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企業価値評価、簡易査定の怖さ—実例から学ぶM&Aノウハウ⑫

M&Aは一筋縄ではいかないもの。
どんなトラブルが起こりうるのか、どうすれば対処できるのか?
これからM&Aにのぞむ皆様に、リアルな「経験者の教訓」をお届けする連載です。

各案件に深く携わってきた売り手支援のプロ・宮崎氏に解説いただきます。

宮崎淳平 株式会社ブルームキャピタル 代表取締役社長
ライブドアグループ、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社社楽にてM&Aアドバイザリー業に従事。その他にもプライベートエクイティ投資案件、資金調達案件、及びファンド組成・運営を多数経験。2012年にブルームキャピタルを創業。同社は会社売却に特化した日本随一のファームとして知られている。『会社売却とバイアウト実務のすべて』著者。
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「すぐに出てきた数値」には意図があるかも


会社の売却を考えている方にとって、「会社がいくらで売れるのか」は非常に気になることです。

M&Aでは「企業価値評価」と呼ばれ、売却を検討中の方はそれを簡単にシミュレーションができるフォームを目にしたり、問い合わせたM&A事業者から簡単な試算額を聞く機会も多いでしょう。


ですが、実はこういったシミュレーションで出てきた数値をうのみにするのは危険です。
下記のような意図が働いている可能性もあるためです。


①(価格の水準がわからないように見える売り手に対して)
ディールが成立しやすいレベルに予め売り手の期待値を下げるため、低めに提示する

仮に、売り手企業単体での最低限の価値に等しい「純資産+n年分のEBITDA」の額を企業価値評価としてまともに受け取って交渉を進めた場合、案件によっては非常にお買い得と見なされるなので買い手が見つかる可能性は高まる
(そして、良くこのような「相場」が喧伝されているので、売主が納得してしまいやすい環境になっているのも懸念すべきところ)

②(希望価格目線が高いがなんとか顧客にしたい売り手に対して)
売り案件を獲得することを優先して、売り手をその気にさせる高めの額を提示する

「そんなに高く売れるなら…」と期待感を高めてまずは売る気にさせ、案件化する。その後、実際の交渉の中で細かい点を指摘し、買い手が期待する額まで評価を下げることを前提としている可能性もある


重要なのは、本来の「企業価値評価」は初回で見積もりを出せるようなものではないということです。まともなM&A事業者なら簡単に言えるはずがないのです。




「会社の価値」はなぜ複雑なのか


ざっくり数字を出そうとすれば、会社単体の価値を計算式に当てはめて計算することは可能です。ただ、深い調査なしに求められた数値は根拠のない、意味の浅いものになってしまいます。このため、「あなたの会社」の評価には役に立ちません。

それに、売主が会社を売る場合には「弊社独特の価値を評価してもらいたい」と思っているでしょうから、その場合に大事なのは「あなたの会社独特の価値」なのです。

そして、その「独特の価値」というのは、会社の定性的な将来像そこから導かれるキャッシュフロー特定の買主がいればその買主とだから発生する独特なシナジー等を考えずには求めることができないのです。

だからこそ、買い手がどのような強み・資産を持つ会社かによって、M&A後の対象会社の業績は大きく異なるはずなので、買い手によって評価は当然異なってきます。

さらに、競合に買われずに済む(自社に取り込める)価値(=防御価値)など間接的に生じる価値もあります。



金額だけがすべてではありませんが、仲介会社に「5億円位が妥当」と言われた会社を私が支援したところ、15億円以上で売却できた例が実際にあります。

簡単な計算で算出した会社単体の価値をM&Aの取引額の目安とするのは、非常にもったいないかもしれません。




M&Aで「指標にしていい数字」の求め方


では、「会社の価値」としてある程度信頼してよい/参考にしてよい数字というのはどういうものか。

まずは下記のポイントを満たすプロジェクション(≒事業計画)の作成をプロに依頼しましょう。それにより、会社単体の価値の指標となる数字が出てきます。


<プロジェクションに求められる重要なポイント>

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