買い手との交渉で一番注意すべきこと—実例から学ぶM&Aノウハウ⑩
M&Aは一筋縄ではいかないもの。
どんなトラブルが起こりうるのか、どうすれば対処できるのか?
これからM&Aにのぞむ皆様に、リアルな「経験者の教訓」をお届けする連載です。
各案件に深く携わってきた売り手支援のプロ・宮崎氏に解説いただきます。
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「何かと細かい買い手」は避けるべきなのか?
これから売却を検討する方にとって、「どんな買い手に注意すべきか」「どんな買い手を避けるべきか」は気になるトピックかと思います。
たとえば、実際にM&Aの交渉を経験した売り手側社長さんが「買い手企業側のDDが細かすぎて大変」とか、「M&Aの契約の交渉事項が細かすぎる」といったことを話題にされることがあります。
確かに、売り手側の負担をむやみに増やされたり、契約交渉が必要以上に細部に渡るというのは売り手からするとストレスではあります。
しかしその一方、厳密なDDでリスク要素を予め洗いざらい見つけてもらった結果、ディール後のトラブルが減るということもありますし、「チェックが細かい・管理が厳しい=しっかりしている」と言える側面もあります。
「トントン拍子でM&A交渉が進む」のは、必ずしも良いこととは言い切れないため、安易に「何かと細かい買い手」を候補から外すことがないように気を付けてください。
「避けるべき買い手」を判断する基準は、もっと別のところにあると考えた方が良いでしょう。
「避けるべき買い手」の見分け方
売り手がもっとも避けたいのは、売却後のトラブルです。
この観点で避けるべき買い手を見分ける方法は、「感覚的な判断」に基づいて見分けるもの、「ファクト」に基づいて見分けるものの2つが考えられます。
感覚的な判断軸
まず感覚的なこととして、相手側企業との「相性の良さ」は非常に重要です。
ディールが進む中で違和感があった場合は放置せず、どんな違和感があるか、その原因は何かを必ず明確にしてください。
たとえば下記のどれかひとつでも当てはまる場合は、注意が必要だと思います。
自社(売り手側企業)の理解が深いと感じられないのに話がどんどん進む
…何に価値を感じてくれているかがわからない、リスクを理解されてないと感じる、売却完了後の組織についての深い検討がない買い手側の価格提示の根拠がしっくりこない
…本来認めてもらいたい価値が認めてもらえていない、シナジーの読みが甘く感じるなんとなく誠実さを感じない、役職員に対する尊重がない、または「怪しさ」を感じる
このような買い手の場合は下記のようなトラブルが起こり得ますので、注意が必要でしょう。
調査が不十分→重要事実を見逃す→M&Aの契約において不必要な部分で厳しくなる、又は事前に取り決められるリスクシェアの観点があいまいになってしまう→売却後にトラブルが表面化した場合にトラブルが拡大する
買い手側の将来の読みが、「本来ちゃんと調査していれば期待できるはずの正確な読み」と大幅にズレてしまうことで後でトラブルとなる
買い手側が自社の統制を誤り、キーマンのやる気を削いでしまい企業価値が毀損する
売り手側が予測もしないようなトラブルやクレームが後々に発生する
ファクトで判断できること
過去のファクトで判断するというのも重要でしょう。
すなわち、ある買い手が売り手側に対してしばしば補償請求をしているような事実がある場合、売り手としてはそのような買い手企業は買い手候補から外した方が良いと考えることができます。
少なくとも弊社がM&A支援をする場合、そのような買い手候補の情報が入った場合、打診先から除外しています。
ただし、損害賠償トラブルは買い手の特性によって起こるだけでなく、売り手と買い手の関係性や交渉のしかた、状況の変化によって生じる側面もあります。
このため、上記のような「危険な買い手」を避けるのに加えて、売り手側が交渉や情報開示を適切に行うことも重要であるというのは言うまでもありません。