上場企業が真面目に考える必要がある「真摯な買収提案」とはどのようなものか
「真摯な買収提案」とは
「真摯な買収提案」とは、具体性があり、目的が正当で、かつ実現可能性のある買収提案のことです。この指針では、企業価値向上につながる提案を恣意的に排除しないよう、取締役会は「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」を行うべきだとされています。
設定の背景
「真摯な買収提案」の概念は、M&A に関する公正なルール形成を目的として、経済産業省が設置した「公正な買収の在り方に関する研究会」における議論や、諸外国における法制度・実務、国内外の関係者からの意見などを踏まえて策定された「企業買収における行動指針」の中で明確化されました。
この指針策定の背景には、近年、買収提案の是非や評価をめぐる対立が増加し、対象会社の取締役会が検討・対応すべき事項が複雑化しているという現状があります。このような状況下で、企業価値向上につながる買収提案を恣意的に排除することなく、真摯に検討を進めるべきとの考えから、「真摯な買収提案」という概念が導入されたと考えられます。
つまり、「真摯な買収提案」は、M&Aを取り巻く環境変化や諸課題に対応するために生まれたものであり、企業価値向上と株主利益確保のバランスを図りつつ、公正なM&A市場の確立を目指す上で重要な役割を果たしていると言えます。
意義
「真摯な買収提案」という概念が存在する意義は、大きく以下の3点に集約できます。
企業価値向上: 買収提案の中には、企業の成長や効率化を通じて企業価値を高める可能性を秘めたものも含まれます。しかし、中には企業価値を損なう可能性のある提案も存在します。「真摯な買収提案」という概念を設けることで、企業価値向上に資する提案を適切に見極め、その検討を促すことができます。
株主利益の保護: 買収は株主にとって、保有株式を売却し利益を得る機会となります。しかし、買収の中には株主の利益を損なう可能性のあるものも存在します。「真摯な買収提案」の概念は、そのような提案を排除し、株主の利益を守る役割を果たします。
公正なM&A市場の促進: 買収提案の検討には、時間的・金銭的なコストがかかります。全ての提案を詳細に検討することは現実的ではありません。「真摯な買収提案」の概念を設けることで、検討に値する提案とそうでない提案を選別し、M&A市場における公正で効率的な取引を促進します。
「真摯な買収提案」に対して必要な対応
真摯な買収提案」と判断された場合、取締役会は、以下の項目を中心とした「真摯な検討」を行い、企業価値の向上に資するかどうかの観点から、買収を受けるかどうかの判断を行います。
買収後の経営方針: 買収後の具体的な経営計画や戦略が示されているか、それが企業価値向上にどのように貢献するかを評価します。
買収価格等の取引条件の妥当性: 提示された買収価格が、会社の価値を適切に反映しているか、株主にとって公正な利益分配が確保されているかを検討します。過去の株価や類似企業の買収事例なども参考に、客観的な評価を行います。
買収者の資力・トラックレコード・経営能力: 買収者が買収に必要な資金を調達できるか、過去の買収実績や経営能力は十分かなどを評価します。買収後の経営を担う能力があるかを見極めることが重要です。
買収の実現可能性: 買収を完了するために必要な手続きや許認可取得の見通しなどを確認し、実際に買収が実現できる可能性を評価します。
また、これらの検討に加えて、以下の点も重要となります。
追加情報の収集: 買収提案に関する理解を深めるために、買収者に対してさらなる情報提供や説明を求めることができます。
秘密保持契約の締結: 必要に応じて、買収に関する情報の機密性を保持するための秘密保持契約を締結します。
デューデリジェンスの実施: 買い手候補企業が対象企業の価値やリスクなどを評価するための調査活動であるデューデリジェンスを実施するかどうか、どこまでの範囲で実施するかを慎重に判断します。
社外取締役の積極的な関与: 買収提案の評価や交渉において、社外取締役が独立した立場から積極的に関与し、客観的な視点から判断を下すことが重要です。
外部専門家の活用: 必要に応じて、M&Aの専門家などの外部専門家の意見を参考に、提案の評価や交渉戦略などを検討します。
取締役会は、これらの検討を通じて得られた情報を総合的に判断し、株主の利益を最大化するために、買収提案に応じるかどうかの最終的な決断を下します。また、その判断の合理性について、株主に対して説明責任を果たせるように行動する必要があります。
特に、買収提案を拒否する場合には、その判断の根拠を明確にし、株主に対して納得のいく説明を行うことが求められます。なぜなら、買収価格は一般的に、現在の株価よりも高いため、買収提案に応じないことは、株主にとって短期的な利益獲得の機会を逃す可能性があるからです。
「真摯な検討」とは、これらのプロセスを踏まえ、企業価値向上と株主利益保護のバランスを図りつつ、客観的かつ合理的な判断を下すことを意味します。買い手企業からの提案を単に拒否するのではなく、企業価値向上につながる提案であれば積極的に検討し、株主に対してそのメリットとリスクを丁寧に説明することが重要です。
「真摯な買収提案」の判断基準
「真摯な買収提案」とは、具体性、目的の正当性、実現可能性の3つの要素をすべて満たす買収提案のことです。これらの要素が満たされていない場合、取締役会は当該買収提案を「真摯な買収提案」ではないと判断し、詳細な検討を行わないこともありえます。
3つの要素
具体性
買収価格や取引の主要条件が具体的に提示されているか。
例えば、買収価格や買収時期が明示されているか、提案書の形式がとられているか、買収者が明確に特定されているかなどが判断材料となります。
目的の正当性
買収後の経営方針が示されており、それが正当な目的であると認められるか。
買収の目的が、株価のつり上げや競合他社による情報収集など、不適切なものではないか。
実現可能性
買収に必要な資金の裏付けがあるか。
買収の実施に必要な許認可を取得できる見込みがあるか。
支配株主の株式取得を目指す場合、支配株主に売却の意思があるか。
判断にあたっての留意点
企業価値向上につながる提案を安易に排除しない: 「真摯な買収提案」の判断は、企業価値を高める提案を排除するために恣意的に行われてはなりません。
外部専門家の活用: 判断に迷う場合や、社外取締役にM&Aに関する専門知識が不足している場合は、外部の専門家に相談することも有効です。
継続的な判断: 買収提案の検討は、初期段階だけでなく、検討を進める中で継続的に行われるべきです。
特に、提案価格が自社の株価を大きく下回っている場合でも、その乖離が生じている原因を分析することで、企業価値向上につながる可能性を見出すことができるかもしれません。
まとめ
企業は、「真摯な買収提案」に対しては、買収後の経営方針、買収価格、買収者の能力、実現可能性などを「真摯に検討」し、企業価値向上に資するかどうかを判断しなければなりません。この際、企業価値向上と株主利益の確保を最優先に考え、株主の意思を尊重し、透明かつ公正なプロセスを確保することが重要です。
「真摯な買収提案」という概念は、M&Aが活発化する現代において、企業が適切な対応を行うための指針となるだけでなく、公正なM&A市場の確立にも貢献しています。企業は、この概念を正しく理解し、M&Aを戦略的に活用することで、さらなる成長を目指していくことが期待されます。
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