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始発待ちアンダーグラウンド「くだらない世界」レビュー



そろそろ2ndアルバムも浸透したのではないかと思いますし、リリースしてからすぐに書いたものを埋めておくのも勿体ない気がしてきたので何のタイミングもないですが、リライトしてアルバム「くだらない世界」レビューを発表したいと思います。

1stアルバムの最遅レビューはこちらをご覧下さい↓
https://note.com/mablues/n/n8e0932d91b55


では行きます。
#1「高電圧反抗少女」
楽曲としては「フラストレーション」と「風街タイムトラベル」の発展形ともいえる彼女らの真っ直ぐなロック魂を体現するリード曲。ブレイクのドラムロールはシビれますね。
「ステューピッド(愚か)」には「クレバー(賢い)」が対位すると思うがそうではなくやはり「反抗(Revel)」であるところにアウトサイダー感がある。すべての大衆概念に反抗するはみ出した少女。「陽キャ」に対する反発ですね(笑)。
いつも彼女らの詩はある種の矛盾が多いのですが、それは人間というものの本質は矛盾しているものなので自然です。自分が何者なのか判然としないことを自覚している矛盾であり、自信があるのか無いのか分からない不安定さの中、ミスター私を傷つけないで、愛があればいいのと希求する非常にセンチメンタルな歌詞ですね。曲の勇ましさとは正反対。そこが「少女」なんですね。
反抗(Revel)というとBilly Idol(Generation-X)の大ヒット曲「Rebel Yell」が思い当たりラウドロックの曲調に親和性があると感じます。これサビが案外似てるんですよ。ビリー・アイドルは今でもこの曲で食ってますから、高電圧反抗少女も歴史に残りますよ。
ロケは大変でしょうが渋谷の切り取ったMVも出色だと思います。


#2「NO!NO!NO!」

初め聴いたときこれは難しいだろうなと思いましたね。
僕個人の印象でいえば、ライブで披露された当初はセットリストの位置にも馴染んでいなかったしパフォーマンスも不安定だったし、フロアの反応も微妙でした。
もちろん全然違う印象を持っている人はいると思いますがそこはそれぞれで消化していきましょう。
まず楽曲的には高速裏打ちのビートで且つ、つんのめり系なのが今までとかなり毛色が違っていて受け取る側がなかなかついて行けなかったと思ってます。あとこれは僕の憶測でしかありませんが、パフォーマンス側も苦労があったと思いますよ。それからシングルとして発表されたタイミングなど。まあ細かい要素がいろいろあったと考えますが僕は当初はこれは難曲だろうなと思いました。
もちろん、彼女ら自身が曲を体得し、フロアが柔軟になっていくわけですが、それはやはり曲の前に「ノー?ノー.ノー!」と煽りのワンクッション入れるアイディアが絶大ですね。この煽りが入ることでフロアは即座に準備態勢が整う。とても良い交差が生まれますね。
一度それが馴染んでしまえばあとはセットリストのどこにでも置けるし、むしろ「指先未来予想図」の和んだ雰囲気のあとにKOパンチとしてNO!NO!NO!放って帰っていく姿は男らしさを感じます感じていいのか分かりませんが。そしてこうしてアルバム中に並べてあると実に彼女たちらしい曲になってます
ビートルズの「抱きしめたい」が差し込まれてる憎い演出。しかもコーラスごとにドラムパターンが変わっていて短い曲の中に颯爽とした工夫が詰まってる。この短さが60年代マージー・ビート・テイストを増している。

前段、少しネガティブはことを書きましたが、今やライブで盛り上がる事必至なナンバーに成長したのはグループとお客さんの掴んだ手柄だと思います。

当たり前のことを書きますが、彼女らの曲はレコーディングされたもののクオリティそのものがとても素晴らしいんですが、ライブで披露されてグレードアップ、或いはまた別種の情動を掻きたてる、演者のパフォーマンス能力の底上げが凄いんですよね。音源は音源で素晴らしい。でもステージは音源の再現ではないんです。しかも虚飾じゃないスピリットがいつもあります。


#3「ギブミーユアキャンディ」
キャンディというのはかなり分かりやすいスラングですが歌詞の中には出て来ないし、あまり性的な示唆は無いですね。
まあ単純に言ってしまえばメンヘラチックな彼女の歌となります。しかもムラタも言ってましたが歌い方がムカつくんだ(笑)。面倒くせーってなりますね。それはちゃんと演出されてて素晴らしいです。投げやりな感じ。でもこっちを見て、みたいな。
「NO!NO!NO!」では「抱きしめるだけなら猿でもできるわ」ってかなり強めに圧が来るんですが、この曲はもっと絡み方がウザいですね(笑)。
これらの曲がどういう順番で書かれたかっていうのは考えてみたいと思ったけど、僕自身が曲を書いてた頃は1作1作独立していたのでまあアルバムでは並んでますが関連性(連続性、物語性)は無いですかね。並べた意味はあるのかもしれない。
楽曲的には80年代のBOW WOW WOWがやってたことに(とても)似てますね。ニューウェーブでトロピカル・ロックという感じです。ムラタが「ジャングルっぽい」みたいなことを書いてましたが、確かに80年代当時はこれをジャングル・ビートと呼んだりしていたので正解なんです。
それとこれもムラタの受け売りですけどインスト音源がとてもいいんですね。それにはちょっと訳があって、この曲は1stアルバム出る前から存在が認知されている「初期曲」でありながら長らく予約特典のインストCDで歌のない音源しか聴くことが出来なかったからじゃないかと推測します。ずっとそれを聴いてました。バンドじゃん!て。
それが一昨年くらいにMVで突然発表されたとき、あまりに投げやりな歌い方なのでムカつきました(笑)。そうか、こういう曲だったのか!と得心しました。


#4「TAKE A TRIP」

僕はこの曲かなり好きなんです。
まずスリーコードのロックンロールであること。鉄板のリフがもともと好きであること。ピアノが入ったことでアダルトな雰囲気が増したこと。
歌詞のある部分は当て書きですよね(怖れをおしゃれと読むところ)。とても因果な愛の歌になってる。そして色香がすごい。だからあまり書きたくない(笑)。
曲は簡単にいうとThe CLASHがカバーした「Bland New Cadillac」の方程式とほぼ同じとなりますが、僕はIggy & The Stoogesの「Tight Pants (Shake Appeal)」の方が馴染みますね。ストゥージズはパンク(の元祖)ですが、それとKenny BurrellやSonny Clarkなんかジャズを並べて聴いている自分としてはこの曲はそのすべてを一度に満たしてくれる曲なんですよ。イギーはジャズもやりますね。

歌詞も特に好きで、「あなたは私の今生きるすべてよ」と言い切る全身全霊の愛の姿。自己肯定感が低かったり相手に対する不信がありながら最後はやはり純粋な愛が残る。ここで歌われる旅(Trip)は現実じゃない。そんなところ。
無条件なんですよ。前段では不安定さがこぼれるんですが最後の本音としてすべて捧げてしまう想いの深さですね。そういう瞬間が愛にはある。

ジャズテイストのある曲をやってるグループは別に珍しくないんですが大概フィーチャージャズなんですよ。味付けとしてのジャズファンクですね。まあこの曲もベースはロックンロールですけど往時(50年代)の雰囲気を色濃く残したオールドスタイルを踏襲してる。
そういう趣味のバンドは今でもありますが歌モノのグループとしては成功している例はあまり無い。そこはヴォーカルに合いの手が入ることで昭和歌謡的要素が差し込まれてるところにもやはり「歌」だなという感じがする。
自分は確かこの曲が発表されたときキャバレーロックって表わしたんだけど、最近はダンスホールロックと名付けました。まあ名付けなくていいのですが。
この曲のキモはクールに始まってクールに終わるところですね。忖度しない。熱くも冷たくもない大人のロックだと思います。


#5「ノスタルジア」
代わりにといってはなんですが、聴いて良し観て良し踊って良しのアルバム収録のこの曲はかなりのキラーチューンなのではないでしょうか。
ライブハウス月見ル君想フで行なわれたパフォーマンスを捉えることに徹したMVは出色です。
曲調に関してはツイートしましたが、1920年代から始まる踊るジャズ。これはアメリカのジャズというよりアメリカ文化(風俗)がヨーロッパで変容して現代に出現したダンスミュージックというイメージです。これもダンスホールロックですね。
それだけだともちろん今日成立させるのは難しいですが、そこに強い歌メロを入れることでグループの音楽性に最良の結果をもたらしています。

レコーディング時期は分かりませんが、この曲の3人の歌唱のコントラストはひとつ完成したという感じがします。このバランス。この色彩。僕は途方に暮れましたよ。どうするの?これから。俺は信じてるって信じてたけど超えちゃったよ。俺どうする?手放す?っていう謎の見送り感さえあります。それくらい素晴らしい。感慨深いですね。

少し冷静になって(笑)、歌詞に関して言うと、香港民主化の闘争というのはソーシャルメディアでかなり拡散されて、その中で表現はちょっとデリケートですが非常にドラマチックな画像がリアルタイムで流れましたね。僕はガスマスク越しにキスをする恋人たちの画像を見て映画みたいだなと思いました。あの人たちはもう今は違う世界に閉じ込められてる。それはイデオロギーを越えて悲劇です。だからこれはポリティカルなメッセージはあるけどもっと根源的には人間の自由を歌ってますよね。自由や望みは勝ち取らなければならない。悲哀を歌うのがブルースです。

始発待ちアンダーグラウンドは一般にはギターロックの印象が強いかと思うのですが、1stアルバムからホーンを入れていて、僕はホーン中心の曲があったら面白いなと思っていたのでこの曲が発表されたときはかなり興奮しました。ホーンが入ってたら面白いと思ってたのはストーンズみたいな入れ方をイメージしてたので、ここまでホーン中心でやると思わなかったし、ジャンプブルースだし、身悶えしました。個人の感想です。


#6「ハレルヤ」
90年代に英国でレア・グルーヴ、マンチェスターサウンドみたいなものが流行りました。
ダンサンブルなジャズファンクでクラブで踊る。日本でも渋谷発ですぐ始まりました。
70年代は新宿のディスコ(ニューヨーク・ニューヨーク)、80年代は六本木のディスコや湾岸の大箱、マハラジャやジュリアナ、ゴールドなんかで老若男女問わず踊ってました。
90年代は趣味性が高くなって渋谷から表参道青山あたりに割と小さい箱で古いファンクのレコードを掘り出してかけるクラブ文化が勃興します。渋谷だとMilky Wayの裏にオルガンバーという小箱があって、僕も時々行きました。まあ俺の話はいいか。

この曲はその流れを知っているとより楽しめる部分はある。別にクラブ文化はどうでもいいですが、そこで流れてた音楽というのはレアグルーヴといって当時再発見されるまで埋もれていた宝物みたいなものだったんですよ。こんないい曲あったんだ!ってみんな思いましたよ。それでThe Stone RosesやHappy Mondaysみたいなグループが出て来て、タテノリのロックではなく踊れるロックというのが誕生していったわけです。
だからこの曲はクラブの要素も取り込んでいて年代的には僕はすごく馴染みやすかった(もう大人でしたけど)。
シングルで発表されたときやったーって思いましたね。歌詞はほとんど分からなかったですが、わざとパーカッシブに歌ってるのは分かりますから問題はありませんでした。むしろ問題はライブで、観れない(笑)。踊りたくてですね。観ながら踊るってあんまりやらないじゃないですか。つまりトランス状態に入るわけですから音を浴びるには視覚をオフにしないとならないんですよね。それでしばらくライブでは彼女らの姿を見てなかった。あるときステージ見たらダンスがカッコ良くてびっくりしました。次の「BABY BABY BABY」にも言えることなんですが、BABYではダルなビートに非常に細かく振りを入れて奥行きを出していて、ハレルヤでは間奏部分のダンスにゼログラビディな感じ…だんだん意味が分からなくなってきた。無重力感というか浮遊感があってとてもスペイシー(語彙)なんです。
この曲は最近、プロデューサーの安井さんがリミックスしたりしてそのあたりもDJぽくていいですよね。可能性を感じます。


#7「BABY BABY BABY」
最大の問題作ですね(笑)。
ダブをやるんだ?というね。ライブでダブやるの?っていうね。
曲は最高ですよ。これはレゲエフォーマットですけどチルアウトの要素が多分に入ってますね。ここまでくると完全にクラブですよ。「ハレルヤ」までダンスフロアで目一杯踊らせてこの曲でチルアウトするわけですから。アルバムの曲順が完全にクラブ。俺得クラブです。
始発待ちを聴くようになって、やはり誰しも次はレゲエあるかなあって思ったと思うんですよ。でもやらないよなと。やるんだ!しかもダブだ!驚きですよ。
さらに、この曲は長尺なので当初はそれほど披露されないだろうとメンバー自身も言っていたにも関わらずやるやる。お構いなし。それでぜんぜんフロアは冷えない。むしろ籠った熱気が充満する濃度の高い空間を作ることに成功しています。
これは曲の強度とパフォーマンスの高さ、セットリストの組み方すべてがとても洗練されているからだと思います。この「加減」。これは今までの経験をきちんと積み上げてきた結果得られたものだと思っています。


#8「くだらない世界」
ラストチューンはこの曲で決まりという誰もが納得の選曲ですね。
楽曲はシューゲイザーとなりますが、これまでいろいろジャンルを書いてきましたけどこれらの音楽って欧米だと割とヴォーカルが弱いんですよ。日本のロックというのはそのあたりはガラパゴスで歌メロがすごく強いですよね(もちろん違うものもあります)。ここは歌謡曲J-POPや文学ロックだっけ?そういうものの微妙な地域性というものを感じますが、やっぱり歌メロがいいと燃えますよね。

ただ、この曲はシューゲイザーではあるんだけどそれだけじゃ語り足りないと思っていた。
それはやはりヴォーカル(メロディ)の強さで、そこで頭に浮かんできたのがPhil SpectorがプロデュースしたIke&Tina Turnerの「River Deep, Mountain High」でした。つまりこれはゴスペル。ライブで観ると分かる。最後に彼女が歌い上げるときまさに天空へ昇るような高揚感がある。

くだらないのに何故素晴らしいのかというと、タイトルに反して人間讃歌になってて力強く希望が歌い上げられるからですね。
今はズタボロだけどまだ君と僕でっていう。笑い明かしても泣いてもいいよねという全肯定が歌に入っているから高揚し解放される。これがステージでラストに披露されるのを喜ぶ人は多いんじゃないかな。多幸感がある。

以上です。

後は蛇足。


僕が2ndアルバムで驚いたのは特に「ノスタルジア」で、特に特にアスミィのボーカルのピッチなんですよ。これは「BABY BABY BABY」にも言えますが、本アルバムはアスミィの歌声が大きくフィーチャリングされた記念すべきアルバムなのですが、そこでの彼女の歌の「ピッチ」。タイム感。これなに?このジャスト感心地良い。って思ってます。
これは言ってしまうとムラタがそこの先を行ってて、彼女は彼女しか歌えない艶やかな歌い方を体得しているし、オクヤマさんの声色のコケティッシュさというのも確立されていてこちらはもうそれの最先端を受け入れるだけなのですが、アスミィの場合は本アルバムで初めて聴けた、と僕は思っているのでとても嬉しいです。「ノスタルジア」の項で書きましたけど、これで3人のコントラストが揃いました。


で、ここからは僕の完全な個人の趣味なので各自それぞれでみんな持ち寄ろうよと思いますが、僕は「BABY BABY BABY」はアスミィ曲だなって思ってます。まあ、これは異論はあまり無いんじゃないですかね。
そうなるとオクヤマさんは?となると、僕は「HELP ME」と「外にいた青」なんですよ。
「HELP ME」は実は自分でもよく意味が分からない。でも何となくオクヤマナンバーとして懐に入れてます。「外にいた青」はそれぞれのパートでどれも(拙くて)ぐっとくるんだけど特にオクヤマさんの「私、バカだから」からの件で泣かない日はないです。電車乗っててもバス乗っててもぐしゃぐしゃに泣くので外では聴かないようにしてるぐらいです(笑)。
ムラタに関して言うと、牽引役であるがためにどれかを選ぶというのは難しいというのはあるのですが、実はあるんです。
僕は「ユルサレナイ」一択。僕にとっては始発待ちアンダーグラウンドの粋というのは「ユルサレナイ」にすべて込められてと思ってて、だからといって他の曲がどうという話ではなく、あの曲で既に完成されていたムラタの歌唱の艶やかさのさらなる深みというものをずっと聴いていたいというのが出発点で到達点なのかもしれないです。


なので、この疫病禍に発売が延びたり紆余曲折ありながら無事2ndアルバム「くだらない世界」が世界リリースされたことは僕にとって至高の幸福であった2021年の思い出です。



ありがとうございました。


2022/01/20 mab


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