走行距離無限大?充電不要のEVの未来へ
こんにちはMaaSHack 編集部のタンタンです。
「電気自動車の電池切れが怖い」、「電気自動車は高い」のような電気自動車 (Electric Vehicle : EV) の課題に対し、新たに電気自動車を普及させる技術と生まれてくるビジネス機会についてご紹介いたします。
上記の理由で日本国内でのEVシフトは海外に比べて遅いのではないかという意見もあるかと思います。ところが、最近の電気自動車に関する研究では「走行中給電」という技術が発明され、電気自動車が走行している間でも充電することができ、「電気自動車の充電は面倒だ」と言えない時代が来ているのです。
1. なぜ電気自動車は普及しないのか ?
図1 : 消費者が電気自動車を購入しない理由に関するアンケート結果 [1]
2021年5月、日本のデジタルマーケティング会社のナイル株式会社がクルマを所有する全国の男女 1,283人を対象に「環境に良いとされるクルマ」についての意識調査を行いました。
その結果、8割の調査対象が「次に車を購入するときは電動車を購入しない」と回答しました。購入しない理由の中で、「電動車の価格が高いこと」と「充電インフラが十分に整備されていないこと」に関する課題が半分以上を占めていることがわかります。
電気自動車の価格が高い理由は、搭載電池にあります。走行距離を十分に確保するには搭載電池の量を増やさなければなりません。これは電池コストが高い要因となっています。例として、三菱自動車のi-MiEV の場合、必要な電池のコストは240万円であり、車の価格459.9 万円の半分以上も占めています [2]。
充電設備が不足していることについては、日本コンピューターシステム株式会社の調査より、日本全国における電気自動車の充電スタンドはガソリン車給油所に比べて首都圏・東海地域・近畿圏に集中し、地方圏(特に内陸)では充電器設置が少ないことがわかります。なので、電気自動車の利用者の不安は解消されず、充電設備の不足はまだ電気自動車が普及していない理由の一つになっています [3]。
このように、電動車の価格と充電に関する購入ハードルが解消されれば、人々がより電気自動車を購入してくれるのではないかと考えられます。
2. 電気自動車を普及させる方法
上記の課題である「価格が高い」と「充電設備の不足」を解決し、電気自動車を普及させるために、様々な研究が行われ、結果として以下のような解決策が編み出されています。
2.1 交換式バッテリー
充電設備が不足している問題に関して、使い切ったバッテリーと新しいバッテリーを交換する方法があります。そうすると、充電設備を全国に設置しなくても、サービスエリアなどに充電されているバッテリーが十分にあれば問題はないでしょう。
確かに、カーシェアーシステムにおける電気自動車に交換式バッテリーを導入すると、100% バッテリーを回収でき、生産量を減らすことができます。また、バッテリーの製造による排気ガスを削減できると言われています。
しかし、現在電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池の重量は約250~500kgもあり、さすがに一人で交換するのは大変ですね [4]。結局、電気自動車を特定の場所に持っていき、交換してもらわなければなりません。充電時間は減らせますが、バッテリーを交換する時間は発生してしまいます。
2.2 高性能バッテリー
高性能バッテリー (全固体電池など) のように、大容量かつ軽量のバッテリーが実用化されれば、バッテリー重量を軽く、バッテリーの値段をより安くすることができると言われています。
例えば、全固体電池という高性能バッテリーは、現在の電気自動車でよく利用されているリチウムイオン電池に比べて、走行距離当たりのコストが低いです [5]。そのため、次世代電池の量産化に成功すれば、市場の覇者となる可能性を秘めているのです。
ところが、電気自動車に用いる高性能バッテリーを量産化するには技術的な課題があるため、実用化に至っていません。たとえ、高性能バッテリーが量産化できたとしても、バッテリーが重い問題は解決されますが、バッテリーを交換する作業はなくなりません。
2.3 急速充電
最新の電気自動車の急速充電器を使用すると、15-30 分での充電は可能ですが、ガソリン車の給油が2-3分で終わるのと比較すると充電時間は長いです[6]。
また、急速充電は緊急利用に限られる充電設備なので、頻繁に急速充電を繰り返してしまうと、電池の劣化を促し、EV利用者が新しいバッテリーを買い替える必要があり、コスト増につながる恐れがあります [2]。
図2 : 電気自動車の課題を解決する方法の比較
このように、上記の解決方法で電気自動車の「価格が高い」と「充電設備の不足」という課題は解決できますが、EV利用者の「電池切れ」の心配は解消されません。
3. 電気自動車の充電を無くす「走行中給電」?
電気自動車の利用者の「電池切れ」の解決方法は「走行中給電」です。
図3 : 電気自動車の走行距離を延長する方法 [6]
「走行中給電」とは「走行中の電気自動車に送電設備からエネルギーを供給すること」です。電気自動車は走行中にエネルギーを受け取ることができれば、価格が高いバッテリーを多く搭載しなくても走行距離を長くすることができます。また、充電する時間は移動時間に含まれているため、利用者は電池切れの心配もなくなります。
図4 : スウェーデンにおける接触型の走行中給電レーン [6]
海外では走行中給電の実証実験がすでに行われています。例えば、スウェーデンでは給電レーンが道路上に敷設されています。電気自動車が移動中に、受電アームを給電レーンと接触させて、充電することができます。
ところが、走行中に電気自動車を送電設備に接触させないと給電できないので、走行する自由度が少ないというデメリットがあります。また、車線変更をする際にうまく送電設備に接触させないと、電気自動車や送電設備の部品が故障する恐れもあります。
図5 : 中国の済南市における非接触型の太陽電池からできた給電道路 [6]
そこで、中国のように非接触型の走行中給電という実証実験も行われています。たとえば、中国の済南市では太陽電池が敷設されている1,080 メートルの電化高速道路が設置され、太陽電池の発電されたエネルギーが電気自動車だけに供給されるのではなく、道路の電灯や周辺の家庭にも利用されるそうです。このように、非接触式走行中給電は電線との接触を必要としないので、現在世界各国が行中無線給電に関する研究に注目しています。
日本でネクスコ東日本株式会社は多くの企業や大学と協力しながら、自動運転技術とともに、非接触型充電設備が入っている高速道路の電動化についても考えているそうです [7]。
4. 「走行中給電」のインフラにおける事業モデル
「電気自動車の走行中給電インフラから、どんなビジネスに発展させることができるか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ここで、走行中給電インフラにおける事業機会について、紹介いたします。
走行中給電システムができあがった後に、ビルや街灯だけでなく、道路上あるいは道路下に埋まっている給電設備も送電線の末端になります。給電設備の工事をすることや電力を適切に制御するのは大変なので、この複雑な走行中給電システムを運転するために、政府が様々な企業と協業する必要があると思われます。
図6 : 通信会社にとっての新規事業モデル図 (車両検知機能)
一般に走行中給電インフラが電力を必要とするEV利用者や行政の公共設備に、電力を供給しているため、電力事業者にとっての新しい事業機会が出てくると思われます。
ところが、通信技術に関する企業にも、新しいビジネスの機会が出てくるのではないでしょうか。例えば、車両検知の誤差があまり許されない自動運転技術において、悪天候による通信遅延や悪い視界などがあると、自動運転がうまく機能せずに、事故を引き起こす恐れがあります。そのため、現在のGPS機器やカメラだけでは、完全自動運転は実現できません。
このとき、通信会社が新規事業として走行中給電インフラに通信回線を設置することで、天候の影響を受けずに、より正確かつ高速に車両位置の情報通信ができるようになります。通信会社が高速化された高精度の交通情報を行政に提供することで、より早いかつ適切に信号や遮断器の制御が行えるようになり、渋滞問題を緩和できます。また、EV 利用者にこのサービスを提供することで、運転がスムーズになれる最短経路が選べるようになります。
現在の情報社会におけるビジネスで、企業はデータで勝負することが多いため、高速に高精度のデータを取得することは大事になってきます。その機会の一つは、この走行中給電インフラにあります。上記はあくまでも一例ですが、交通情報を他のビジネスで活用することも可能であり、今後も様々な業界のプレーヤーが参入してくるのではないでしょうか。
5. 「走行中給電」インフラの今後の動向
図7 : 今後想定される走行中給電システムのシナリオ [8]
今後走行中給電システムは、様々なシナリオで利用されると想定されています。たとえば、高速道路上に送電設備を設置することもあれば、市街地の交差点前などにおいて送電設備を設置することも考えられます。
特に、市街地における走行中無線給電は、走行中のみならず信号の前の停車間際や信号待ちの間に給電を行うことで、信号待ちの時間が長ければ長いほど、電気自動車を充電でき、信号まちや渋滞によるストレスを前向きに捉えますよね。
上記の通信会社の例で示したように、走行中給電インフラに車両位置の通信技術を設置することによって、車両検知の精度がさらに向上する、現在実現できない完全自動運転の夢が現実のものとなります。
まとめ
いかがでしょうか ? 電気自動車を普及させる新技術と通信会社様にとってのビジネスチャンスについてお伝えさせて頂きました。実は、将来他のプレーヤーも走行中給電インフラにおけるビジネスに参入してくるのではないかと思われます。
このように、走行中給電システムが実現されたら、社会への影響が大きいので、このビジネスから生まれた自社の機会を見逃さないように、この技術に注目することが重要です。貴社の戦略策定の一助になれば幸いです。
<参考>
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(記:タンタン)
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株式会社リブ・コンサルティング
コンサルタント
シッティナムスワン ジラワット (タンタン)
東京大学大学院新領域創成科学研究科・先端エネルギー工学専攻卒業後
モビリティ業界をメインコンサルティングに従事
《主なコンサルティング実績》
会計ソフト開発企業の営業力強化支援
エネルギーマネジメントシステムとアグリゲーションビジネスの新規事業モデル策定支援
DXソリューション開発に向けたカーディーラーニーズ調査支援 など
参考文献
[1] 平塚直樹、「次のクルマは電動車にする?」、cliccar.com、公開日 2021/5/30
[2] 加藤敦宣、「電機自動車の戦略的普及における課題」、社会イノベーション研究第5 巻第2 号 (33-62) 2010 年3 月、p.33-60
[3] 株式会社リブ・コンサルティング「カーディーラーにおけるエネルギービジネス市場調査」、公開日 2020/3/24
[4] 安倍宏行、「EVシフトを読み解くカギ」 | EMIRA (emira-t.jp)、公開日 2018/6/8
[5] Nikkei Asia, “Can Japan and Toyota win the solid-state battery race?”, Published 2021/5/28
[6] Wei ZHAO and Asako Terazawa, 「電機自動車の戦略的普及における課題: A Study on the Future Trend of EV」. 産業経済研究所紀要第25 号2015 年3 月, p.221-225
[7] ネクスコ東日本、「自動運転社会の実現を加速させる次世代高速道路の目指す姿(構想)」、2021年4月
[8] 郡司大輔,R. L. Rodriguez,人見尚弘,向井善也,下村洋輔,松田靖之,居村岳広,藤本博志,「走行中ワイヤレス給電の市街地道路への展開に関する基礎検討」,自動車技術会学術講演会講演予稿集,No. 95, 2018.