『龍が如く8』レビュー:シリーズファン向け過ぎる物語の魅力と問題点

校正:池田伸次

※本稿では『龍が如く8』のネタバレと『龍が如く7』の大きなネタバレがある点ご留意いただきたい※

『龍が如く8』の発売日は2024年1月25日で「龍が如くスタジオ」が開発を担い「セガ」が販売元を受け持ったアクションRPG。そのキャッチコピーは「世界一、運が悪くて世界一ハッピーなヤツらの物語」。ウリはダブル主人公で前作から続投となる春日一番と、あらためて語られる桐生一馬両方の物語がある点だ。そしてその比重は桐生一馬の方がずうっと重い。
私は龍が如くのナンバリングは全てクリアしたが、「龍が如く7外伝」と、パラレル春日が主人公の龍が如くONLINEはやっていない。その視点からストーリー面でいえば今作はシリーズの集大成としては傑作。しかし作品単体としてみれば駄作だろう。物語はシリーズファン向けに寄せすぎており、全員集合のお祭り感を楽しめるか、桐生という人物を知っているかで評価が大きく変わる。また、全体を通して今作の初登場キャラ達は魅力が少ない。

今作から仲間になるキャラ達のビジュアルや性格も前作キャラと若干被っており、『KingGnu』の「井口理」がモデルで、作中タクシーの運転手をしているトミザワはバランサー的な性格で、仲間の中で常識的な人間代表だ。トミザワと同様にリアリストでまとめ役として扱われている人物がナンバ。こちらも元となるモデルがおり「安田顕」が演じている。千歳は財閥のご令嬢だが気が強く、おてんばな性格で、気の強い性格が前作から引き続き登場する紗栄子に似ている。

トミザワと千歳は最初どちらも春日の敵として登場するが、彼らはのちに仲間になる。しかしその後に春日を救うほどの行動は出来ていない。前作の仲間たちは春日の命を救ったり、自身の正義が春日の目標と一致していたりで、キャラクターとしての”軸”が分かる魅力的な仲間が多かった。今作は前作と比べて魅力が少ないのが気になった。

今作の敵で言えばボス達の”芯”部分が無く、金と権力程度しか動機がないなどが気になった。唯一今作で魅力的なボスキャラは山井だろうか。彼は東城会直系の元組員だったが、ヤクザを辞めた理由が『龍が如く7』(※以下「7」表記)で行われた東城会と近江連合の大解散が原因かのように思われるがそうではない。愛した女のために人を殺し、その女が自分の身の可愛さに山井を売るが、それを山井は甘んじて受け入れあえて騙された。そして追われる身となりハワイに逃げるという筋書きだ。誰かの為に犠牲になる、龍が如く的な”漢”のキャラクターだ。新キャラのボスで挙げると山井一人程度になるほど魅力的なキャラは現れなかった。 

今作の導入「元暴5年条約」


さて今作のストーリーだが「春日一番」は前作の活躍から『ハマの英雄』と呼ばれ、裏では『ハマの駆け込み寺』とも呼ばれている。冒頭はハローワークで契約社員となった春日が仕事の紹介をしているシーンから始まる。

春日はハローワークで”元”ヤクザの「佐々木」という人物の対応をすることになるのだが、彼は態度は悪く職歴偽装までしている厳ついチンピラで、彼曰く春日は元ヤクザ達に割のいい仕事を回している「ハマの駆け込み寺」と裏で噂されているという。春日は知らないとシラを切り追い返すが、佐々木は再度ワイロをもって春日に接触する。駆け込み寺に仕事を紹介してもらう為には金がいると噂には聞いていたらしい。佐々木がここまでするには理由がある。『元暴5年条約』だ。

ハマの駆込み寺、春日

簡単に言えば暴力団員は辞めたあと元暴力団員となってから5年間は口座開設はもちろん、家すら借りられないので携帯も持てないという条約がある。これでは就職など不可能に近く、佐々木は藁にも縋る思いで「ハマの駆け込み寺」に来たのだ。後ほど、ハロワを退社した春日のもとに佐々木が現れた。佐々木は噂では駆け込み寺はタダでは仕事を斡旋してもらえず、5万で仕事を回してもらえると聞きつけており、春日に金を渡してきた。春日はもちろん金を受け取らず、例のごとく喧嘩が始まる。喧嘩の拍子に佐々木の金がどぶ川に落ちてしまう。春日は咄嗟に川に飛び込み、佐々木の5万を必死に集める。駆け付けた佐々木に5万を手渡した。

「5万で仕事を斡旋して貰える」という話はガセだったと思い、意気消沈する佐々木。彼は、なけなしの5万で最後の頼みの綱として春日を頼りに来たのだ。

しかし春日が金を受け取っていたのは事実で、その理由は「斡旋料」ではなく「スマホの契約代金」だった。春日が金を必死に集めている姿を見て、最初はくすねられると思っていた佐々木だが、それが違うと知った。自分が情けなくなった佐々木は、これを機に改心することとなり、晴れて仕事を紹介してもらうことになる。彼は正直に過去の経歴や賞罰の欄がない履歴書に窃盗の前科まで記載する。

彼が紹介して貰った仕事は万引きだった

万引きとはいっても、実のところ仕事内容としては防犯関係の会社で調査としてセキュリティの穴を探すというもの。経営者から依頼を受けて、店のセキュリティが正常に機能しているかを確かめるため、店舗には秘密にした状態で万引きを行う。そして万引きが成功したらセキュリティの欠陥をまとめて経営者に提出するのだが……プレイ時の私は、経営者からの依頼とはいえ従業員に通報される可能性があり、この手法で続けるにはリスクが大きい点が気になってしまった。そしてその防犯関係の会社を設立したのは、春日が前作「7」で苦楽を共にした仲間である「足立宏一」である。

元ヤクザたちの救済とアンバランスな恋愛描写、悪意のあるインフルエンサー

元ヤクザ達全員に仕事を斡旋して救うこと、これは前作「7」にて春日の実の父であり、ヤクザとしても親である「荒川真澄」が生前、春日に対して話した「行き場のないヤクザに、いずれなにかしら合法的な受け皿を作ってやりたい。」という想い。これが今作、春日が目指す目標であり『荒川真澄のやり残したこと』でもある。

ここまでの掴みは良かったのだが、唐突に春日と紗栄子の恋愛物語がしばらく続き、1章の半分近くは尺を使う。正直、ダイジェスト形式でざっくりとやるか、もしくはサブストーリーのような形でメインと分けるかして欲しかった。春日のデート服を選ぶだとか、デートスポット探しだとか無駄に尺を使うのだが、メインストーリーから大きく外れているので蛇足だと感じる。メインとして入れたかった理由は物語のシメとしてカップリングの成立のためだったろうが、本作で大きな扱いとなる「元ヤクザ問題」の話を押しのけてまでやることではない。デートの失敗で仲たがいするが、その後の関係はEDまで話が進展しない。

そしてデート後に元ヤクザ問題の話に戻るのだが、春日は急に詳細な理由も聞かされず契約終了を告げられる。その理由は裏で元ヤクザに対して、個別で仕事を斡旋していることを隠し撮りされており「多々良ひそか」という登録者500万の告発系VTuberに万引き画像をネタに、ガセ情報を広められていたからだ。

彼女はこれまで、信憑性の高いネタを紹介するチャンネルで有名となっており、過去にそのチャンネルが切っ掛けで未解決事件が解決したこともあったという。だが春日に関してはデマを広めて陥れようとした。

春日がターゲットになった理由は、中盤に仲間となる女が何度も春日を騙し、裏切り、その最後にターゲットとなったことで詳細が分かる。これがきっかけで春日は契約を切られる。医療系の仕事をしていたナンバも男女関係のもつれから退職、足立は企業秘密とははいうものの、会社への銀行からの融資を打ち切られて事業を停止することになる。そして彼女のデマを信じる信者は多く、ファンからは”神”ともてはやされている様子で、警察組織が捕まえられない悪に対して、私刑を行おうと信者が春日を狙い始める。

仕事がなくなり、春日は「ハマの駆け込み寺」の噂を聞き自分を頼ってくる元ヤクザ達に謝罪しようと、ハロワに向かう。元ヤクザの中には子供がいる者もいた。春日は謝罪を終えると、佐々木の自宅へ向かう。佐々木は家を引き払う準備をしており、足立の事業が継続不可になったことで、佐々木は会社を退職したようだった。

帰宅後、元ヤクザの復帰を援助することも出来ず暇を持て余した春日の家にナンバと足立が訪問しある噂を耳にしたという。「横浜星龍会が元ヤクザを集めている」。その元ヤクザの中には職を失った「佐々木」の名前も挙がった。まるで兵隊を集めている様子に違和感を覚えた春日達は、勇者パーティーを再結成することとなる。

ヤクザとの関わりは断ち切れない

星龍会に乗り込んだ春日達は最奥で若頭の「海老名正孝」と対面することになる。海老名は服役中の「高部守」に代わって組を仕切っており、鉄の結束を誇る中国マフィア「横浜流氓」(はんぴんりゅうまん)の倉庫を買い取り『ゴミ』を集める仕事をしている。ゴミとはその国にはあってはならない物。大統領の不倫の証拠や、不正な金の移動履歴などを保管する仕事だ。これは表だっては星龍会の組員としてではなく、組を抜けた者に「横浜流氓」倉庫でゴミ処理の「職場」を与えている。

そこには佐々木の姿もあり、最初は星龍会に盃を貰うつもりで門を潜ったようだが、海老名からはカタギのままでいいと言われその「職場」で働いていた。海老名は説明のあと、春日に合わせたい人がいると人を連れて来る。それは無期懲役になった「沢城丈」だった。

沢城は「星野龍平」殺害の罪で捕えられていたのだが、コレは表向き春日達が見た現場の話であり、実際には星龍会の会長室に入った時点で既に星野は死んでいた。真澄の息子であり、沢城の実の息子でもある「荒川真斗」がよこした別の暗殺者に殺されているのだった。沢城は嵌められたのだ。最初から信用などされていなかった。その真実を話さなかった理由は沢城のプライドでもあり、赤子の時に捨てた真斗への罪滅ぼしでもあったのだろう。

生きていた母、そしてハワイへ

後日、沢城は春日を呼び出し、死んだと春日が聞かされていた母が生きていると告げる。真澄は氷川興産の組長の娘との結婚を進められていたが、既に春日の母である「岸田茜」と交際しており子供もいた。激怒した組長は茜と息子を殺すように組員に命じた。真澄は茜に息子を隠すように指示し、真澄に受け渡すため息子をコインロッカーに入れた。

その後、茜は氷川興産に追われ殺されたというのが、春日が聞かされ、荒川真澄が信じていた話だ。だが茜は故郷であるハワイに逃げ伸びていた。沢城はコインロッカーに預けられた子供が春日と真人とで違うことを目撃していた。そのとき、真斗をどう扱うか。自分と同じ組にいる息子を案じるがあまり、沢城は茜を殺そうとしていた。茜は孤児院で施設長として働いていた。茜は孤児院で沢城に会うなり「私は死んだことにしてください」と伝え、沢城は恩情から見逃した。茜が再婚したと勘違いした沢城は茜の希望通り、茜はハワイで氷川興産の刺客に殺されたと真澄に報告した。その後、茜の捜索は打ち切られたが、念のため沢城は茜が里心を起こさないように手紙で連絡を取っていた。そのため、生き延びていることを知っていた。

沢城が呼び出した理由は、息子である春日に会いたいという母である茜からの手紙を渡したかったからだ。これは春日と茜に対しての罪滅ぼしだった。春日は荒川真澄の遺灰を手に、ハワイへ向かうのであった

トレイラーで象徴的だった全裸は意外な理由から


そして今作の購入前に特に衝撃を受けたのがディザートレーラーで見た全裸の春日だった。

最初に見た時はヤクザにでも拉致られてハワイに送られたのかと思っていたが、春日を全裸にした犯人は千歳だった。彼女は春日の母である岸田茜の家政婦だと嘘をついてマフィア組織『バラクーダ』の総帥「ドワイト」からの指示で春日を陥れようとしていた。彼女は一度改心するのだが、後に再度裏切り間接的に春日の仲間を殺すことになる。何度も裏切られる春日は、全裸にされた挙げ句、首にかけている『真澄の遺灰』をとらないでいてくれたという理由だけで千歳の行い全てを許してしまった。

殺された仲間が主要メンバーじゃないからその程度なのかもしれないが、流石にその程度で許していいラインを超えている。もう一人の仲間であるトミザワも春日に強盗をしかけるという最悪の登場で、理由は山井に命令されていただけ。だけど抜け出したかった、と被害者面をかまして春日に助けてもらう。その後は仲間として共に戦いはすれど、目立って大きな活躍はしない。

前作から続投となる仲間のナンバであれば、最序盤で真澄に撃たれた春日を治療し、ホームレスとしての生き方を教えるなど面倒を見ていた。足立に関しては、刑期を終え出所して迎えのなかった春日に、足立自身の目的と被るとはいえ、春日を真澄と合わせるために自分を犠牲にして春日を助けるなど、出だしから魅力の差が出てしまっている。今作で唯一、善意で動いていたのは茜だけだろう。今作のメインストーリーで関わり合う「パレカナ」という宗教団体の前教祖の孫であり、正式な後継者である「ラニ」を救いたいという一心だけで、現教祖の「ブライス」から自分の身を危険にさらしてまで匿っていた。ただし、そこまでする割にはラニを救いたい気持ちは描写されていないため、人によってはマイナスポイントとして挙げられるだろう。

カルト宗教と、信者の危険性、アンバランスな春日と桐生の関係


ブライスも中途半端なキャラクターで、『パレカナ』という宗教団体の代表で表向き善人の顔をしているが、実は裏で信者を囲って自身を信仰させる別の組織を作っていた。その信者を利用して「放射性廃棄物の処理ビジネス」を営んでいたが、実態はハワイから離れた孤島「ネレ島」の地下に核廃棄物が詰まった容器を詰め込むだけというお粗末なもの。エネルギー問題や「宗教の信者」とネット文化で生まれた「配信者の信者」その2種類の信者を物語上で描写した点など、時事ネタに対する嗅覚はさすがとは思うが、今作では上手くそれを活かし切れていない。

信者を拡大することで自身の権力を拡大するブライスの計画は「宗教」の危険性と、人間社会における「宗教」が国にどう影響するかを描くことができたのではないだろうか。特に信者の盲信や組織の支配構造を通じて、現代社会における宗教と政治の関係や、個人崇拝の危険性を表現することができたはずだ。

全体を通して、キャラクターの魅力のなさやストーリーの違和感が多い。それに反比例して、以前までの主人公である「桐生一馬」の話が多くなっている。本来であれば春日一番が龍が如くの主人公になった時点で桐生はフェードアウト、よくてサブキャラで残る程度が理想だが、今作で再び主人公となった。前述した物語の中核を差し置いて桐生の最期となる話を優先している。春日に至っては桐生の舎弟のような立ち回りで引き立て役になっており、魅力的過ぎた桐生というキャラクターを捨てきれない開発陣の悩みが伺える。 

力を失った桐生と聖人すぎる春日の残念な変化

キャラクターとして桐生と春日の違いで大きな点は、桐生は不器用で揉め事があると拳一つで全て解決してきた一方で、春日は前作で選挙に出馬した際に別の立候補者と論戦になり、法のグレーゾーンを突いて舌戦で勝つなど、桐生とは違った良さを持っていた。しかし今作では、桐生が癌になり、大道寺一派により表向き死亡扱いになった桐生は拳1つですべてを解決してきたのとは打って変わって、暴力沙汰を避けがちになった。また、とあるシーンでは春日が解決できない問題を桐生が頭脳戦で解決するなど、春日が知略でも桐生に劣っている場面が見受けられた。さらに春日は懐の広さが常人を超え、前述の通り仲間を殺されても許す聖人君子になっており、何かあれば全て「俺が悪かった」と自己責任を感じる自責思考の塊になっている。私は春日という人間を通して物語を見ようとしていたが、対してケジメをつけきっていない彼女らを許せる春日に感情移入が出来ず残念だった。

アクションが加わった戦闘は前作よりダイナミクスがある

今作は前作通り物語の進行度で仲間が増える。主人公の春日と桐生を含め総勢10人の戦闘メンバーがおり、実際の戦闘は4人で戦う。人数が多く感じるが、途中からハワイで物語が進行する春日のグループと、ハワイから療養のために日本に帰国する桐生のグループで半分に分かれて進行するので、組み合わせの幅は少ない。

前作から戦闘は進化しており以前なら「ライブコマンドRPG」だったが今作では「新ライブコマンドRPGバトル」を採用しており、街にあるモノを武器にしたり、蹴とばしたり敵を吹き飛ばして車にぶつけるなど龍が如くらしい戦闘を行える。転職システムに関しては前作では「ハローワーク」で変更可能だったが、今作では「アロハッピーツアーズ」というレジャー施設でアクティビティに挑戦することでジョブチェンジが可能になる。 

前作からの進化としては、一定範囲であれば移動ができるようになった点が挙げられる。RPGになってからは、ほとんどの技に効果範囲があり、操作キャラから扇状や円形、長方形などの範囲になっている。前作「7」では効果範囲に対象を入れる調整が難しかったが、今作では移動が可能になったことで、自分が狙った位置で攻撃を行えるようになった。そのほかにも、連携要素が多く、仲間に向かって吹き飛ばせば連携攻撃ができる。仲間の近くで通常攻撃を行うことで連携攻撃が発生するなど仲間と共闘をする要素が強くなっている。前作では通常コマンドRPGにおけるMPを消費して使用していた連携にあたる「絆技」を、今作では戦闘中にダメージを与えることで溜まる「絆ゲージ」を消費して発動できるため、使用しやすくなっている。
 
そして主人公の一人である桐生一馬。やはり彼はアクションで殴りまくる印象で、操作するならRPGより自由なアクションを望む者も多かった。その要望に応える形で桐生一馬はRPGのコマンド戦闘だけではなくアクション要素が実装されている。私も開放されたときに興奮した。アクションモードに切り替える方法としては、絆ゲージが最大まで溜まると「絆覚醒」が使用可能になり、一定時間コマンド戦闘から従来のアクション戦闘に切り替わる。操作感としては『龍が如く6』以降から続く「アルティメットヒートモード」をそのまま使え、爽快感のある戦闘を楽しめた。 

RPG戦闘の移動要素は興ざめすることもしばしばある

移動ができることにより、狙った範囲への攻撃が可能になった反面、合わせるためにテンポが悪くなり、さらに移動は時間制限なく行えるため、敵を押し出したり丁度いい範囲に入るまで粘ることができる。殴り合いもせず永遠と睨み合いが続くと、ゲームであることを再認識させられ、興ざめしてしまう。せっかくドラゴンエンジンでシームレス化に成功しており、技術責任者も「コマンドRPGで機能が使われなくなることが悔しい」(※1)というのであれば『キングダムハーツ』シリーズや『FINAL FANTASY VII REMAKE』のようなアクションを中心としたRPGにすれば「6」以前からのナンバリングのファンも納得するRPGになるだろう。

※引用1:
抜粋:―― 「技術ベースで考えるこれからのRPG」とは?
『龍が如く』シリーズは、『ドラゴンエンジン』という内製のゲームエンジンで開発していますが、そこには、これまでシリーズが培ってきたアクションゲームの仕組みが全部入っているんです。人が吹っ飛んで壁に当たるとか、店の中に入って商品をめちゃくちゃにできるとか。コマンドRPGになることでそうした機能が全部使われなくなってしまうことが、本当に悔しかったですし、もったいないなと思ったんですね。それで「リアルタイムで殴ったり、物が壊れたりする仕組みを活かした、新しいコマンドRPGを作ってみてはどうですか?」という提案をしました。

(※1引用元):https://type.jp/et/feature/25374/

桐生のアクションに関してはストーリー面で獲得する話になる。それが「絆覚醒」開放の切っ掛けで、仲間を殺されそうになった時に脈絡もなく「絆の力」を使えるようになった。絆ゲージに桐生のアクションを追加する都合でこのような実装になったと思われるが、開放後は絆ゲージさえ溜まればいつでも発動できるうえに、アクションモードは桐生が一人で自由に動き回るだけで仲間と協力する要素はなく、このモードの「絆」要素とはなにかと疑問を感じた。そもそも総合監督の名越氏が自らインタビュー(※2)で「春日だからこそRPGにできた」と言った。それならばいっそのこと、桐生はRPG要素を消し、全てアクション戦闘でよかったのではないだろうか。この不完全な開放理由のせいで、桐生を癌にしたことも仲間と戦闘をさせるため、無理に作った設定ではないかと邪推してしまう。 

※引用2:
これも春日という主人公で、パーティーというRPGのシステムだからできたことです。ゲームの主人公が変わって、システムが変わって、違和感なくできたという意味では、桐生から春日に変わったことによって得られたものはすごく大きいので、ドラマの膨らみも一風変わった、同じ「龍が如く」というIPでも違う色が出たというのはすごくいいと思いますね。

(※2引用元): https://game.watch.impress.co.jp/docs/interview/1228284.html

戦闘バランスは前作「7」同様に雑さを感じる。属性相性やバフ・デバフ、状態異常など一般的RPGの基礎的な部分はあれど、威力の高い技と回復だけあればよく「レベルを上げて物理で殴る」だけで全てが解決するので味気ないものがある。『ペルソナ』シリーズのような弱点属性をヒットさせた際に仲間とバトンタッチができるような連携要素や、弱点属性でしか倒せない敵などがあれば頭を使ったバトルが楽しめただろう。 
ボスバトルに関してもQTEと演出が付いただけで、ザコ戦と変わらず火力でゴリ押せるので特に盛り上がりがない。ゲームバランスの調整が甘いせいなのか分からないが、最終ボスの演出に対して不満がある。前作「7」のラストバトルでは春日と真斗のタイマンでジョブも強制的にフリーターに変更され(武器の装備できないジョブ)殴り合う熱い演出が施されていた。しかし今作のラストバトルはコスプレした桐生たちが一人を相手にリンチするという絵づらで最悪なものだった。

魅力のあるプレイスポットは今作でも好調

巷で傑作といわれる際に挙げられるのが、ハワイとその周辺のプレイスポットの多さだ。特に作り込みが目立つのが「スジモンバトル」とハワイからイルカに乗って行ける「ドンドコ島」だろう。 

今作のスジモンバトルでは前作で一発ネタに感じた”その筋の者”略して「スジモン」を「お歳暮」でゲットし「スジモンスタジアム」で戦わせて勝ち抜きスジモンマスターになるミニゲーム。名称の付け方は完全にポケモンだが、ゲーム内容としては近年のソシャゲのような内容だった。スジモンは「お歳暮」以外に「スジモンガチャチケット」で入手可能で、同じスジモン同士を合成できる。また、バトルに関しては「攻撃」と「必殺技」の2種類の攻撃と属性相性のみというシンプルな戦闘。ガチャチケットはゲーム中に無料で入手できるので、課金せず手軽にハマれる。ソシャゲのいいとこどりをしたミニゲームだ。

「ガチャピン」と「ムック」がゲスト出演するドンドコ島は『あつまれ どうぶつの森』的なゲームメカニクスに少しバトルを加えたようなシステム。家具や施設をDIYで増やし、リゾート地であるドンドコ島に遊びに来た旅行客を満足させてドンドコ島を発展させていく。また虫や魚を捕まえたり、作った家具や設備を売ったりすることでドンドコ島の専用通貨である「ゼニー」を稼ぎ、家具や設備を購入することができる。ドンドコ島ではアクションゲームの要素が加えられており、春日のバットを振ることで資材を集めたり、敵を攻撃したりすることができる。ドンドコ島だけでも手軽なインディーゲーム並みのボリュームがある。

『クレイジータクシー』が元ネタの「クレイジーデリバリー」はハワイで遊べるプレイスポットのひとつ。元ネタ同様にクレイジーなアクションを行い食事を届けると価格が上がる。特定の場所で春日が派手に飛び回るQTEは見ものだ。

無様に生かされ続ける「桐生一馬」に対しては疑問をはらむ

全体を通してみると、特にゲーム内容として良作だと思うし、大枠の演出には魅力がある。その一方でストーリーは桐生を捨てきれず、物語の半分は桐生の最期を演出するために費やされた。配信者の処遇に関しては納得のいかない終わり方をしており、実は配信者は操られており、操っていた人物は罪に問われているにもかかわらず、配信者は罪に問われることがなかった。また、核廃棄物の問題や元ヤクザの問題は中途半端に終わっている印象で、春日に関しても舎弟のような立ち回りが多く、彼の魅力が薄れているのは残念だった。

桐生は「5」で刺され瀕死になった。この時点で本来なら綺麗に死んでいただろう。しかし「6」で生きのび、こんどは物理的ではなく『桐生一馬』の名前を殺した。それでもファンや開発陣が殺してくれなかった。結果的に「8」で車椅子に座り死にかけの桐生を見ることになった。まだ桐生が生き続けるのなら、更に悲惨な姿になっていくだろう。次回『龍が如く9』では桐生が安らかにフェードアウトすることを願う。桐生をもう休ませてあげて欲しい。

総括

シナリオ面では元ヤクザ問題やVtuberでつかみは良かったが、中盤以降は桐生の物語が大半を占めていたことで、シリーズファンとしては楽しめたが、春日を含め他キャラクター達の描写不足が目立ち、さらに作中テーマになった時事ネタは本作で伝えたいことが読み取れず、物語としては中途半端な幕引きとなった。桐生の最期を無理やり演出しようと躍起になっているようにも感じた。
その反面、ゲーム面では戦闘中に移動が可能になるなど前作から改善点は多く快適に。龍が如く伝統のプレイスポットはかなりの数があり、そのうちの一つであるハワイの「ドンドコ島」に関しては完全な別ゲーを追加しているレベルだ。
全体として前作から進化しているが、ストーリーは雑な部分が目立つ。その点に目をつぶれば、演出や後半の盛り上げ方は上手く、わかりやすい物語展開で楽しめるだろう。

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