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【アルバム感想】記憶から来る音 Lo Borges - Nuvem Cigana

こんにちは。

今回はブラジルの偉大なシンガーソングライターであるLo Borgesの3rdアルバム『Nuvem Cigana』について書きます。

Milton Nascimentoと制作した大傑作『Clube da Esquina』が有名な彼ですが、ソロでも素晴らしいアルバムをたくさんリリースしています。

前作『A Via Lactea』については以前noteに書きましたが(https://note.com/maakeetaa/n/n0d3733a12ada)、今作も非常に素晴らしい内容なので個人的に感じたことを共有したいと思います。

(残念ながら本作はサブスクでは聴けません……CDもなかなか売っておらずレアなので見つけたら買いましょう)

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この音楽はどこから来たのだろう……? と不思議に感じる作品ってありますよね。ルーツ的な話です。

(あくまで僕個人が)バンド/アーティストの影響元・あるいは影響を与えた先の音楽を辿っていろいろなアルバムを知る……という聴き方をしてきたからなのか、この人(たち)はどんな作品を聴いてきたのだろう? と考えてしまいやすくて……

恋愛的に、もしくは友人として好きな人に対して興味を抱いて、趣味は何? とか尋ねるのと同じような感じです。

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本作は実にビザールな作品で、ルーツがよく分からないんですよね。ミナスジェライス州の仲間たちと切磋琢磨した結果生まれたのかな……? とか考えていますが、それにしてもやっぱりキテレツな感じ(でも、感動的な音楽です)がします。でも、奇を衒ってるような雰囲気はありませんし、アヴァンギャルドというよりむしろポップです。不可解な点は多々あれど、あくまでLo Borgesがいいなと感じたままをアウトプットしていると思うようなサウンドです。変だけど心地いいんです。エレキギターのフレーズや音色が特徴的です。方向性は違いますが、Mac Demarcoの『Salad Days』が好きな方に特におすすめしたいです。ギターの感じに似たものがあるような気がしています。

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まず、一曲目の『Todo Prazer』

イントロからしてすっごく変です。特にセンターで鳴るクリーンのリードギターのフレージング……でも謎のキャッチーさがあり、一気に引き込まれます。前作『A Via Lactea』の甘美なサウンドを求めてこの作品を手に取った方は相当驚くでしょうね……アレンジは相当変化していますが、メロディのスウィートさは前作同様です。うつくしいです。そして、間奏が理不尽な展開で面白いです。個人的な感覚ですが、この曲の間奏には夜のメリーゴーランドの回転するきらきらを外から眺めているようなサイケ感があると思います。

ところで、僕はLo Borgesの歌声がすごく好きです。未熟な青年(音楽性は熟しきっていますが)が持論を主張しているようなキュートさ、刹那的なかがやきがあると思います(伝わるかな……)。

二曲目の『A Força Do Vento』

荒野をひとりゆくような雄大な雰囲気があると思います。ストリングスのアレンジがとっても好きです。クレジットによるとToninho Hortaが指揮(regênciaとあります)をしているようです。サビ(?)部分と「パパパー」の部分での弦の響きが優雅です。荒野を越えた先の、甘くきらめく桃源郷の景色を思わせるうつくしさです。


三曲目の『Vida Nova』

ねじれる歌のメロディがストレンジでよいです。J-POP的な視点でみるとものすごーくおかしんですけど、しっかりキャッチーです。Lo Borgesの曲は(というかMPBは全体的に)日本的なポップさとは大きく異なっているように思います。切なさを感じる、だとか感動する、という点は共通していても、大きくスタイルが違っていて面白いですね。クレジットによると本曲のギターはToninho Hortaだそうです。この曲はエレピの響きがとても好きです。この曲は歌をダブリングしていますが、そこがまた気持ちよくて好きです。

個人的な感覚ですが、この曲を聴くとトランプをシャッフルしているような気持ちになります。ねじれたフレージングから連想しているのかな。

四曲目の『Vai Vai Vai』

ギターの不可思議なフレーズから始まるインストです。「おーおーおー」や「わー」のコーラスが魔法的な響きで好きです! 間奏部分の左右のギターの絡み合いがトリッキーで、僕はツインギターフェチなので よだれが垂れてきます(喩えです)。

六曲目の『Nuvem Cigana』

Milton Nascimentoとの作品『Clube da Esquina』に入っていた曲のリアレンジ版です。さっきから不思議不思議ばっかり言ってますが、この曲もまた不思議な感覚を与えてくれる特別な曲です。死後の世界でかすかに聴こえてくる曲、みたいな印象を抱いています。

本作に収録されている曲は全部ギターが良いです。普通弾かないよな……というフレージングというか……楽理に疎いのでうまく説明できないのがもどかしい……本当に何を聴いて/コピーして育ったらこういう音楽が作れるのだろうと思います。

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相変わらず個人的に聴いていて視えてくる映像の話ばかりになってしまいましたが……

アコースティックな楽器を用いたあたたかいサウンドの前作とは異なり、いかにも80年代的な音作りに変化してはいるものの、郷愁にも似た特別な感情を抱かせてくれるソングライティング能力の凄まじさは健在で、80年代の音に懐かしさを覚える僕にとってはかなりグッとくるアルバムです。

おすすめです。


おわり

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