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心が軽くなるコミュニケーション講座 ココカル!受講記(2025/01/26)
地域医療学会でご講演をお聞きした、岡山容子先生が主催なさっている、
心が軽くなるコミュニケーション講座 ココカル! #41 (前編/後編)
に参加させていただきました。
以前はバッドニュースコミュニケーションという名前で行っていたそうですが、現在は心が軽くなるコミュニケーション=「ココカル」という名前に変わったそう。
すごく印象に残る素敵なお名前✨
講座の内容
先生について
ご講義いただいた岡山先生は麻酔科出身 で、
低身長、声が甲高く不必要によく通る、童顔、性質も多動系などと「医師にみえない」要素が多かったことから、「信用できない感じ」だと患者さんからの拒否されることが多かったそう。硬膜外麻酔をしようとすると逃げられてしまうことや、「医師免許持ってらっしゃるんですか?」と聞かれたこともあったとか!
学ぶこと
講座では、コミュニケーションの基本、拒否のメカニズム、拒否を和らげるための方法、バッドニュースを伝える技法を学びました。
この講座を受講することで、
・相手にとって「分かってくれる人」になれる
・「何と言っていいかわからない」状況でどのように言葉をかけるといいかが分かる
・言いにくい知らせを伝える時「呪いの伝達者」から、「善意の使者」になることができる
これらによって、自分自身も楽になるという効果があります。
コミュニケーションの基礎
まず、「聞く態度」がどれほどコミュニケーションに大きな影響を与えるか学びました。
我々医療従事者にとって、「ながら聞き」は避けられないことがあります。しかし、最後いい聞き方ができれば、いい印象を残すことができます。
次に、「説得してみる」ワークを行いました。
今回は、「おむつが嫌」な患者さんを説得するというものでした。
あまりオムツを拒否されている方にお会いした経験はないのですが、「オムツはしてくれるけど、高いからなのか、サイズはMではなくてSにこだわる方」もいらっしゃるとお聞きして驚きました。
終了後、説得を受けて、嫌だという感情的な思いがさらに強くなる感じがするという感想が挙がっていました。
説得する側も感情的になってしまうと、感情のぶつかり合いになってしまうという場面はよく遭遇するような気がします。
次に、「反復してみよう」というワークを行いました。
小澤先生のセミナーでも反復のワークは何度かさせていただいたことがありましたが、今回は特に、「相手の言っている言葉をそのまま確認する」ことの重要性を学びました(印象に残ったことその1)。
私は今まで、コミュニケーションはキャッチボールのイメージだと思っていました。
しかし、反復の手法をメインにするコミュニケーションにおいては、医師は医療情報は提供しつつ、相手の言ってることを聞くことがメインになります。
必ずしもキャッチボールの形が重要なのではなく、
拒否のメカニズムと、それを和らげる方法
人が反発する時というのは、拒否をしている状態と言えます。
拒否は、どのようにして生まれてくるのでしょうか。
一般的に、自分に対する認識は、実際の状態より高いことが多いです。そのギャップが精神的動揺に、そして拒否につながります。
だからこそ、「正しいことを指摘されると腹が立つ」わけです...!
説明が「入らない(=理解してもらえない)」というのも、「拒否(=説明、つまり現実を需要できない)」の一種です。
拒否を和らげるためには、やさしい態度をとるだけでは不十分で、相手にとって自分が「わかってくれる人」になることが必要です。
この辺りは、小澤先生ともお勉強させていただいた内容でした。
「寄り添う=聴く+待つ」とも表すことが出来ます。
「わかってくれる人」になるためには、
適切な反応を返しながら相手の話を聞く=聴く
と、
まず沈黙を待ちながら相手の話を聞く=待つ
の両方が重要です。
まずは、相手の話を聞く「傾聴」が重要です。
傾聴には3種類あります。
受動的:うなずき、相槌、アイコンタクト、正面から見るなど、世間話レベルで「感じが良くて話しやすい」
反映的:トーンや動作を合わせて反復・ミラーリングを行う
積極的:相手の発言に言葉を添えたり、質問をはさんだりして話し手の考えが纏まるよう促す
という3種類です。
この分類で言うと、受動的傾聴はふんふんと聞くだけで、雑談するだけの人になってしまいます。積極的傾聴を身につけ、「そうなんです!」と言う言葉を引き出すのが上級者です。
応答には2種類あるのだと言うことを教わりました。
反応型:自分の意見で答える、たとえば「眠れないんです」という発言に対して「疲れているからですね」などと答える
確認型:相手の言葉をそのまま返す、平たく言うと反復
の2種類です。
ここで、反復の成功の確認には、「そうなんです」という言葉が鍵となります。
ただただ反復するだけでは、会話が単調になり、上記の通り「コミュニケーションはキャッチボール」だと思っていた私は、かなり不安を覚えました。
「寄り添う」「傾聴する」などを実際に行うのに、抵抗を感じている方がいらっしゃるとしたら、無意識のうちにこの前提を信じているのかもしれません。
そこで、先生が「反応の音程を変える」ことを提案してくださいました。言葉は短くしても良いけれど、使う言葉は変更しないというのが重要です。
さらに、倒置法を使うことで、「オウム返し」っぽくはせず、相手と同じ言葉を使うことが出来ます。
反復しにくい言葉に対しては、「〜と思われているんですね」が使えます。
例えば、
「ああもうそろそろ死んでしまうんやなと思う」に対して、「ああもうそろそろ....と思われるんですね」とクリティカルなところを除くと反復しやすくなります。
一つ驚いたのは、カルテを書くにあたって、一部の患者さんのお言葉は解釈(=要約したり意味だけをとること)をせずに、出来るだけ音だけを拾って記録していらっしゃるということです。
ワークを通して、自分がいかに普段意味を掴もうとして会話をしているかに気付かされました。相手が使った言葉を覚えておくのはかなり難しかったです。
尊厳を問う
より悩みが重くなるほど、相手からすぐに言葉が出てこない、「沈黙」の時間が長くなります。相手が何も発さなくても、沈黙を待つ時に、「待ってるぞ、来い!」という雰囲気を醸し出して、耐えることが大切です(が、これがかなり難しいことがワークを通してわかりました)。
相手の発言に言葉を添えたり、質問をはさんだりして話し手の考えが纏まるよう促す積極的傾聴では、相手にとってどのようなことが誇らしいことだったか、充実していると感じられたか言語化するのを助ける「尊厳を問う」質問をします。
例えば、「自分らしいってどういうことをしたとき感じられましたか?どんなことをしていると楽しいと感じられましたか?」など。
これを話してくれる時の相手は、キラキラしています。これに似たワークは小澤先生とも行いましたが、こちらまで嬉しい気持ちになったのを覚えています。
共感しながら反復する、つまり「鏡のように返すのではなく、一回自分の心の温泉に浸けて温めてから返す」ことで、より「分かってくれる人」に近づくことが出来ると教わりました。
帰れ!!!
次に、訪問したのに、「帰れ!」と仰る患者さんにどのように対応するか、ワークを行いました。
「帰れ!!!!」と言われた時、「帰れというお気持ちなんですね」と反復すると、「そうや!!!」とキレられるのですが...
ここで
(あっ、そうなんですゲット!!!)
と喜ばなければいけません笑笑
ただし、その後会話を続けようとしても、相手は帰れの一点張り。自分が聞きたいことだけ質問してしまい、一問一答になって終わってしまいました。
先生からお聞きしたこの問題の解決方法は、「何かできていることを尋ねることによって、相手が話したいことを引き出す」という手法です。
確かに、「困っていること」や「変えなければならないこと」を引き出すことは難しくても(自分が行うことを考えても、思い付くのも話すのも難しいと思います...)、
「現在できていること」なら引き出しやすい気がします。
ネガティブな気持ちの表出
=心のうんこ
地域医療学会で伺って、一番印象に残った(救われた)言葉が、
ネガティブな気持ちの表出=心のうんこ
という表現でした。
排便した時って、なんだか嬉しい気持ちになりませんか?スッキリするような。
人間にとって老廃物の排出である排便が非常に重要であるのと同じで、ネガティブな気持ちの表出も重要なことです。
排便を喜ぶ医療者と同じく、ネガティブな気持ちの表出も喜んで聞けたら素敵ですね。
ネガティブな気持ちの表出の対応が苦手だと、「そんなこと言わないで」
「頑張って」
と声をかけてしまいがちです。
しかし、それらはNGワード。何故ならば「もうこれ以上何を頑張ればいいの」という思いを抱かせること、見放されている感じを与えることがあるからです。
自分を守り、相手の気持ちを慰めるためには、反復を使うことが有用です。何も言葉が出ないという居た堪れない状況から逃げられるだけでなく、相手の心に寄り添うことができます。
黒い(=返事に困る、反復するのが躊躇われるような)言葉が出てきてしまった時の対応のコツは、「そんな言葉が出るほど辛いんですね」という言葉を使うことです。
これが反復と同じ効果を持ちます。
但し、ここで、先生が仰っていたのは、その処理は「お金を貰っているからできること」であって、医療者にとってもしんどいことであるということ。
セルフケアも大切にしながら、上手な距離感を保てるようにしたいですね...
「最善に期待して最悪に備える」
次に、悪い知らせの伝え方について。
悪い知らせを伝えるのは、
・いい状況に好転させたい
・さらに状況は悪くなる時の心構えをしてもらいたい
という気持ちからです。
単にバッドニュースを伝えるだけの「悪い預言者」になってはなりません(改善案がないのに原案をただただ否定するのも同じことです、腹が立ちませんか?)。
最善に期待して全力を尽くすという”支援の約束“をすることによって「善意の使者」になることができます。
「大好きだからもっと元気になってほしい」
「大好きだから、必ずその日が来るのであれば穏やかに旅立てるようにしてあげたい」
と思っているのだと相手に伝わることが大切です。
「生き方を考えられる」「残り時間を有意義に過ごせる」というのは、患者さんが行うことであって、医療者が積極的に行うよう勧めることではありません。
「これを知らずしていきなりそのことが現実になったら、衝撃を受けすぎて傷つきすぎてしまう」ことを相手に伝えることが、『心の避難訓練』です。
「無防備に傷ついてほしくない。だから、一緒に作戦を立てておきましょう。」と、“支援の約束”を欠かさないことが大切です。
「悪い知らせ」を伝える技法
「悪い知らせ」を伝える際の技法として「SPIKES」があります。
「SPIKES」は、以下の6項目からなります。
<Setting>
面談環境の設定。「大事な面接です」と伝える。
<Perception>
患者さんの認識を知り、ギャップの程度を測る。また、信用できる人だと思ってもらう。
<Invitation>
「思っておられるより難しいお話になると思いますが、このままお話を続けていいですか?」と「前置き」を伝えてギャップを小さくしておく。(ワンクッション置く)
<Knowledge>
診療情報を明確に伝えるが、感情の先取り(お辛いですね)は反発を招きがち。意外性の確認(驚かれたのではないですか)は問題ない。相手の感情が落ち込むことに配慮し、伝える方もトーンを落とすなどミラーリングを忘れない。
<Empathy>
一連の情報を伝えた後、「精神的配慮」の言葉がけをする、共感的な対応が大切。崖から突き落とされたような感覚にならないよう、“支援の約束”を忘れない。
<Strategy&Summary>
方針を決めていく。ここではご本人だけでなく、ご家族をはじめ相手にとって身近な人とのコミュニケーションも非常に重要。
次に、「東京からの息子」ワークを行いました。
遠方である東京から帰ってきた息子との間で、父親の治療計画に関してひと悶着起こる、というシチュエーションです。
このワークを通して、「SPIKES」のS、<Strategy&Summary>を行う上では、ご家族をはじめ相手にとって身近な人とのコミュニケーションが非常に重要だと学びました。
医者の想像するゴールに向かうよう話をするのではなく、場の力を信じて、ファシリをすることが私たちの役割です。
「ここにいる皆さんが、全員お父さん大好きってことです。」
「その前提を持って、話し合いをしませんか?」
と声をかけ、どこようなゴールになってもそれを受け止める姿勢が求められます。
このワークから、後述しますが、「共に揺れる」ことについて学びました(印象に残ったことその2)。
最後に、「これからの過ごし方勉強会」実践講座のご紹介を受けて、終了。
印象に残った3つのこと
その1
信頼を得るためのコミュニケーションでは、完全に自分が相手の言っていることを理解する必要はない
そもそも、完全に相手を理解することは無理とも言えます。
今回の講座の中で、とても気に入った事例がこちらです。
患者さん「今日は身体がドターっとしているんです」
医者「ああ、今日は身体がだるいんですね」
患者さん「いや、......ドターっとしてるんです」
医者「ああ、だるいんじゃなくて、ドターっとしているんですね」
患者さん「そうなんですそうなんです!」
このとき、「ドターっとする」と「だるい」の違いは理解していないかもしれません。
ただただ相手の言っていることを確認しながら聞くことによって、「この人は話を聴いてくれる人なんだ」と信頼を得ることが出来ます。
(モデルは金八先生なんだそうですが、)「言うことを聴いてくれる人は信用できる人、信用できる人の言うことは聞く」という人が多いからこそ、この方法は非常に有用だと思いました。
その2
自分の価値観をどこまで持ち込むのか
「共感(empathy)」と「同感(sympathy)」は異なります。自分の思いと相手の思いが分離しているかどうか、という違いです。
相手の意見を頭から否定しない態度が共感であり、感情を同調させているわけではありません。「自分の人生観を持ち込まない」と言うことが前提となります。
感情を同調させることは、全ての人に対して行える技法ではありません。
どんな人にとっても「分かってくれる人」であるためには、「自分の人生観を持ち込まない」ことで共感できる能力を身につける必要があります。
治療方針の決定においても、「自分の人生観を持ち込まない」能力が求められます。
治療方針の決定において、私たちにとっての理想を叶えることが必ずしも最善とは限りません。医者の想像するゴールに向かうよう話をするのではなく、場の力を信じて、ファシリをすることが私たちの役割です。
上手な「おせっかい」のやり方
最近、コミュニティナースに触れ、考える機会が多くありました。
周囲の人たちを観察して、自分のアンテナに引っかかった人に声を掛ける。そして手を差し伸べる。
資格がいらないからこそ、出来そう、やってみたいと思う一方で、実際は突然声を掛けることを躊躇ってしまう自分に気付き、自信をなくしていました。自分の価値観をどれだけ相手に押し付けていいものなのだろうか、自分が良いと思っていることが相手にとってどう思われるのだろうかと不安になってしまっていました。
私の尊敬する友人が、こんな記事を書いています。
1人のことを考えて、短期的だけではなく中長期的にこうした方がその人にとって元気になることにつながるよなあと思ったことは積極的に言動するということ。
でもこれが言葉でわかってもなかなかできない。
恥ずかしさなのか、めんどくさなのか、変な気遣いなのか。
確かに、みんなできて、みんなできない。
この言葉は、今まで、自分の中でぼんやりとして掴みどころのなかったコミュニティナースの概念を、的確に言い当ててくれているような気がしました。
誰でもコミュニティナースになる資格を持ってはいるけれど、
絶対に相手を助けることが出来るという確証はどこにもない。
どうすれば価値観を押し付けることなく、上手に手を差し伸べられるのか。
それを考えるうえで大きなヒントとなるお話を、このセミナーで聞くことができました。
それは、相手に取り入れてもらえる、喜んでもらえるという期待を捨てて、とりあえず紹介してみる姿勢でいるということです。
コミュニティナースとしての活動に限らず、
医療従事者という立場から、医学的視点を持って「こうした方がいいだろう」と考えて伝えた解決方法が拒否されてしまうことや、
明らかに困っているように見えるのに、「助けは必要ない」と拒絶されてしまうことはよくあります。
そんな時、相手に思いついたこと(=自分の価値観)を押し付けてはなりません。
「困った」と言われたときに、即座に支援できるように準備しておくことが大切です。
見たことないものを選ぶのは難しいことです(例えば、大して車に乗ったことや車を細かく見たことがないのに、購入時に沢山のオプションを選ぶのは難しいことだと思いませんか)。
だから、患者さんに対して、医療従事者として医療情報を提供するのは絶対に必要なことです。
本当に困る前に、一度「何らかの提案(ご紹介)だけしておいて、それを拒否される」という経験を作っておきます。
するとそのほのめかしによって、相手には「自分はそれが必要な状態である」と認識してもらえます。心から必要だと感じてすぐさまそれを導入するわけではなくても、頭の片隅にその印象が残ります。
そうすることでギャップが小さくなっていると、本当にそれが必要な状態になった時、導入を受け入れやすくなります。
例を2つ挙げてみたいと思います。
例1)訪問薬剤などのサービスは、ご紹介しても、「自分で取りに行ける」「家族に行ってもらえる」と言われることが多いんだとか。それでも、
「お金の問題もありますし、今導入しなくてもいいとは思うのですが、便利な制度のご紹介だけはしておきますね。」
と提案はすることが多いそうです。
例2)「バルーンカテーテルが抜けたから入れにきて」と、施設から依頼があったことがあったそうです。
でも、患者さんは「いややー!」と言っている。
施設の方は、「ほら〇〇さん、先生来てくれはってんから...」と患者さんを説得しようとします。
そこで先生は、「いや大丈夫ですよ、膀胱カテーテルが無かったら多分〇〇さん苦しいと思うんです、それで入れて欲しいってなるまで待ったらいいです。」と仰って、一度お帰りになられたそう。相手から求められるギリギリまで待つ心の余裕を持って、一緒に揺れながら柔軟に対応する。
これが「心から喜んでもらえるおせっかい」をするのにとても大事なことだと学びました。
時が満ちて、「困りが満ちる」まで待つ。
振り回されるのではなく、自分から戦略的に、共に「揺れ」に行く。
これは、対話における沈黙とも似ている気がしました。
すぐ決めようということではなく、一緒に悩み続けるということ。
これらが苦しみを抱える方々に限らず、どんな人と関わるにあたっても、大切なことなのではないかと考えました。
まとめ
セミナーの流れと、印象に残ったこと2つをご紹介しました。
人生の最終段階においては、「医療」はあまり役に立たなくなりますが、「ケア」が非常に重要になります。
普段の生活において、相手にとって「医療」が必要なくても、「ケア」が必要な場合は多くあります。
だからこそ、この「心が軽くなるコミュニケーション」を学ぶことには、非常に価値があると感じました。
岡山先生、そして今回一緒に受講してくださった皆さん、本当にありがとうございました!
とても有意義な時間になりました。
HPはこちらです。
私は、次、4/27の「これからの過ごし方実践者養成講座」に参加予定です。
次回はクリニック現地に行く予定!楽しみです😌