売却後のトラブルを未然に防いだ方法ー実例から学ぶM&Aノウハウ③
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M&Aの現場では実際にどんなトラブルが起こるのか、その乗り切り方、経験者の後悔や反省など……過去の事例を読み解いて得られた教訓を、これからM&Aにのぞむ皆様へお届けする連載です。
貴重な事例と支援ノウハウを教えてくださるのは、売り手支援歴20年のプロ・ブルームキャピタル社の宮崎代表です。
宮崎淳平 株式会社ブルームキャピタル 代表取締役社長
ライブドアグループ、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社社楽にてM&Aアドバイザリー業に従事。その他にもプライベートエクイティ投資案件、資金調達案件、及びファンド組成・運営を多数経験。2012年にブルームキャピタルを創業。同社は会社売却に特化した日本随一のファームとして知られている。『会社売却とバイアウト実務のすべて』著者。
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前回の記事では、あるディールが「買い戻し」という結末に至ってしまった経緯を取り上げました。
今回は、どうすれば買い戻しなどのトラブルを防げるのか、リスクをうまく扱えた事例ではどんな対処をしたのかについてご紹介していきます。
リスクの適切な対処:セルサイドDDは本当に有効なのか?
ーうまく対処できた事例ではどんなことをされたのですか?
M&Aをした後のリスクは際限がないと言えるほどトピックがありますが、ここでは事前にリスクの芽を摘めた例を1つお話しします。
弊社では、売り手から売却相談を受けた最初の段階でセルサイド・デューディリジェンス(以下「セルDD」)というものを行います。要するに、売り手側でビジネス、会計・税務、法務を一通りチェックするわけです。
セルDDを行うと、弁護士に詳しくチェックしてもらった方がいいだろうと思われるようなリスク要素がけっこう見つかります。
その事例でもリスクをチェックしたところ、薬機法に違反する可能性があったため、まずは200万円ほどかけて弁護士に確認してもらうことにしました。
スコープも適当、レポートも作成してもらわない前提では弁護士に見てもらっても有効性は低いですから、本件では以下の①~③を依頼することとしました。
①弁護士に現況のリスクを検出してもらう
②検出されたリスク、対処案、対処案実行後のリスク度合いを記載したレポートを作成してもらう
③実際に対処した後のフィードバックレポートを作成してもらう
その結果、①であるリスク(Webの医学的な記事の内容修正のようなもの)が指摘されたため、該当する表現をすべて修正しました。
他にも問題となる点があったのですが、当該事項は対処しようとすると売上への影響も否定できませんでしたので、一旦は対処せずに保留としておき、買い手と対応を相談することにしました。
こういう場合、買い手に対して「弁護士によると、弊社にはあるリスクがあると分かりました。ただ、その対策を行うと売上に影響する可能性があります。今後新たな株主になるかもしれない貴社(買い手)と解決法を一緒に検討すべきと思うのですが…」と正直に伝えて対応を相談することが重要だと思います。
その点はやはり買い手との交渉の際に1番の争点になりましたが、そのリスクの分価格を下げる形で合意し、表明保証の対象からは外してもらう形で決着しました。
ーその弁護士費用は売り手側が負担したということですよね。M&Aとなれば買い手によるDDも行われますが、売り手側でやっておくことにそんなにメリットがあるのですか?
まず、セルサイドDDの過程で事業をかなり修正することで交渉に強気で臨めるようになります。面倒ではあっても、事業の毀損につながらない範囲のことはやるべきですね。
特に、事業リスクが大きいケースで事前に対策をせずに臨むと、交渉中に何を指摘されるだろうかと不安を抱えることになりかねません。
また、しっかりと自社を理解した上で交渉に臨むと相手に誠実さが伝わり、気持ちのいい交渉ができるようになります。先ほどのケースでも、買い手側に信頼していただくことができ、買い手側に「リスクを負う」と言ってもらうことができました。
ーとはいえ、DDには時間も手間もかかるので、値段にこだわりがなく早く手放したい人にとっては取り組むメリットはあまりないように思えますが…
それはあり得ないと思いますよ。交渉の中で的外れな主張をしないためにも、トラブルを未然に防ぐためにも、自社理解は必ず深めておくべきです。
先ほどの件でも、もし売り手側で事前に修正した点をそのままの状態で売って、トラブルが起きてから対処していたら、そう簡単に解決はしなかったと思います。
もし買い手がファンドあれば、法令違反等を指摘されて「すぐに金を返済しろ」と言われる可能性がありますし、上場準備中の会社であれば、このことが上場延期の理由となって大きなダメージを与えることになりかねません。
それ以外にも、ちょっとした修正でなくせるリスクを放置して大問題になるケースはかなり多くありますよ。
たしかに、相当規模が小さくて費用対効果が合わないケースもあるかもしれませんが、セルDDの効能は「売り手のリスク低減効果(とくに事後リスクを軽減する効果)」の他にも様々にあります。
M&Aの売却後リスクを適切に扱う手順:3つのステップ
ーでは、セルDDをするとなったら、具体的にはどのような手順で何を行えばよいのでしょうか。
リスクマネジメントの観点では以下のステップを踏む流れになります。
売り手の立場から考えておくべきリスクを本稿で言及しつくすことはできませんが、専門家に相談しながらこれらの準備しておくことで交渉が相当スムーズになり、また事後的リスクも防げるようになるはずです。
・リスクマネジメントの手順①~③