M&Aと外部株主の意向—実例から学ぶM&Aノウハウ⑨
M&Aは一筋縄ではいかないもの。
どんなトラブルが起こりうるのか、どうすれば対処できるのか?
これからM&Aにのぞむ皆様に、リアルな「経験者の教訓」をお届けする連載です。
各案件に深く携わってきた売り手支援のプロ・宮崎氏に解説いただきます。
事例:
VCの賛同を得られず、M&Aを見送ったケース
IPOからM&Aへ目標を切り替えたくなったら…
こちらの事例では「売却を諦めてIPOを目指す」結果となったわけですが、売却を検討する場合、VCからの投資を受けていれば、基本的にはVCと十分に議論し説得するプロセスを経ることになります。
株主の許可を得ずに売却できないよう、株主間契約で取決めがなされていることが多いためです。
出資者の合意を得ずに売却できる?
しかし、普通株式のみ発行している会社で、オーナー経営者が2/3以上の株式を保有していれば、出資者の説得を経ずに株式を売却することも可能です。(株主間契約には違反するので、買い手の判断によりますし、私は事例を知りませんが)
特に、契約違反による株主側の損害の立証が難しい場合は、ゴリ押しで売却してしまおうという判断になるかもしれません。そのあたりは弁護士さんにも確認してみるとよいですね。
特に下記のようなケースなら、売却するのもある程度妥当と言えそうです。
無理な売却で生まれるリスク
ですが、基本的には無理な売却はできれば避けた方がよいと思います。
私のところに「なんとかVCの合意を得ずにM&Aで会社売却できないか?」と相談に来られたオーナー経営者がいましたが、その方は単純な早期イグジットを目的とされていたので、私としては「総合的に考えるとあまり得策ではない」というアドバイスをしたことがあります。
やはり、ビジネスをするうえでは信頼関係が第一であり、会社売却はその経営者のその後のビジネス人生に響くイベントになり得るからです。
それでも、今回の事例のようにIPOを想定して進んでいた会社を、それほど良い条件でなくても売却したいと強く主張するようになるオーナー経営者はいます。
もちろん、多くのVCはそれを了承できないでしょう。
なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか?
「IPOゴール」で注意したいこと
当初はIPOを目指していた経営者がIPO後の大変さを知って、非上場のうちに売却したいと考えるようになることがあります。
実際にしばらく経営をした上で、IPO後もそれ以上の負担が続くと考えると「やはりそれはちょっと…」と道半ばにして思う人は一定数いるようです。
上場企業と非上場企業の経営では、求められることが異なります。上場していることによる様々な制約・プレッシャーで、上場後に非公開化を模索する経営者もいるほどです。
VCにとっては「利確」のタイミングとなるIPOですが、経営者にとってはそうはなりません。
実際に経営を進める過程で、立場が違う両者で希望が食い違ってくるのはある種仕方のないことでしょう。
ただ、一度VCからの出資を受け、IPOに向けたある種の「コミットメント」をしているのであれば、やはり本来的にはIPO(またはそれに匹敵するValuationでの売却)を目指すべきなのではないでしょうか。
現実問題としても、外部株主との関係性が悪化すると、オーナー経営者の悪評は意外と早く業界を駆け巡ります。
私も実際に経営者の色々な「噂」を聞くことがあります。
重要なのは、オーナー経営者が外部の投資家を迎え入れる時に、まずその投資家の考えるイグジットをちゃんと理解し、当該投資家の考えるイグジットについて自信を持って「実現できる」と言えることです。
少しでも自分の考えるゴールと違うと感じたら、そもそも投資を受け入れないという判断をすることも重要だと思います。
出資者の同意を「物理的に」得られないことも
買い手側としては、買収するなら100%の株式を取得したいと考えることも多いものです。
ですが、既出の例のように出資者が強く反発することももちろんありえますし、中には「出資者が亡くなった」「(懲役など)諸事情で出資者が取引できなくなった」といった特殊な理由で、株主の同意が物理的に得られないケースもあります。
このような場合は、全株主から回答を得られないことになってしまいます。
しかし、そういった場合にもいくつかのソリューションがあります。