街人
向こうの山で突然、
青と緑が混ざった色したモコモコの
怪獣が現れた。
怪獣の目は大きくて、かわいい。
あんまり怖くはなかった。
そいつは山だけで収まらず、
何食わぬ顔で、まっすぐ街まで歩いてきた。
フワモコな四肢を使って一歩ずつゆっくり歩く。
だが着実に向かってきていた。
そして、ついには大きな足の裏で、私たちが街と思っているものを踏み潰し始めた。
驚いて、逃げ惑う私たち。
当然続く『平和』だと思っていたものが
木っ端微塵だ。
あそこに勤めていたら立派な人
の象徴であったビル。
大きい手の平でぶん殴られて、建物の真ん中が横に飛ぶ。
街人たちの唖然とする顔。
そんな中、勤めびとの安心したようなため息が小さく響いていた。
私たちの溜まり場だったショッピングモール。
何度もママ友達と夫の悪口を言っては、子供をゲームセンターで遊ばせた。
なにが正しいのかわからないを共有していた場所だった。
既製品が並んでいることだけが、不安を解消してくれていた。
その思い出も、そいつの足の元でぐにゃりと潰れた。
ここまできたら、なにが崩れても驚かない。
そう思っていたが、
怪獣が吐き出したビームには心底驚いた。
初めて見る信じられないほどの光だったからだ。
足で踏みつけることがめんどくさくなったのか。
フワモコ怪獣は、ビームを使って
歴史的建造物も、私たちの家も、何もかも、
すべて同じ、灰にしてしまった。
灰になると、全てがきれいに風に吹かれた。
私たち街人は、今まで、不必要な何かに
囚われていたことに気がついた。
怪獣は満足したように去っていく。
そいつは、破壊はしたが、なにも奪ってはいかなかった。
私たちは何も傷ついていない。
そしてシン自分に向かうチャンスが手に入った。
これでよかった。
しばらくすれば、すぐに新しい緑の芽がこの街を覆うのだろう。
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