思てたんとちゃう、甲状腺のはなし
去年の年末に突然ヒステリー球になった。主には、喉の奥にずっと何かが詰まっているみたいな違和感。更年期あるある症状らしい。あと、排卵期で調子が悪かったところにストレスが追い被さったのも原因の一つだと思う。というのも沖縄旅行を年始に控えていて、しかも私が言い出しっぺでツアコン役を買って出ていたもんだから、「偏頭痛やべー、腹痛てー、旅行大丈夫かなー、でも色々案内する予定だからなー、がんばらねばー」というプレッシャーにすっかりあてられていたのだ。それで自律神経が乱れに乱れて、結果的に排卵痛は3倍に爆増するわ、初めてヒステリー球になるわ、旅行はヘロヘロだわ、帰宅してからもしばらく偏頭痛が続いて仕事始め早々有給取っちゃうわで、散々の年末年始となった。
有給を取って、ひとまず近所の耳鼻咽喉科に行った。ヒステリー球ならヒステリー球で、ちゃんと診てもらうに越したことはない。私わりと検索スキルには自信があって、専門科を受診する前に目星をつけていた病名はいつもたいてい当たっている。パニック症の時もバッチリ当たっていた。それで診断を受けてから「ほらね、やっぱね、知ってたし」と謎にほくほくするのだが、我ながら妙な性癖だと思う。
で、案の定ヒステリー球だった。耳鼻科では咽喉頭異常感症と言うらしい。ヒステリー球とは内科領域の疾患名なのだそうで、いずれにしても概念としては同じものだということだ。ほらね、知ってた、うむうむといつものように謎の充足感に満たされたのはいいのだけど、話はそれだけに終わらなかった。「それより甲状腺のしこりが気になるねー、エコーで見てみようかー」となったのだ。実はそのしこりにも自覚はあった。1年ぐらい前にふと「おや? 喉ぼとけ誕生してない?」となって、「更年期って喉ぼとけも出てくるんだなあ」などとナチュラルに更年期のせいにしかけたが、さすがにそれはないかと思い直して、まあそのうち診てもらうかーぐらいのつもりでいたやつ。なのだけど、職場の健康診断でちらっと聞いてみたら「んー? あーたしかに何かありますねー、んー、甲状腺とかではなさそうですねー、んー、まあもし気になるなら耳鼻科で診てもらうといいですよ」という何とも言えないリアクションだったもんで、なんか、なんとなくどうでもよくなってしまっていたやつ。しかし結局、先生の見立ては大はずれだった。甲状腺やないかい、と心で突っ込んだ。今後、健康診断の問診は当てにすまい。
エコーで見た感じ、やっぱり緊急性はなさそうで、悪性の何かでもなさそうだったのだけど、一応大きな病院でちゃんと診てもらおうかという話になり、紹介状を書いてもらった。その週末の金曜日に予約が取れた。結局、連休明け一週目に2日も有給を取る羽目になった。翌日、眉をめいっぱいハの字に下げて申し訳なさをアピールしつつ出勤してみると、他にも風邪やら何やらで欠勤している人がわらわらいて、ちょっとだけホッとした。いや、ホッとするのもどうかと思うが。どうやらいろいろ流行ってるらしい。冬ってほんと、いやよね。
ひとまず、例によって検査前にちょいとネット検索してみた。すぐにピコンときた。橋本病だ、橋本病に違いない。思い当たるふしがかなりある。橋本病とは甲状腺ホルモンの不足によって発病する疾患で、ちなみに甲状腺ホルモンが過剰になって発病するのがバセドウ病らしい。発病によって不足/過剰になるのか、不足/過剰になって発病するのかはよく分からんのだけど、ともあれそれぞれ症状はかなり多岐にわたるようだ。
橋本病の症状には、寒がりになったり、疲れやすくなったり、体重が増えたりなどの全身症状がある。それから、眠気や無気力などの神経症状、息切れ、むくみなどの循環器症状、食欲低下や便秘などの消化器症状、皮膚乾燥、脱毛などの皮膚症状、その他コレステロール上昇や、月経不順、甲状腺肥大、のどの違和感などなど、実にさまざまある。一方バセドウ病の症状には、これらとかぶる部分があったり、逆に軟便やコレステロール低下など対極の症状があったりする。よく耳にする眼球突出などの顔つきの変化は、どうやらバセドウ病の方らしい(あくまで私調べ)。
それにしてもかなり当てはまる。まず、四十路を過ぎて急に冬が苦手になった。更年期ではホットフラッシュなんかをよく聞くが、逆に私の場合、周囲が平然としている(ように見える)中、人一倍厚着をして、人一倍ぶるぶると凍えているようなシチュエーションが圧倒的に増えた。あと、生活習慣自体はまったく変わっていないのに体重が急に増えた。とりわけ内臓脂肪の数値がやばい。内科でも婦人科でも漢方薬局でも指摘された。日中の眠気もだらだらと続くし、皮膚の乾燥もひどい。12月に入ると突如手足から粉が吹くようになった。以前はまるでそんなことはなかったのに。そこへきて甲状腺の肥大と喉の違和感。こりゃもう橋本病でしょ、間違いない。
これまで急&謎の体調変化に悩まされてきて、とりあえずまるっと更年期のせいにしてきたけれど、そうじゃなかったんだ、甲状腺の疾患だったんだ。橋本病なら有効な薬もあるようだから希望は持てる。もしかして、薬を飲んだら謎の体重増加も寒さも乾燥も喉の違和感も軽快するかもしれない。だったらうれしい。ひゃふう。思考がひとり歩きして、ちょっと小躍りすらした。橋本病なら橋本で何かと大変なこともあるはずなのに、無根拠にテンションが上がってしまうところが、私という人間のバカバカしさだと思う。不謹慎なのだよな。ほんと。直したい。
なんだかんだで、やたら勢い込んで検査を迎えたものの、結果はといえば予想をまるで裏切って、異常なし。血液検査でも生検でも、とりわけ目立つ異常は見つからなかった。甲状腺のしこりは、つまり”ただのできもの”というわけだ。もちろん今後どうなるか分からないし生検の精度も100%ではないということで、半年ごとに検査をして様子を見ることにはなったけれど。ともあれ、橋本病かと疑ったもろもろの症状は、やっぱり更年期とか加齢とかのやつだった、という形でオチがついた。ふむ。私の検索スキルも結局こんなもんである。
しかし、異常が見つからなかったこと自体はよかったのだけど、さまざまの体調不良の原因を明確に突き止めた気持ちでいたから、その当てが外れて、ちょっとしょんぼりだった。一方で、その甲状腺の専門院が広々とキレイで、システマチックで、院内カフェのメニューも充実していて、かなり気持ちが良かった。ガラス張りで開放感のある待合には女性の患者が圧倒的に多くて、みんな同じような症状に悩んでいるのだなと思うと、妙にシスターフッド的な感慨を覚えたりして。あげく勝手に勇気付けられたりなどして。しょんぼりのお釣りがくるぐらいには、謎に元気が出た。結局なんも解決はしていないのだけど。
そんなわけで、また引き続きあれやこれやの更年期症状について、あーでもないこーでもないとやっていくことになった。そういえば、更年期の症状をつぶさに語っているメディアはそれほど多くない。私がこうやって書くことに多少の意義もありそうな気がしてきた。というわけで今後も書いていこうと思う、更年期のすったもんだを。シスターフッド的な、エンパワメント的な気持ちをめいっぱい込めて。(おわり)