似ているあの子
私の恋人は出会ってもう27年になる。途中会わなかった期間も長いので、飛び飛びの付き合いなのだが、彼は出会った頃から余り変わることもなく(本人のために言っておくが見た目も)不思議な気分になることもよくある。私は彼のことを愛している、未だに、多分。それも結構強めに。
始めは彼に避けられてきた。何と付き合い始めたのは比較的最近であり、彼も色んな経験を積んで、私を受け入れる何かが出来たのであろう。今はラブラブな二人である。こんな事もあるのね。
だから、前の私のことなんか彼はあんまり知らないだろうとは思っていたけど。
昨日彼が突然「君に似ている子を見付けた」と言ってきた。
断っておくが、私は彼に劣等感を持っている。最初振られたときの印象が強い。今だって彼の気持ちをややもすると疑ってしまう。私にとって、穏やかで優しい彼はそれでも嫌いになれないけど。
だから、「似ている」と言われても、何だかそれが誰か見たくない気がしていた。からかわれているかもしれないし。怖かった。
でも、恐る恐る送られてきた動画を見てみた。企業の期間限定のコマーシャルCMなのだそうだ。
15秒のショートバージョン。その子の登場は3カット位。あっと言う間だったけど、じわじわ思えてきた。確かに似ているかも。
二十代の私かも。眼とか斜に構えた所とか、怪訝そうな表情とか。険があるところとか。
でも…可愛かった。可愛い子だった。
嬉しかった。彼はこのコマーシャルを2回見て、1回目見たときに「私」だと思い、2回目見たときに必死で情報を整理して記憶しググったそうだ。
私はもう壮年期に入り、最近出会った人達は当たり前のことであるが、最近の私のことしか知らない。でも彼はもう懐かしい私のことを知っている。それは私も最早忘れている私である。
私も若い彼を知っている。それは最早彼も忘れている彼である。私の大切な思い出である。
でも、見ていないようで見てくれていたんだな。
好きではなかったろうけど。
くすぐったいような、心がじんわり暖まる感じ。
若かった私に教えてあげたい。だからもう少し機嫌良く生きろと。