法務DDで争点になること|M&A BANK Vol.180
ディール成立を左右するトラブル
冨岡
前回に続きまして、M&Aの実務について岡本先生とお話ししていきたいと思います。
今回はDD、特に法務、リーガルのデューデリジェンスに特化して伺いたいと思います。
基本的に買い手サイドはよっぽどの案件じゃない限り、M&Aのときは弁護士さんを付けて法務DDをされると思いますが、そのときにありがちなトラブルや問題になる点としてはどういうものがあるでしょうか?
岡本
ディールキラーと呼ばれる、「もうこのM&Aできないかもしれない」となるような大きな問題になるのは、大きな訴訟などですね。
訴訟があると必ずダメというわけではなくて、勝てるのか負けるのか、訴えられている金額と和解に応じた場合の金額、その辺が不確定要素として残ってしまうので100%の見通しは立てられませんし、プロセスに時間がかかるので…
デューデリをする立場としてそういう問題にあたる場合は、訴訟を担当している弁護士にヒアリングをしたり、専門家に話を聞いたりして、見通しとしてどれぐらいになりそうなのか、本当に和解ができそうかを確認していきます。
売り手側ができることは
冨岡
売り手の弁護士さんって当然売り手の味方なので、弁護士なのであんまり嘘みたいなことは言わないにしても、「8割方いけます」とか、比較的ポジティブに話すケースが多いかなと思うんですが、買い手目線の場合はそこを割り引いて考えたりするんでしょうか。
岡本
それはそうだと思います。
どれだけたしかな見積もりかわからない場合は、買収価格の条項を少し特殊なものにしておくこともあります。
「基本的にはこの値段で買うけれども、仮にこの訴訟でいくら負けたらその金額は差し引きます」とか、特殊な条項を入れるように交渉したり。
冨岡
それで買い手がリスクヘッジするということですよね。
訴訟を抱えている売り手側としてできる方策としてはどういうものがあるでしょうか。
岡本
そこは難しいですね…
結局そのリスクをどちらが負担するかが問題で、その交渉になりますから。
他にも買いたい人がいれば、それで交渉していく形になるかなと。
取引先との契約内容にも注意
冨岡
売り手側で、法務DDの際に訴訟以外で注意しないといけないところはありますか?
岡本
事業面で重要な契約っていくつかあると思うんですが、その条件はよく確認されます。
例えば売り上げの何割かを依存しているすごく大きくて重要な取引先があるとしたら、もうすぐ契約期間が終わって更新されないかもしれないとか、競業避止義務や独占権など、将来ビジネスの縛りになるような特殊な条項が入っていないかも慎重にチェックされると思います。
冨岡
代理店系のビジネスやフランチャイズ系のビジネスだと、本体との契約期間が切れちゃってビジネスにならないこともありえますもんね。
そういうのは事前に代理店や大元と契約期間を延長してから、M&Aの交渉をすることが多いですよね。
岡本
はい。
そういったビジネス面の担保がどれくらいできているかが重要になりますね。
冨岡
ありがとうございます。
ということで今回はDDについてお伺いしました。
次は最終の契約交渉まわりのお話を伺いたいと思います。
出演者
■岡本杏莉:日本/NY州法弁護士
慶応義塾大学法学部卒業。西村あさひ法律事務所、スタンフォード大ロースクールへの留学、NYの法律事務所での研修を経て、2015年3月に株式会社メルカリに入社。日本及び米国の法務、大型資金調達やIPOなどFinance/IRを担当。個人でもスタートアップ等へのリーガルアドバイスを行う。2017年12月から法律事務所ZeLoに、2019年2月からトリプル・ダブリュー・ジャパンに参画。
■冨岡 大悟:TOMIOKA C.P.A OFFICE 代表/公認会計士
KPMG/あずさ監査法人のIPO部、フロンティア・マネジメント株式会社でのM&Aアドバイザー業務を経て、オーストラリアに駐在。日系企業の海外進出支援、事業開発業務等に携わる。帰国後にTOMIOKA C.P.A OFFICEを開設。IdeaLink株式会社の他、上場準備会社を中心に3社の社外役員も務める。