アムスの記録
これは1995~6年でインターネットが今ほど普及する前の話。
俺はまだまだ若かった。
アムスは最終目的地で、その頃の俺たちはまったくの無計画で宿の事前予約をして旅行するという発想がなかった。
(列車の切符はどういうふうに買うと安くなるとかはマシェリがちゃんと調べていた)
パリ北駅から列車に乗り、ベルギーのブリュッセルやアントワープを回ってオランダに入りアムステルダムにたどり着いた頃には、という話は割愛する。
中心地的な所、確か旧教会前に広場があって、駅からそこまで歩いたのだが他の都市と明らかに違ったのはバックパッカーの数だ。
みんながその広場(中心街)に向かってぞろそろ歩いていくのだが揃いも揃ってバックパックを背負ったヒッピーのような風体の連中ばかりでこれから共通のフェスにでも行くかのようだった。
季節は夏。当時のヨーロッパの夏はカラっとしていて過ごしやすかった。俺も気楽な短パン姿だったと思う。
中心街に着いて広場に行くと夥しい数のバックパッカーが集まっていて通りにはコーヒーショップが軒を連ねていて賑わっている。
さっそくアムステルダム名物のコーヒーショップを試してみたいものですが。
ちょっと裏道に入ってみたくなるのが人情というもの。
表通りから外れて観光客相手の店が途切れた所に素っ気なく開いている間口の狭いコーヒーショップに入った。
そこは、髭面のおっさんがひとりでやっている小さな店でカウンターの向こうから不愛想な出迎え。
奥のソファー席にはバックパックを持ってなくストリート系の格好をした明らかに地元民の若者二人がストーンした目でこちらをじんわりと眺めている。
カウンターの席に座ってメニューを見たが、産地かブランドか表記を見ても何を基準に選んでいいのか分からないのでてきとうにオーダー。
程なく出てきたのは小さなパケに入った細かい葉っぱの屑。
過去に巻かれたものは回ってきたことがあったが、自分でジョイントを巻いたことはなかったので、これをどうするのか当時はまったく分からなかった。
それで軽く途方に暮れていると、カウンターの向こうからおっさんが不愛想な顔のまま、パケをよこせと(手真似で)言ってきて、これな、こうしてな、こうやってな、こうすんだ。と、一本ジョイントを作ってくれた。
会話があったかは憶えていない。
それを有難く頂戴して深く吸い込んで肺に収める。
ほどなくして店の奥から若者が楽しそうに「それ効くだろ~~。ハハハ」と声を掛けてきた。