ロジスティード、アルプス物流の完全子会社化
案件概要
公開買付者: LDEC株式会社(ロジスティード株式会社の完全子会社)
買付対象: 株式会社アルプス物流の普通株式および新株予約権
公開買付価格:
普通株式:1株につき5,774円
新株予約権:新株予約権の種類に応じて異なる(詳細は後述)
買付予定数:
下限:6,368,100株
上限:設定なし(応募株券等の全部の買付け等)
公開買付期間: 2024年8月22日〜2024年10月4日(30営業日)
案件目的
本公開買付けの目的は、アルプス物流の株式を非公開化することですが、その背景には、アルプス物流の企業価値向上と、アルプスアルパインの物流サプライチェーンの維持・発展という2つの目的があります。
アルプス物流の企業価値向上
公開買付者であるLDEC株式会社は、ロジスティード株式会社の完全子会社であり、ロジスティードは、KKRファンドと日立製作所が出資するロジスティードホールディングス株式会社の完全子会社です。従って、本公開買付けは、KKRファンドと日立製作所がアルプス物流を買収することを意味します。
KKRファンドと日立製作所は、アルプス物流が持つ電子部品物流や消費物流における強みを評価しており、ロジスティードグループが持つ経営資源やノウハウと組み合わせることで、更なる成長と企業価値向上を支援できると考えています。具体的には、
ロジスティードグループの顧客基盤を活用した、アルプス物流の既存事業の拡大や新規事業への進出
ロジスティードグループの国内外の物流網との連携による、アルプス物流の事業基盤強化
株式非公開化による、意思決定の迅速化や、上場維持コスト・管理部門の業務負担の軽減
アルプスアルパインの物流サプライチェーンの維持・発展
アルプスアルパインは、アルプス物流の筆頭株主であり、アルプス物流の株式を売却する一方で、今後も議決権比率で20%の株式を保有し続ける予定です。
アルプスアルパインは、自社の製品の拡販やサプライチェーンの安定化を図る上で、アルプス物流の持つ専門性やノウハウが不可欠だと考えています。そのため、株式を売却する一方で、今後もアルプス物流との関係を維持し、自社の物流サプライチェーンの維持・発展を図りたいと考えています。
買主と対象企業の関係性
この公開買付けには、複数の企業や株主が関わっており、それぞれの思惑や関係性が複雑に絡み合っています。ここでは、主なステークホルダーの関係性を整理し、深掘りしてまとめます。
1. LDEC株式会社(公開買付者)
目的: アルプス物流の完全子会社化を通じて、企業価値向上を図ること。
背景: 親会社であるロジスティード、およびその親会社であるロジスティードホールディングスの意向を受けて設立されたSPC(特別目的会社)。
関係性:
ロジスティード株式会社: 親会社であり、資金調達等の面で支援。
アルプスアルパイン株式会社: 公開買付け後、公開買付者の株式の20%を取得予定。
アルプス物流株式会社: 本公開買付けの対象会社。買収後は完全子会社化し、経営権を取得する。
2. ロジスティード株式会社
目的: アルプス物流買収を通じ、事業基盤の強化、シナジー創出による企業価値向上を図ること。
背景: KKRファンドと日立製作所が出資するロジスティードホールディングスの完全子会社。物流業界での豊富な経験と実績を持つ。
関係性:
LDEC株式会社: 子会社であり、アルプス物流買収の実働部隊。
アルプスアルパイン株式会社: 資本業務提携契約を締結。協業を通じてシナジー創出を目指す。
アルプス物流株式会社: 買収対象企業。電子部品物流や3PL事業におけるノウハウ・顧客基盤などの強みを評価。
3. アルプスアルパイン株式会社
目的: アルプス物流株式の売却と、物流サプライチェーンの安定確保の両立を図ること。
背景: アルプス物流の筆頭株主。自社製品の物流を長年にわたりアルプス物流に委託している。アルプスアルパインは、アルプス物流の株式の48.74%を保有
関係性:
LDEC株式会社: 公開買付け後、同社の株式の20%を取得し、間接的にアルプス物流への影響力を保持する。
ロジスティード株式会社: 資本業務提携契約を締結。良好な関係を維持し、物流サプライチェーンの安定確保を図る。
アルプス物流株式会社: 売却対象企業。売却後も株式の一部を保有し続け、取締役・執行役員の指名権も保持するなど、関係性を維持する。
案件背景
アルプス物流を取り巻く経営環境
電子部品関連事業:
好調な市場環境: 通信の5G関連機器の普及、自動車の電子化、AI、IoT、DXの実用化などにより、電子部品産業の需要拡大が見込まれ、成長が予想されます。
顧客ニーズの高度化・多様化: 商品やマーケットの変化、サプライチェーンの効率化・強靭化が進み、顧客の物流改革ニーズは高度化・多様化しています。
経済安全保障リスクへの対応: 地政学リスクや感染症リスクなど、経済環境の不確実性が高まる中、経済安全保障上のリスクマネジメントが求められています。
消費物流事業:
個人宅配・通販需要の増加: ライフスタイルの変化や宅配サービス・通販ビジネスの成長により、食品や日用品の個人宅配や通販の需要が高まっています。
物流インフラへの負荷増大: 貨物量の増加や即日配送サービスの普及により、物流インフラへの負荷が増大し、人手不足やコストアップが深刻化しています。
このような事業環境の中、アルプス物流は、第5次中期経営計画を策定し、
電子部品関連事業: グローバルなビジネス拡大、省人化・自動化の推進、ESG対応強化などを推進
消費物流事業: 生協向けビジネスの拡大、通販・EC物流の拡販強化、医薬品市場などの開拓、自動化推進などを推進
といった戦略を掲げていました。しかしながら、2023年度の業績は電子部品関連事業では、航空貨物の減少や国際輸送運賃の落ち込み、生産停滞による貨物取扱量の減少などが影響し、消費物流事業では、人件費や倉庫賃料などのコスト増加が影響しました。
公開買付者(LDEC株式会社)の背景
親会社: ロジスティード株式会社(物流大手)の完全子会社
設立目的: アルプス物流の株券等を取得し、事業活動を管理すること
ロジスティードの事業:
幅広い事業領域: 自動車、産業機器、半導体、消費、流通、食品、医薬品、化粧品などの幅広い業界で3PLやフォワーディング事業を展開。
強固な事業基盤: 国内外に多数の拠点を持ち、海外事業の売上高比率は約40%。
成長戦略: 顧客視点に立った課題解決、新たな価値創造、持続的な成長などを目指す。
アルプスアルパインの意向
アルプス物流株式の売却: アルプスアルパインは、保有するアルプス物流株式を売却することで、資金調達を行うとともに、資本関係の再構築を図ることを検討していました。
物流サプライチェーンの安定確保: アルプス物流は、アルプスアルパインにとって重要な取引先であり、その安定的な物流サービスの提供は、アルプスアルパインの事業継続にとって不可欠です。アルプスアルパインは、株式売却後もアルプス物流との良好な関係を維持し、物流サプライチェーンの安定確保を図りたいと考えています。
案件後の経営方針
公開買付者は、本公開買付け後のアルプス物流の経営方針について、以下の3つのポイントを挙げています。
執行体制の維持と強化
現体制の維持: アルプス物流の現行の執行体制を基本的に維持する方針です。
ロジスティードからの役職員派遣: ロジスティードから、オペレーショナル・エクセレンスの共有やシナジーの実現に必要な役職員を一部派遣する予定です。
人材の相互交流: アルプス物流の役職員をロジスティードの要職に就任させるなど、人材の相互交流も実施する予定です。これにより、アルプス物流の専門性・ノウハウをロジスティードグループ全体で活用し、グループ全体の成長を加速させることを目指します。
監査体制の維持
監査等委員会設置会社の維持: 業務執行の迅速化と、監査の実効性・社会的信用性の向上を両立させるため、現行の監査等委員会設置会社体制を維持する予定です。
資本業務提携契約に基づく連携強化
取締役・執行役員の構成:
取締役:上限13名。うちアルプスアルパインが3名、ロジスティードが10名を指名する権利を有します。ロジスティードが指名する取締役のうち3名はアルプス物流の推薦に基づきます。
執行役員:原則7名。うちアルプスアルパインが3名、ロジスティードが4名を指名する権利を有します。ロジスティードが指名する執行役員のうち3名はアルプス物流の推薦に基づきます。
任期:本自己株式取得の実行日から少なくとも1年間は、上記の構成が維持されます。
アルプスアルパインの執行役員指名権: アルプスアルパインは、本自己株式取得の実行日から3年間、アルプス物流の電子部品物流事業(アルプスアルパインの製品の拡販・サプライチェーンに関するものに限る)を担当する執行役員3名を指名する権利を有します。
株式譲渡制限: ロジスティードとアルプスアルパインは、本自己株式取得の実行日から5年間、保有する公開買付者の株式を譲渡することが制限されます。
案件検討の経緯
アルプス物流の資本関係再構築の検討は、以下の経緯で進められました。
アルプスアルパインからの売却提案: 2023年10月上旬、アルプス物流の筆頭株主であるアルプスアルパインから、保有株式の売却を含む資本関係再構築の検討を行っている旨の連絡がアルプス物流にありました。
売却方法の協議と入札プロセスの決定: アルプス物流とアルプスアルパインは協議を重ね、複数の候補者を対象とした入札手続き(公開買付けとそれに続くスクイーズアウト手続きを原則とする)を実施することで合意しました。
第一次入札プロセス: 2023年12月中旬、アルプス物流とアルプスアルパインは、事業会社や投資ファンド計15社に第一次入札プロセスへの参加を打診しました。
第二次入札プロセスの開始: 2024年1月下旬、第一次入札プロセスにて11社から意向表明書が提出され、その中からロジスティードを含む3社が第二次入札プロセスに選定されました。
最終提案書の提出と再検討要請: 2024年3月18日、第二次入札プロセスにて各候補者から最終提案書が提出されました。アルプスアルパインとアルプス物流は、更なる株式価値評価額と公開買付価格の引き上げを求め、ロジスティードはこれに応じ、修正後の最終提案書を提出しました。
最終候補者の選定と交渉: 2024年4月10日、ロジスティードから再修正最終提案書が提出され、アルプス物流とアルプスアルパインは、その提案内容を総合的に評価し、ロジスティードを最終候補者として選定しました。その後、ロジスティードと詳細な交渉を行い、最終的な公開買付価格などを決定しました。
各種契約の締結と公開買付けの実施: 2024年5月9日、ロジスティード、アルプスアルパイン、アルプス物流の間で資本業務提携契約が締結され、アルプスアルパイン、公開買付者、ロジスティードの間で取引基本契約が締結されました。そして、2024年8月21日、公開買付者は、必要な競争法上の手続きなどを完了したことから、本公開買付けを開始することを決定しました。
取引スキームの特徴点
今回の取引スキームは、公開買付けを第一段階とし、その後、株式併合や自己株式取得などを組み合わせることで、最終的に公開買付者がアルプス物流を完全子会社化することを目指す、いわゆる「二段階買収」の形式を取っています。
このスキームには、いくつかの特徴的な点があります。
株式併合による少数株主の排除(スクイーズアウト)
公開買付け後、公開買付者がアルプス物流の株式を全て取得できなかった場合、株式併合という手法を用いて、少数株主を強制的に排除し、公開買付者とアルプスアルパインのみを株主とする状態にします。
株式併合: 複数の株式を一定の割合で統合し、少ない数の株式にすること。
少数株主への対価: 株式併合により保有株式数が1株未満となった株主には、現金が交付されます。その価格は、公開買付価格に少数株主が保有していた株式数を乗じた金額と同一になるように設定されます。
自己株式取得によるアルプスアルパインの保有株式の取得
株式併合後、アルプス物流は、アルプスアルパインが保有する株式を自己株式として取得します。
取得価格: 公開買付価格よりも低い価格(当社自己株式取得価格)が設定されています。
価格設定の背景: アルプスアルパインは、この取引を通じて法人税法上の「みなし配当」の規定による節税効果を得ることが見込まれます。この節税効果を考慮した上で、アルプスアルパインが公開買付けに応募した場合と自己株式取得に応じた場合の税引後手取り額が同等になるように価格が設定されています。
少数株主保護の観点: 公開買付価格よりも低い価格での自己株式取得は、少数株主にとって不利になる可能性があります。しかし、本スキームでは、
少数株主には公開買付けに応募する機会が与えられており、その価格も市場価格に十分なプレミアムを上乗せした公正な価格であると評価されています。
アルプスアルパインの節税効果を少数株主にも還元する形で自己株式取得価格が設定されている。 ことから、少数株主の利益も適切に保護されていると考えられます。
公開買付者への再出資
アルプスアルパインは、自己株式取得で得た資金の一部を、公開買付者に対して再出資する予定です。これにより、アルプスアルパインは公開買付者の株式の20%を取得し、間接的にアルプス物流の株式を保有し続けることになります。
目的: アルプスアルパインは、再出資を通じて、非公開化後もアルプス物流の経営に関与し、自社の物流サプライチェーンの安定確保を図ることを目指しています。
価格: 再出資における株式の評価額は、公開買付価格と同一の価格が用いられる予定です。
資金調達
公開買付者は、公開買付けと自己株式取得に必要な資金を、親会社であるロジスティードからの出資と借入によって調達します。また、アルプス物流は、自己株式取得に必要な資金と分配可能額を確保するため、公開買付者からの資金提供と減資を行う予定です。
取締役会の意見(応募推奨、賛同について)
アルプス物流の取締役会は、本公開買付けに賛同の意見を表明し、株主に対して応募を推奨しています。
この意見表明は、以下の2つの点が主な根拠となっています。
企業価値向上への貢献
取締役会は、ロジスティードとの資本業務提携を通じて、アルプス物流が非公開化することで、以下のメリットが得られると考えています。
迅速な意思決定: 株式公開企業としての制約がなくなり、迅速かつ柔軟な経営判断が可能になります。
機動的な事業投資: 上場維持のために必要なコストや資源を、成長のための投資に振り向けることができます。
外部知見の導入: ロジスティードグループの持つノウハウや経営資源を活用し、アルプス物流の企業競争力を強化できます。
シナジー効果: ロジスティードグループの顧客基盤や国内外の物流網との連携により、事業拡大や効率化が期待できます。
これらのメリットにより、アルプス物流の企業価値向上に繋がると判断し、公開買付けに賛同しています。
特別委員会の答申
アルプス物流は、少数株主の利益保護の観点から、独立社外取締役で構成される特別委員会を設置し、公開買付けの妥当性などを評価してもらいました。
特別委員会は、詳細な検討の結果、「本公開買付けは少数株主にとって不利益でないと考えられる」という意見を答申しました。
取締役会は、この答申を最大限尊重し、自らの評価結果も踏まえて、最終的に公開買付けに賛同する決議を行いました。
価格の算出方法
公開買付者とアルプス物流の取締役会は、それぞれ異なる方法で価格算定を行っています。
1. 公開買付者の算定方法
公開買付者は、アルプス物流が開示している情報やデューデリジェンスの結果、市場株価、類似企業との比較などを総合的に考慮し、買収価格を決定しました。
市場株価などを参考: 公開買付価格(5,774円)は、
公開買付け公表前営業日の終値(3,815円)に51.35%のプレミアム
過去1ヶ月の終値平均(3,176円)に81.79%のプレミアム
過去3ヶ月の終値平均(2,705円)に13.44%のプレミアム
過去6ヶ月の終値平均(2,183円)に164.55%のプレミアム
報道機関による憶測報道等がなされた日の前営業日の終値(1,958円)に194.89%のプレミアム などを上回る水準に設定されています。
類似企業との比較: 事業内容や規模などが類似する上場企業の市場株価や財務指標との比較も参考にされています。
第三者算定機関の評価は未取得: 上記の分析に加え、アルプスアルパインとの協議・交渉を経て価格を決定したため、第三者算定機関からの評価は取得していません。
2. アルプス物流の取締役会による算定方法
アルプス物流の取締役会は、独立した第三者算定機関であるSMBC日興証券に株式価値の算定を依頼し、その結果を参考に価格の妥当性を評価しました。
複数の評価手法を採用: SMBC日興証券は、
市場株価法
類似上場会社比較法
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法) の3つの手法を用いて、アルプス物流の株式価値を算定しました。
DCF法の詳細:
算定期間: 2024年3月期~2029年3月期
基礎データ: アルプス物流が作成した事業計画、一般に公開された情報など
フリー・キャッシュ・フローの推定: 各期のフリー・キャッシュ・フローを推定し、それを現在価値に割り引いて企業価値・株式価値を算出。
2025年3月期:新規施設取得等による投資がある一方で、投資等が対前年比で減少するため、フリー・キャッシュ・フローは18百万円に増加する見込み。
2026年3月期:投資等が増加するため、フリー・キャッシュ・フローは-1,096百万円に減少する見込み。
2027年3月期:前年度の投資等の影響がなくなるため、フリー・キャッシュ・フローは4,028百万円に増加する見込み。
シナジー効果は未考慮: 買収によるシナジー効果は、算定時点では具体的に見積もることが困難だったため、財務予測には含まれていません。
事業計画の数値は現実的な見通し: アルプス物流が作成した事業計画は、足元の市況を踏まえた実現可能性が高い数値となっており、当初の第5次中期経営計画の数値目標を若干下回っています。
算定結果:
市場株価法: 2,183円~3,176円
類似上場会社比較法: 1,941円~2,646円
DCF法: 2,098円~3,043円
結論: 公開買付価格は、上記全ての算定結果の上限を上回っていることから、妥当な価格であると判断されました。
3. 特別委員会の算定方法
アルプス物流の特別委員会も、独立した第三者算定機関であるプルータス・コンサルティングに株式価値の算定を依頼し、その結果を参考に価格の妥当性を評価しました。
評価手法と算定結果: 取締役会と同様に、市場株価法、類似上場会社比較法、DCF法の3つの手法を採用。
市場株価法: 1,676円~1,963円
類似上場会社比較法: 1,604円~2,514円
DCF法: 1,726円~2,840円
DCF法の詳細:
算定期間、基礎データなどは、取締役会の算定と同様。
フリー・キャッシュ・フローの推定:
2025年3月期:-270百万円に増加する見込み。
2026年3月期:-1,271百万円に減少する見込み。
2027年3月期:3,905百万円に増加する見込み。
シナジー効果、事業計画の数値の現実的な見通しについても、取締役会の算定と同様。
結論: 公開買付価格は、上記全ての算定結果の上限を大幅に上回っていることから、少数株主の利益にも配慮した妥当な価格であると判断されました。
買付価格決定までの過程
公開買付価格の決定においては、公開買付者とアルプス物流、そして特別委員会の間で、複雑な交渉と評価が行われました。その過程を詳しく見ていきましょう。
1. 公開買付者の初期提案
ロジスティードは、デューデリジェンスや経営陣との面談などを通じてアルプス物流の企業価値を評価し、2024年3月18日に最初の提案を行いました。
提案内容:
対象者株式1株当たりの株式価値評価額:4,250円
公開買付価格:4,970円
自己株式取得価格:3,493円 (株式併合前1株当たり)
新株予約権買付価格:公開買付価格と新株予約権の行使価額の差額に行使対象株式数を乗じた金額
価格設定の根拠:
プレミアムの付与:提案価格はいずれも、過去の株価や類似企業の株価と比較して、一定のプレミアムが上乗せされた価格でした。
少数株主への配慮:アルプスアルパインが享受するであろう税制メリットを考慮し、少数株主や新株予約権保有者への還元を増やす形で価格を設定しました。
2. アルプスアルパインとアルプス物流からの再検討要請
アルプスアルパインとアルプス物流は、ロジスティードの提案価格を評価しつつも、株主価値の最大化の観点から、さらなる価格の引き上げを求めました。
3. ロジスティードの修正提案
ロジスティードは、再検討要請を受け、2024年3月27日に以下の修正提案を行いました。
提案内容:
対象者株式1株当たりの株式価値評価額:4,950円(上方修正)
公開買付価格:5,774円(上方修正)
自己株式取得価格:4,083.44円(上方修正)
新株予約権買付価格:変更なし
価格設定の根拠:
更なるプレミアムの付与:修正提案価格は、過去の株価などと比較して、最初の提案よりもさらに高いプレミアムが上乗せされました。
少数株主への配慮:自己株式取得価格の引き上げにより、少数株主への還元額を増やしました。
4. 最終提案と価格の合意
アルプスアルパインは、ロジスティードの修正提案に対し、さらなる再検討を要請しました。これを受け、ロジスティードは2024年4月10日に最終提案を行いました。
提案内容: 修正提案の内容を維持
アルプス物流とアルプスアルパインは、この最終提案を評価し、ロジスティードを最終候補者として選定しました。その後、継続的な協議・交渉を経て、2024年5月9日に以下の価格で最終合意に至りました。
最終合意価格:
公開買付価格:5,774円(修正提案価格を維持)
自己株式取得対価総額:70,721,712,072円
新株予約権買付価格:変更な
公正性担保措置の内容
今回の公開買付けにおいて、アルプス物流と公開買付者は、少数株主の利益を保護し、取引の公正性を確保するために、様々な措置を講じています。これらの措置は、主に以下の3つの目的を達成することを目指しています。
少数株主の利益保護: アルプスアルパインがアルプス物流の筆頭株主であることから、少数株主とアルプスアルパインの利害が対立する可能性があります。そこで、少数株主の利益を不当に害することがないように、様々な対策が実施されました。
取引の透明性・公正性の確保: 本公開買付けが公正な手続きを経て行われることを担保し、恣意的な決定や情報操作などを防ぐための措置が講じられています。
対抗買収提案の機会確保: より有利な条件を提示する他の買収者が現れる可能性を考慮し、対抗買収提案の機会を確保するための措置も取られています。
これらの目的を達成するために、具体的には以下の措置が取られています。
入札手続きの実施: 複数の候補者を対象に入札手続きを実施することで、競争性を高め、より良い条件での取引を目指しました。
特別委員会の設置: 独立社外取締役で構成される特別委員会を設置し、取引の公正性や価格の妥当性などを客観的に評価しました。
専門家からの助言: 独立した法律事務所および財務アドバイザーから、法的・財務的な観点からの助言を得て、取引の公正性を確保しました。
積極的なマーケットチェック: 長期にわたる公開買付期間を設定し、他の潜在的な買収者からの対抗提案の機会を確保しました。また、対抗買収提案者との接触を制限するような合意は行っていません。
少数株主への情報開示: 特別委員会の活動内容や株式価値算定書の内容などを詳細に開示し、少数株主が公開買付けについて適切に判断できるよう情報提供を行いました。
強圧性の排除: 株式併合を行う際には、少数株主に対して株式買取請求権や価格決定請求権を保障することで、不当な圧力をかけることを防いでいます。
特に、「マジョリティ・オブ・マイノリティ」と「マーケットチェック」に関する措置は、少数株主の保護と取引の公正性を確保する上で重要な役割を果たしています。
マジョリティ・オブ・マイノリティ: 一般的に、公開買付者が支配株主でない場合、買付予定数の下限に「マジョリティ・オブ・マイノリティ」(少数株主の過半数の賛成)の考え方を採用することが求められます。しかし、本公開買付けでは、この考え方を取り入れていません。
その理由として、公開買付者は、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件を設定すると公開買付けの成立が不安定になり、少数株主の利益を損なう可能性があると主張しています。
代わりに、入札手続きの実施や特別委員会の設置など、他の公正性担保措置を充実させることで、少数株主の利益を保護していると説明しています。
マーケットチェック: 本公開買付けは、長期にわたる公開買付期間を設定することで、他の潜在的な買収者からの対抗提案の機会を確保しています。
また、公開買付者と対象会社の間で、対抗買収提案者との接触を制限するような合意は行われていません。
これらの措置により、市場メカニズムを通じて、アルプス物流の企業価値が最大限に評価され、株主にとって最も有利な取引が実現されることが期待されます。
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