ホリイフードサービスのディスカウントTOBと対抗TOB
2024年6月10日、シティクリエイションHDは、2024年5月17日に麻布台1号が公表した公開買付けよりも高い買付価格を提示することで、ホリイフードサービスの株主に対して、本公開買付けへの応募を促しました。
シティクリエイションHDは、本公開買付けがホリイフードサービスの企業価値向上に、麻布台1号公開買付けよりも貢献できると主張しています。
麻布台1号公開買付けは、すでに開始されており、買付期間の終了が迫っています。ホリイフードサービスの破産管財人は、シティクリエイションHDの対抗TOBが早期に開始されない場合、麻布台1号公開買付けに応じる可能性を示唆しています。
このように、2つの公開買付けは、買付価格、買付期間、資金調達方法などの面で異なっており、ホリイフードサービスの株主は、どちらの公開買付けに応募するか、難しい判断を迫られています。
本記事では、両案件の比較をまとめます。
両案件の主要ポイントの比較
買付価格
麻布台1号有限責任事業組合: 1株当たり330円
シティクリエイションホールディングス: 1株当たり392円
案件概要
麻布台1号有限責任事業組合による公開買付け
買付期間: 2024年5月17日~6月13日
買付予定数の下限: 2,976,800株 (所有割合52.50%)
買付予定数の上限: 3,685,300株 (所有割合65.00%)
資金: 組合員からの出資
シティクリエイションホールディングスによる対抗公開買付け
買付期間: 2024年7月中旬(予定)
買付予定数の下限: 2,976,800株 (所有割合52.50%)
買付予定数の上限: 3,683,300株 (所有割合64.97%)
資金: 自己資金
案件の背景
麻布台1号有限責任事業組合: ホリイフードサービスの親会社である株式会社OUNHが破産手続きを開始したことに伴い、OUNHが所有するホリイフードサービス株式の売却先を選定するための入札手続きが行われました。麻布台1号有限責任事業組合は、この入札手続きにおいて落札者として決定され、公開買付けを実施することになりました。
シティクリエイションホールディングス: 麻布台1号有限責任事業組合による公開買付けの開始を受け、対抗TOBとして公開買付けを実施することを決定しました。公開買付者は以前からホリイフードサービスの株式の取得に関心を持ち、資本参加や業務提携の提案を検討していました。
案件検討の経緯
麻布台1号有限責任事業組合
2023年9月中旬、公開買付者は、財務アドバイザーより、対象者の親会社である応募予定株主が所有する対象者株式の譲渡に関する入札プロセスに係る情報の提供を受けました。
対象者の業績や時価総額、ビジネスモデルなどを考慮し、同年10月3日、入札手続きへの参加を決定しました。
同年11月6日に対象者の経営陣にインタビューを実施し、同月下旬にかけてデューデリジェンスを実施しました。
デューデリジェンスの結果等並びに過去1年間の対象者株式の市場株価及び同日における対象者株式の市場株価(277円)を踏まえ、同年11月30日、応募予定株主の破産管財人に対して、応募予定株式の全てにつき、買付け等の価格を1株につき360円として公開買付けを行うこと等を内容とする意向表明を行いました。
その後、応募予定株主の破産管財人との交渉・協議を経て、買付予定数の上限を3,685,300株(所有割合65.00%)とし、買付価格を330円とすることで合意しました。
同年12月14日、公開買付者は、入札手続きにおいて落札者に決定されました。
2024年1月11日、対象者及び破産管財人との面談を実施し、本公開買付けを実施する上での想定スケジュールの協議を行うとともに、本公開買付けの意向がある旨及び応募予定株式の取得に関する方針について説明しました。
その後も協議・交渉を継続し、2024年5月16日に公開買付けを開始しました。
シティクリエイションホールディングス
公開買付者は、以前から対象者の株式の取得に関心を持ち、資本参加や業務提携の提案を検討していました。
2024年5月16日、麻布台1号有限責任事業組合による公開買付けの開始を知り、対抗TOBを検討し始めました。
2024年5月24日、公開買付者は、対象者の親会社である応募予定株主の破産管財人に、公開買付けの意向を伝え、協議を開始しました。
2024年5月27日には、破産管財人及び本質権者と面談を実施し、買収における条件などを提示しました。
その後、破産管財人からの要請に基づき、2024年5月30日に、公開買付けの実施に至るまでの対象者との協議も含めた詳細なスケジュール並びに公開買付け開始の前提条件等を明示した正式な意向表明書を提出しました。
2024年6月3日、対象者から、対象者に対する正式な意向表明書の提出を前提として協議に応じる準備がある旨の返答がありました。
2024年6月7日に対象者に対する正式な意向表明書を提出しました。
2024年6月10日に対象者、公開買付者、破産管財人の三者で協議を実施し、2024年6月10日に公開買付けの開始を発表しました。
公開買付者は、対象者の取締役会において、公開買付者による本公開買付けに係る提案が、対象者の企業価値の向上及び対象者株主の共同の利益の確保の観点に照らして、賛同すべきか否かを判断するための期間として少なくとも1か月の期間が必要となると考えられることから、2024年7月中旬を目途に(ただし、本公開買付前提条件の全てが充足され又は公開買付者により放棄された日が遅れる場合には、当該日から実務上可能な限り速やかに)開始することを目指しています。
案件の目的・狙い
麻布台1号有限責任事業組合: ホリイフードサービスを子会社化し、組合員である株式会社玉光堂ホールディングス(以下、玉光堂HD)との連携を強化することを目的としています。玉光堂HDが持つ小売・エンタメ事業のノウハウや顧客基盤を活用し、シナジー効果を創出し、ホリイフードサービスの企業価値向上を目指しています。
シティクリエイションホールディングス: ホリイフードサービスを子会社化し、自社の持つデジタルマーケティング、営業代行、業務効率化のノウハウを活用することを目的としています。ホリイフードサービスのデジタル化を推進し、顧客満足度と売上を向上させ、新規出店やフランチャイズ展開を支援し、店舗網を拡大することで、企業価値の最大化を目指しています。
案件後の経営方針
麻布台1号有限責任事業組合: ホリイフードサービスの上場を維持し、経営の自主性を尊重する方針です。玉光堂HDとの業務提携に基づき、具体的なシナジー創出策を協議・検討していく予定です。
シティクリエイションホールディングス: ホリイフードサービスの上場を維持し、豊富な業界経験と実績を持つ現経営陣の体制を維持する方針です。従業員の雇用についても、原則として現在の雇用条件を維持するとしています。また、公開買付者グループから社外取締役1名を派遣し、ガバナンス体制を強化する予定です。
価格の算出方法
どちらの公開買付けにおいても、DCF法(将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出する方法)は用いられていません。
麻布台1号有限責任事業組合: 公開買付者と応募予定株主の破産管財人との協議及び交渉により決定。
シティクリエイションホールディングス: 麻布台1号公開買付けの公表前の株価や過去数ヶ月の平均株価などを参考に決定。
買付価格決定までの過程
麻布台1号有限責任事業組合
2023年11月30日、1株当たり360円で応募予定株式の全てを取得する意向を表明。
その後、応募予定株主の破産管財人との交渉の結果、買付予定数の上限を3,685,300株(所有割合65.00%)とし、買付価格を330円とすることで合意。
最終価格は、2024年5月16日の終値に対して0%、過去1か月間の終値平均に対して▲7.87%、過去3か月間の終値平均に対して▲6.08%、過去6か月間の終値平均に対して▲2.94%のプレミアム。
シティクリエイションホールディングス
麻布台1号公開買付けの公表前の対象者株式の終値(392円)と同額で公開買付けを行うことを決定。
最終価格は、2024年5月16日の終値に対して100.00%、過去1か月間の終値平均に対して10.11%、過去3か月間の終値平均に対して12.97%、過去6か月間の終値平均に対して15.29%のプレミアム。
取締役会の意見(応募推奨、賛同について)
麻布台1号有限責任事業組合
ホリイフードサービスの取締役会は、麻布台1号による公開買付けに賛同の意見を表明しています。
公開買付け後も、同社の株式は上場を維持される予定であり、株主は公開買付けに応募せず株式を保有し続けるという選択肢も合理性があると判断しています。
また、公開買付価格が公開買付者と応募予定株主の破産管財人との交渉で決定されたものであることから、価格の妥当性については判断を留保し、株主の判断に委ねるとしています。
シティクリエイションホールディングス
ホリイフードサービスの取締役会は、2024年6月10日時点では、シティクリエイションHDによる公開買付けに対して意見を表明していません。
公開買付者からの正式な意向表明書提出を前提に、協議に応じる準備があるとしています。
公開買付者が提示する企業価値向上策やシナジー効果などを評価した上で、賛同または中立の意見を表明する可能性があります。
公正性担保措置の内容
麻布台1号有限責任事業組合
特別委員会の設置: 対象者は、独立した特別委員会を設置し、少数株主の利益を保護するための検討を実施。
独立した専門家による意見取得: 財務アドバイザー及びリーガルアドバイザーから独立した意見を取得し、公開買付けの条件が公正であることを確認。
応募予定株主の破産管財人による判断: 応募予定株主の破産管財人による応募予定株式の売却は、裁判所の許可が必要であり、手続きの公正性を担保。
シティクリエイションホールディングス
企業買収における行動指針における「真摯な買収提案」に該当することを主張し、対象者との協議・交渉を継続する意向を示している。
まとめ
2つの公開買付けは、どちらもホリイフードサービスを子会社化することを目的としていますが、その後の経営方針やシナジー創出の手段が異なります。
麻布台1号は、玉光堂HDとの連携によるシナジー創出を重視し、小売・エンタメ事業との連携を強化することで、ホリイフードサービスの企業価値向上を目指しています。
シティクリエイションHDは、自社の持つデジタルマーケティングや業務効率化のノウハウを活用し、ホリイフードサービスの事業基盤強化を重視し、企業価値の最大化を目指しています。
また、シティクリエイションHDは、麻布台1号よりも高い買付価格を提示しており、ホリイフードサービスの株主にとって魅力的な提案であることを強調しています。
「企業買収における行動指針」に鑑みた、二つの案件の評価
「企業買収における行動指針」は、友好的な買収提案を推奨しており、企業価値の向上と株主利益の確保を基本原則としています。この観点から、2つの案件を評価すると、以下のようになります。
麻布台1号有限責任事業組合による公開買付け
肯定的な側面:
友好的な買収提案: 対象会社の取締役会は、公開買付けに賛同しており、友好的な買収提案といえます。
企業価値向上への取り組み: 公開買付者は、玉光堂HDとの連携を通じたシナジー効果により、対象会社の企業価値向上を目指すと表明しています。
株主への選択肢: 公開買付け後も対象会社の上場は維持される予定であり、株主はTOBに応募するか、株式を保有し続けるかを選択できます。
否定的な側面:
価格決定プロセスの透明性: 買付価格の算定根拠が明確にされておらず、対象会社の取締役会も価格の妥当性について判断を留保しています。
少数株主の利益保護: 独立した第三者による価格評価が行われていないため、少数株主にとって公正な価格であるかどうかは不明です。
シティクリエイションホールディングスによる公開買付け
肯定的な側面:
株主への配慮: 麻布台1号の提示価格を上回る価格を提示しており、株主利益の確保に配慮している可能性があります。
企業価値向上へのコミットメント: デジタル化推進や事業基盤強化など、具体的な企業価値向上策を提示しています。
否定的な側面:
友好的買収提案ではない可能性: 対象会社の取締役会は現時点で中立の立場であり、必ずしも友好的な買収提案とは言えません。
価格決定プロセスの透明性: 買付価格の算定根拠が明確にされておらず、デューデリジェンスも実施されていません。
少数株主の利益保護: 独立した第三者による価格評価が行われていないため、少数株主にとって公正な価格であるかどうかは不明です。
投資家の視点からの分析
投資家の視点からは、シティクリエイションHDの提示価格が麻布台1号よりも高い点は魅力的ですが、以下の点が懸念されます。
シティクリエイションHDの提案の不確実性: 対象会社の取締役会が賛同しておらず、買収が成立するかどうかは不透明です。
価格の妥当性: どちらの公開買付けも、価格の算定根拠が明確でなく、独立した第三者による評価もありません。そのため、提示価格が本当に対象会社の企業価値を反映したものなのか、判断が難しいです。
現時点では、どちらの公開買付けがより「企業買収における行動指針」に沿っているか、明確な判断はできません。投資家としては、以下の点に注目していく必要があります。
対象会社の取締役会の意見: シティクリエイションHDの公開買付けに対して、対象会社の取締役会がどのような意見を表明するかが重要です。
価格の妥当性に関する情報: 独立した第三者による価格評価など、価格の妥当性に関する情報が追加で開示されるかどうかに注目が必要です。
公開買付者の企業価値向上策: それぞれの公開買付者が、どのように対象会社の企業価値を向上させるのか、具体的な計画や戦略を比較検討する必要があります。
ホリイフードサービスの状況 ※参考
ホリイフードサービスは、関東エリアを中心に和風ダイニングレストランなどを多店舗展開している外食企業です。しかし、飲食業界の競争激化や新型コロナウイルス感染症の影響により、2023年3月期には営業損失を計上するなど、厳しい経営状況に直面していました。
こうした状況を改善するため、ホリイフードサービスは、顧客満足度と従業員満足度の向上、商品力の強化、業態構成の適正化、事業構成の多角化などに取り組んできました。テイクアウトやデリバリーへの対応、メニューの入れ替えや業態変更などにより、2024年3月期には2020年3月期以来となる通期営業黒字を達成しました。
しかしながら、親会社である株式会社OUNHが2023年7月に破産手続きを開始し、OUNHが所有するホリイフードサービス株式の売却が決定されました。これに伴い、2つの企業が公開買付けを実施し、ホリイフードサービスの経営権取得を目指しています。
ホリイフードサービスは、この公開買付けを契機に、更なる成長と企業価値向上を目指しています。今後の課題としては、
成長戦略の策定: 新たな市場開拓や業態開発など、中長期的な成長戦略を策定し、実行していく必要があります。
デジタル化の推進: 顧客満足度向上や業務効率化のため、モバイルオーダーシステムやタブレット型端末の導入など、デジタル化をさらに推進する必要があります。
人材確保と育成: 飲食業界の人材不足に対応するため、効果的な採用活動や人材育成プログラムの導入が必要です。
財務基盤の強化: 安定的な収益確保と財務基盤の強化のため、コスト削減や収益性向上のための取り組みを継続する必要があります。
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