企業価値評価、簡易査定の怖さ—実例から学ぶM&Aノウハウ⑫
M&Aは一筋縄ではいかないもの。
どんなトラブルが起こりうるのか、どうすれば対処できるのか?
これからM&Aにのぞむ皆様に、リアルな「経験者の教訓」をお届けする連載です。
各案件に深く携わってきた売り手支援のプロ・宮崎氏に解説いただきます。
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「すぐに出てきた数値」には意図があるかも
会社の売却を考えている方にとって、「会社がいくらで売れるのか」は非常に気になることです。
M&Aでは「企業価値評価」と呼ばれ、売却を検討中の方はそれを簡単にシミュレーションができるフォームを目にしたり、問い合わせたM&A事業者から簡単な試算額を聞く機会も多いでしょう。
ですが、実はこういったシミュレーションで出てきた数値をうのみにするのは危険です。
下記のような意図が働いている可能性もあるためです。
重要なのは、本来の「企業価値評価」は初回で見積もりを出せるようなものではないということです。まともなM&A事業者なら簡単に言えるはずがないのです。
「会社の価値」はなぜ複雑なのか
ざっくり数字を出そうとすれば、会社単体の価値を計算式に当てはめて計算することは可能です。ただ、深い調査なしに求められた数値は根拠のない、意味の浅いものになってしまいます。このため、「あなたの会社」の評価には役に立ちません。
それに、売主が会社を売る場合には「弊社独特の価値を評価してもらいたい」と思っているでしょうから、その場合に大事なのは「あなたの会社独特の価値」なのです。
そして、その「独特の価値」というのは、会社の定性的な将来像、そこから導かれるキャッシュフロー、特定の買主がいればその買主とだから発生する独特なシナジー等を考えずには求めることができないのです。
だからこそ、買い手がどのような強み・資産を持つ会社かによって、M&A後の対象会社の業績は大きく異なるはずなので、買い手によって評価は当然異なってきます。
さらに、競合に買われずに済む(自社に取り込める)価値(=防御価値)など間接的に生じる価値もあります。
金額だけがすべてではありませんが、仲介会社に「5億円位が妥当」と言われた会社を私が支援したところ、15億円以上で売却できた例が実際にあります。
簡単な計算で算出した会社単体の価値をM&Aの取引額の目安とするのは、非常にもったいないかもしれません。
M&Aで「指標にしていい数字」の求め方
では、「会社の価値」としてある程度信頼してよい/参考にしてよい数字というのはどういうものか。
まずは下記のポイントを満たすプロジェクション(≒事業計画)の作成をプロに依頼しましょう。それにより、会社単体の価値の指標となる数字が出てきます。