーは無料、広告主から徴収(フェイスブック)や無料で
ユーザー獲得し大規模なユーザーベースを構築。
後から利便性を求めたユーザーを対象にマネタイズ
(ドロップボックス)
④マーケットプレイス
→需要と供給がダイナミックに均衡する点を見出す能力
(例:アドワーズ広告)
⑤サブスクリプション
→オンプレからサブスク(SaaS)※Salesforce
大企業からスモールビジネス企業まで幅広い市場に拡大できた
(ライセンス量もきめ細かく任意で決められる/柔軟)
⑥デジタルグッズ販売
→LINEスタンプ、ゲームなど課金対象。
エンゲージメントが高くなれば有効。
顧客の習慣化に寄与すれば大きい、だろう。
⑦フィード
→フェイスブックに代表される”ニュースフィード”
(人間の本能【友達が今何をしているか知りたい】を利用しており
強力!)
加えて、広告ターゲティングが大事。※Google
【企業分析】
・リンクトイン→企業向けにエンタープライズサブスクリプションの開発(P.143)
スピード重視で市場の反応をキャッチ。
「マーリン」と呼ぶツールで作業の多くを自動化。
適切な体制構築は大事。
・Amazon→買い手が増えれば売上が増える、手数料が増える。
フルフィル関連の固定は売上が一定量を超えれば固定コストのため、
損益分岐点オーバー後ははずみ車の法則に乗る。
※一番はAWSに代表されるネットワーク効果が利益率を押し上げた
・Google→市場規模(アドワーズ事業の拡大)、ディストリビューション(アンドロイド買収、ファイアフォックスとの提携)もさることながら、互換性サービスが興味深い。
ユーザーの”面”を取りに行く横ぐしサービスの拡張性は大事。
※Google関連のドキュメント(スプレッドシート)
└全員が使用する※教師→生徒→両親
・フェイスブック→PCからモバイルへの転換(全リソースを投入)
※プロダクトマーケットフィット(PMF)した
(スマホ/SNSの将来性をザッカーバーグが早い段階で見抜いた)
└ワッツアップ、インスタの買収
(月間17億人のアクティブユーザー数、モバイル広告は
全社広告収入の81%)
●ブリッツフェイリング【=急激な失敗】(P.168)
PMFできていない、、ビジネスモデルが上手くいっていない、市場が急成長に向いていない場合は早まったブリッツスケーリングは失敗に終わる
→当然と言えば当然。ただし、早合点はやはり失敗の元。
※他企業がすでにクリティカルマス(最小限必要な普及率)の優位性を持っていると 成功しない。
※ただ、市場がどんな状況であっても成功する可能性もある。
市場環境によって相対的に戦略を変える覚悟は必要(当然か)
・他の会社がしないことをする
・候補者はスキルよりミッションと一致するか見極める
・ビジネスのルールを守ることが前提。実行できるから、やるではない
(ただし、素早く動く)
<ブリッツスケーリングをやめるときの参考指標>
◆成長速度の低下(市場・ライバルと比較して)
◆ユニットエコノミクス(顧客あたり粗利益)の悪化
◆従業員ひとりあたりの生産性の低下
◆管理コストの増加
●各ステージで創業者の役割はどう変わるか
第1ステージ(ファミリーサイズ)
→ブリッツスケーリングの手立てを自ら考えること。
第2ステージ(部族サイズ)
→生産性を高めるようチームの運営を助けること。
第3ステージ(村サイズ)
→組織の方向づけ、全体デザインの設計、
効率化するための展望を享有すること。
※困難な時期→外部から経験あるエグゼクティブを採用する必要あり
第4ステージ(都市サイズ)
→高度なレベルで組織の目的と戦略を決定すること
第5ステージ(国家サイズ)
→新しいプロダクト、ビジネスモデルの設計すること
(次のブリッツスケーリングを構想)
IXは第2ステージ。社員ひとりひとりの役割、生産性が重要かつ、
全体的な指揮統制もかなり大事なフェーズ。
ここがワークしないと第3ステージはない。
●マネジメントのイノベーション
<直観に反する9つの法則>(P.261)
①カオスを受け入れる
②役に立つ人ではなく、たった今役に立つ人を雇う
③「悪い」マネジメントを容認する
④恥ずかしいプロダクトを公開する
⑤火は燃えるがままにせよ
⑥スケールしないことをしよう(その場限りの仕事)
⑦顧客を無視せよ
⑧資金はあり余るほど調達せよ
⑨カルチャーを進化させろ
②→個々の幹部をスケールさせることは、
会社が次のステージに到達したとき
④→MVPを活用する
(目的:市場に早く出れば改善に必要なFBを早く手に入る)
有料×無料、個人×企業での修復可能、致命的境界線
・無料の個人向け製品…もっとも許容が許される
・無料の企業向け製品…より洗練が必要。
※無料でもプロが利用する製品のハードルは高い
・有料の企業向け製品…さらなる洗練が必要。欠陥は許される。
※その製品を使う理由が明確であれば問題ない
・有料の個人向け製品…欠陥が一番許されない。
⑤→どの火を燃えたままにするか?見極める
(放置していると会社が倒産するものを消すことに集中する)
※ディストリビューション(上位のものほど優先度高い)
プロダクト
収益モデル
運用
競合
次に来るものは何か?
⑦→自身の仕事が遅れない前提であれば顧客の相手をする。
遅れる場合は、ブリッツスケーリングに重要なスピードを
遅らせるリスクがある
⑧→調達すべき金額(1.人件費 2.営業による顧客獲得コスト)
⑨→「ネットフリックスファイル」のようにクレドみたいなものも
効果的か。
※具体的な指示やルールがないときどう行動するか左右する重要なもの
<質問リスト>
■あなたの会社は何をしようとしているのか?
■どうやってその目標を達成しようとしているのか?
■目標をもっと早く達成するために、どれだけのリスクを負えるか?
■価値観を天秤にかけなくてはならないとき、何を優先させるか?
■どんな行動に基づいて人を雇い、昇進させ、クビにするのか?
※強いカルチャーの会社はこれらの質問に答えられる。
→単なるBS/PLの理解だけではなく、
何のために取り組んでいるのか事業的な発想や
大事にすることしないことの判断軸の統一など
普段のコミュニケーションで必要
(ミッション統一する必要あり)。
「大事なことば」、数読、勉強会、1on1などetc…
●責任の取り方
①今すぐ断固たる行動を取る
②短期的な行動は今すぐ起こせ、長期的な行動は後に回せ
③今すぐ問題を認め、後に行動を起こすと約束せよ
④燃えるがままにせよ
→企業として、③は約束をするということが大切。④は未知で非体系(局所的/影響範囲は狭い)は放置しても良い。問題はそのリスクが体系的か非体系的かを見極めること。