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31house
クセ強おやじと赤いフィット
私の亡き父はくせが強い。
ついでに父の愛車もクセ強の赤いフィット。目立つのですぐに父のだとわかる。
私の実家のは陸の孤島にある。電車が通っておらず最寄り駅までバスで30分かかる。その上バスは1時間に2本。乗り遅れたら絶望的である。
そんな時は家族に送迎をお願いしていた。
ある日、バスに乗り遅れた私は父に送迎を頼んだ。父は仁丹をぼりぼり食べながら運転していた。それはフリスク的なものだが臭いがえげつなくクサイ。それを食べながら、急ブレーキを踏んだ。
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すると、食べていた容器から、仁丹がパチンコフィーバーの様にゾロゾロと散らばった。
クサイ!!!
一瞬にして車内が仁丹臭で充満した。
仁丹のにおいが嫌いな私は「おえっ…おえっ…」とえずきながら涙目でこらた。
送ってもらったにもかかわらず、父に文句を言って車から飛び出た。
今思えば、ある意味私のせいで『仁丹臭がする赤いフィット』となってしまった。
少し反省した私は、車のシートの下に転がった仁丹を取ろうとした。が、仁丹は粒が極小。手で拾うのは難しい。
掃除機を家から持って来て吸おうと思ったがコードが足りないので諦めた。
それ以降、よほどのことがない限り赤のフィットに乗ることはなかった。
父はというと、仁丹好きだから全く気にすることなくその車を死ぬまで乗り続けた。
今も赤いフィットを見るたび、父と仁丹臭を思い出す。そして、軽くえずきそうになるのである。