GENDA、音通を完全子会社化
近年、カラオケ業界は市場の成熟化や新型コロナウイルスの影響で需要が減少し、企業は厳しい経営環境に直面しています。
こうした状況下で、株式会社GENDAがカラオケ機器販売・レンタル事業を行う株式会社音通に対して株式公開買付け(TOB)を行い、完全子会社化を目指すという内容です。
案件概要
株式会社GENDAは、2024年6月27日に、株式会社音通の全株式を対象に公開買付け(TOB)を行うと発表しました。
公開買付価格: 1株あたり33円
買付予定数: 下限78,320,000株、上限なし
公開買付期間: 31営業日
GENDAは、TOBが成立した場合、音通を完全子会社化する予定です。音通の上場は廃止される見込みです。
TOBの成立条件として、GENDAは応募株式数が78,320,000株に満たない場合は買付けを行わないとしています。しかし、買付予定数の上限は設定されておらず、78,320,000株以上の応募があれば全株を取得する意向です。
GENDAは、TOBと並行して、音通の主要株主が所有する資産管理会社であるデジユニットの株式も取得する予定です。これにより、間接的に音通の株式を取得し、完全子会社化を確実にします。
音通の取締役会は、本公開買付けに賛同し、株主に対して応募を推奨する意見を表明しています。
案件目的
株式会社GENDAは、音通を完全子会社化することで、以下の目的を達成することを目指しています。
GENDAの目的
カラオケボックス運営事業への進出とエンターテイメント事業の拡大: 音通が持つカラオケ機器の流通網やノウハウを活用し、GENDAグループが運営するカラオケBanBanへの機器導入を促進することで、カラオケボックス運営事業に参入し、エンターテイメント事業のさらなる拡大を目指します。
シナジー創出による企業価値向上: 音通のカラオケ機器流通事業とGENDAのエンターテイメント事業のノウハウを組み合わせることで、新たなビジネスモデルを創出し、両社の企業価値向上を目指します。
市場シェアの拡大: 音通の独立系カラオケ機器ディーラーとしての地位と、GENDAが持つ資金調達力やM&Aのノウハウを活用し、カラオケ機器流通企業のロールアップM&Aを推進することで、市場シェアの拡大を目指します。
音通の目的
抜本的な経営改革の実現: GENDAグループの経営資源を活用することで、成熟市場における競争激化や新型コロナウイルスの影響による需要減少といった課題に対応し、カラオケ機器事業だけでなく、スポーツ事業やコインパーキング事業においても抜本的な経営改革を実現します。
中長期的な成長の達成: GENDAグループのエンターテイメント事業とのシナジー効果により、新たな収益源を確保し、中長期的な成長を目指します。
GENDAは、音通を完全子会社化することで、エンターテイメント事業の多角化と市場シェアの拡大を図り、世界一のエンターテイメント企業を目指すという目標に近づくことを目指しています。一方、音通は、GENDAグループの経営資源を活用することで、経営課題を克服し、中長期的な成長を遂げることを目指しています。
買主と対象企業の関係性
GENDAグループ企業である株式会社シン・コーポレーションと、音通グループ企業である株式会社音通エンタテイメントとの間で、機器購入等の取引関係があります。資本関係や人的関係はありません。
案件背景
カラオケ業界の動向
カラオケ業界は成熟期を迎えており、通信カラオケ機器を取り扱う事業者間の競争が激化しています。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響によりカラオケボックスや飲食店などカラオケ関係施設の需要が減少し、厳しい経営環境が続いています。
こうした状況下で、カラオケ機器事業者は、市場内でのシェア拡大が重要な経営課題となっています。また、カラオケ機器の流通経路は、メーカーからディーラー、そして店舗へと複雑な構造になっており、コスト増の要因となっています。そのため、流通経路の簡素化や店舗側へのコストメリット提供のためにも、ディーラーによる市場シェア拡大が重要視されています。
両社の思惑の一致
GENDAグループは、エンターテイメント事業の拡大を目指し、カラオケボックス運営事業への進出を検討していました。音通グループは、市場環境の変化に対応するための抜本的な経営改革を必要としていました。
両社は、協業によってこれらの課題を解決し、シナジーを生み出すことができると考え、TOBに至りました。GENDAグループは、音通グループのカラオケ機器流通網やノウハウを活用することで、カラオケボックス運営事業への円滑な参入と市場シェアの拡大を目指します。音通グループは、GENDAグループの資金力やM&Aのノウハウを活用することで、経営改革を加速させ、中長期的な成長を図ります。
案件後の経営方針
公開買付者である株式会社GENDAは、本公開買付け後の経営方針について、以下のシナジー創出を確実に実行していく予定です。
当社グループによるカラオケBanBanへの機器導入の推進
公開買付者グループ企業である株式会社シン・コーポレーションが運営するカラオケBanBanに対し、音通グループを通じてカラオケ機器の新規導入や更新導入を積極的に行います。これにより、音通グループの取扱機器台数の増加を目指します。
ナイト市場での規模の経済性
カラオケBanBanで使用された比較的新しいカラオケ機器を、ナイト市場(スナックやクラブなど夜間営業がメインの店舗)に再流通させます。これにより、ナイト市場におけるカラオケ機器の設備年数を若返らせ、カラオケ機器レンタルの取引条件の改善を図ります。
ディーラーのロールアップM&Aに伴うネットワーク拡大及び取扱台数増加
GENDAグループが持つ資金調達力やM&Aのノウハウを活用し、カラオケ機器流通企業のM&Aを積極的に推進します。これにより、音通グループの営業エリアやメンテナンスネットワークを拡大し、取扱機器台数を増加させます。
また、GENDAは、音通の経営体制について、GENDAから1~2名の取締役を派遣する予定ですが、詳細については未定であり、公開買付け後に音通と協議の上決定するとしています。
案件検討の経緯
公開買付者である株式会社GENDAは、2023年11月下旬から株式会社音通グループとカラオケ機器流通業界の事業環境や経営方針、シナジー施策の内容などについて複数回の意見交換を行いました。2024年に入り、GENDAは、
4月8日:音通の主要株主3名(岡村邦彦氏、仲川進氏、小林護氏)に本取引に関する意向表明書を提出。
4月上旬~下旬:音通と本取引の実施可能性について協議。
4月中旬:SMBC日興証券株式会社をFA、森・濱田松本法律事務所をリーガルアドバイザーとして選任。
5月7日:音通および特別委員会に本取引に関する意向表明書を提出。
5月上旬~6月中旬:音通に対するデューデリジェンスを実施し、同時に本取引の意義や事業シナジーについて協議。
5月29日:音通および特別委員会に、買付価格1株当たり29円、買付予定数の下限をGENDAによる議決権保有割合51%とする条件を提示。
6月3日:音通の特別委員会から買付価格と買付予定数の下限の見直し要請を受け、買付価格を30円に引き上げるも、買付予定数の下限は51%を維持する条件を再提示。
6月10日:再度の買付価格と買付予定数の下限の見直し要請を受け、買付価格を31円に引き上げるも、買付予定数の下限は51%を維持する条件を再提示。
6月12日:買付価格38円、買付予定数の下限をGENDAによる議決権保有割合3分の2超とするよう要請を受けるも、買付価格を32円に引き上げるにとどめ、買付予定数の下限は51%を維持する条件を再提示。
6月18日:買付価格38円、買付予定数の下限をGENDAによる議決権保有割合3分の2超とするよう再度要請を受けるも、買付価格を33円に引き上げるにとどめ、買付予定数の下限は51%を維持する条件を再提示。
6月22日:買付価格35円、買付予定数の下限をGENDAによる議決権保有割合3分の2超とするよう再度要請を受け、買付価格33円、買付予定数の下限を3分の2超とする条件で合意。
6月23日:音通の特別委員会から買付価格34円への引き上げと、デジユニット株式譲渡価額の算定基準見直しを要請されるも、買付価格33円、買付予定数の下限を3分の2超とする条件を再提示。
6月26日:音通の特別委員会から、買付価格33円、買付予定数の下限を3分の2超とする条件で最終合意を得る。
取引スキームの特徴点
第一段階:公開買付け
GENDAは、音通の全株式を対象に公開買付けを実施します。買付予定数の下限は設定されていますが、上限は設定されていません。これにより、GENDAは、公開買付けを通じて、可能な限り多くの音通の株式を取得することを目指します。
第二段階:本スクイーズアウト手続き
公開買付け後、GENDAは、音通を非公開化するための「本スクイーズアウト手続き」を実施する予定です。この手続きには、以下の2つの方法が想定されています。
株式売渡請求: 公開買付け後、GENDAが音通の議決権の90%以上を保有する場合、GENDAは他の株主に対して、株式をGENDAに売却するよう請求できます。
株式併合: 公開買付け後、GENDAが音通の議決権の90%未満しか保有していない場合、GENDAは株式併合を実施し、GENDA以外の株主が保有する株式を端数にすることで、強制的に買い取ることができます。
本株式譲渡契約
また、GENDAは、公開買付けと並行して、音通の主要株主との間で「本株式譲渡契約」を締結しています。この契約に基づき、GENDAは、公開買付けが成立した場合、主要株主が所有する資産管理会社「デジユニット」の株式を譲り受けます。デジユニットは音通の筆頭株主であるため、この株式取得により、GENDAは間接的に音通の株式を取得し、完全子会社化をより確実なものとします。
取締役会の意見
音通の取締役会は、GENDAによる公開買付けに賛同の意見を表明し、株主に対して応募を推奨しています。
取締役会は、公開買付け後のGENDAによる経営方針や、音通の企業価値向上に資すると判断しています。
また、取締役会は、株式の非公開化によって、資本市場からの資金調達が困難になるなどのデメリットが生じる可能性を認識しています。しかし、音通はこれまで上場企業として資本市場からの資金調達を行っておらず、GENDAグループからの資金調達も可能であることから、デメリットは限定的だと判断しています。
さらに、公開買付価格1株当たり33円については、音通が依頼した第三者算定機関による株式価値算定の結果や、類似の公開買付け事例におけるプレミアム水準などを踏まえ、株主が享受すべき利益を確保した妥当な価格であると判断しています。
これらの点を総合的に考慮し、取締役会は、本公開買付けが音通の企業価値向上に資するものであり、株主にとって最大の利益還元の機会になると判断し、賛同の意見を表明し、応募を推奨するに至りました。
価格の算出方法
音通は、公開買付価格の算定にあたり、独立した第三者算定機関である山田コンサルティンググループ株式会社に株式価値の算定を依頼しました。山田コンサルティンググループは、市場株価法とDCF法の2つの手法を用いて、音通の1株当たりの株式価値を算定しました。
市場株価法:
公開買付けに関する取締役会決議日の前営業日(2024年6月26日)を基準日として、東京証券取引所スタンダード市場における音通株の終値、過去1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の終値の単純平均値を基に算定されました。算定結果は、27円から28円となりました。DCF法:
音通が作成した事業計画を基に、2025年3月期から2029年3月期までの5期分のフリーキャッシュフローを、一定の割引率で現在価値に割り引いて算定されました。
2025年3月期は、商圏拡大を目的とした設備投資により減益となる計画ですが、2026年3月期は投資を見込んでいないため増益となる見込みです。この大幅な増減益計画も織り込んで算定された結果、27円から33円という算定結果となりました。
なお、公開買付後の具体的な施策とその効果は、算定時点では具体的に見積もることが困難であったため、この算定結果には含まれていません。
GENDAによる算定
GENDAも、公開買付価格を決定するにあたり、独立した第三者算定機関であるブリッジコンサルティンググループ株式会社に株式価値の算定を依頼しています。ブリッジコンサルティンググループは、市場株価法、類似会社比較法、DCF法の3つの手法を用いて、音通の株式価値を算定しました。
市場株価法:
公開買付けに関する取締役会決議日の前営業日(2024年6月26日)を基準日として、東京証券取引所スタンダード市場における音通株の過去1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の終値の単純平均値を基に算定されました。算定結果は、26.78円から27.30円となりました。類似会社比較法:
音通と類似する事業を営む上場企業の市場株価や収益性を示す財務指標との比較を通じて算定されました。算定結果は、27.61円から33.02円となりました。DCF法:
GENDAが持つ音通に関する知見や一般に公開された情報などを基に、2025年3月期から2029年3月期までの事業計画を策定し、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて算定されました。この事業計画には、本取引によるシナジー効果も織り込まれています。算定結果は、29.30円から36.16円となりました。
最終的な買付価格の決定
GENDAは、ブリッジコンサルティンググループによる算定結果に加え、デューデリジェンスの結果や音通の取締役会による公開買付けへの賛同の可否、応募の見通しなどを総合的に考慮し、音通との協議・交渉を経て、最終的に1株当たり33円という買付価格を決定しました。
この価格は、公開買付け公表日の前営業日の終値に対して17.86%、過去1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の終値の単純平均値に対してそれぞれ22.22%のプレミアムを加えた金額となっています。
公正性担保措置の内容
本公開買付けにおいては、株主の利益を保護し、取引の公正性を担保するために、以下の措置が講じられています。
1. 特別委員会の設置と独立した専門家の助言
音通は、GENDAからの公開買付け提案を受け、取締役のうちGENDAと利害関係のない独立した社外取締役3名で構成される特別委員会を設置しました。特別委員会は、SMBC日興証券株式会社を財務アドバイザー、森・濱田松本法律事務所を法律アドバイザーとして選任し、公開買付けの条件や価格の妥当性について独立した立場から検討を行いました。
2. マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)条項
公開買付けが成立するためには、GENDA以外の株主(少数株主)のうち、過半数の株主が応募することが条件となっています。これにより、GENDAの意向に左右されず、少数株主が自主的な判断で公開買付けに応募できる環境が確保されます。
3. 買付価格の算定
公開買付価格は、音通およびGENDAがそれぞれ独立した第三者算定機関に依頼し、複数の評価手法を用いて算定されました。算定結果に基づき、GENDAと音通の特別委員会との間で協議・交渉が行われ、最終的な買付価格が決定されました。これにより、株主にとって公正な価格が担保されるよう配慮されています。
4. 市場価格チェック(マーケットチェック)
公開買付期間は31営業日と比較的長期間に設定されており、他の潜在的な買収希望者が対抗提案を行う機会が確保されています。これにより、市場競争原理が働き、株主にとってより有利な条件での取引が行われる可能性が高まります。
5. 情報開示
公開買付けに関する情報は、法令に基づき、適時適切に開示されています。これにより、株主は公開買付けに関する十分な情報を取得し、自己の判断に基づいて応募の是非を決定することができます。
これらの公正性担保措置により、本公開買付けは、株主の利益を保護し、公正かつ透明性の高い手続きで行われることが期待されます。
まとめ
今回の公開買付けは、GENDAがエンターテイメント事業を拡大する戦略の一環であり、音通にとっては、経営改革を加速させ、企業価値向上を図る機会となります。
公開買付価格については、特別委員会との交渉により当初の提示額から引き上げられましたが、類似の公開買付け事例におけるプレミアム水準と比較すると必ずしも高いとは言えません。しかし、直近の市場株価や株式価値算定結果を踏まえると、妥当な価格設定であると考えられます。
本公開買付けは、カラオケ業界における新たな動きであり、今後のエンターテイメント業界の動向に影響を与える可能性があります。GENDAと音通の今後のシナジー効果に注目が集まります。
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