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トーハンによる日本出版貿易の完全子会社化

案件概要

株式会社トーハンは、2024年8月14日に、東京証券取引所スタンダード市場に上場している日本出版貿易株式会社の普通株式を対象とした公開買付けの開始を発表しました。

  • 買付目的: 株式会社トーハンは、日本出版貿易株式会社を完全子会社化し、株式を非公開化することを目指しています。

  • 買付期間: 2024年8月15日から2024年9月27日までの30営業日。

  • 買付価格: 普通株式1株につき4,000円。

  • 買付予定株式数: 427,197株(上限なし)。

  • 買付予定数の下限: 194,700株。

  • 決済の開始日: 2024年10月4日。

  • 公開買付代理人: 東海東京証券株式会社。

案件目的

公開買付者は、対象者を連結子会社化し、対象者株式を非公開化することを目的としています。そして、これにより、以下の3つのシナジー効果の実現による企業価値向上を目指しています。

  • 事業面:

    • 公開買付者の子会社が販売するキャラクター雑貨などを、対象者の持つ豊富な海外販路を通じて積極的に販売することで、公開買付者グループの海外事業を強化する

    • 公開買付者が台湾の子会社を中心に事業展開しているアジア地域において、対象者の販売を支援することで、対象者グループのアジア地域での事業拡大を支援する

    • その他、双方のノウハウを共有・活用することで、海外市場での取引拡大、海外展示会などのイベント業務強化、商材の多言語化、国内市場の開拓などを実現する

  • 財務面:

    • 公開買付者グループに加わることで対象者の信用力が向上し、資金調達力の改善・向上が見込まれる

  • 組織面:

    • ノウハウ共有や人材交流を通じた人事面の活性化、従業員モチベーション向上による企業価値向上

買主と対象企業の関係性

公開買付者と対象者の関係性は、単なる資本関係に留まらず、人的関係や長年の取引関係にも及び、深い繋がりがあります。

  • 資本関係: 公開買付者は、対象者株式の21.51%を所有する筆頭株主であり、主要株主及びその他の関係会社に該当します。

  • 人的関係: 公開買付者の執行役員2名が、対象者の取締役と監査役を兼任しています。これは、公開買付者が対象者の経営に深く関与していることを示しています。

  • 取引関係: 両社は1971年12月に業務提携契約を締結しており、長年にわたり取引関係があります。

特に、業務提携契約締結以降、公開買付者は、対象者の経営状況が悪化した際には第三者割当増資を引き受けるなど、長年にわたり良好な関係を維持してきたことが伺えます。これらのことから、公開買付者と対象者の関係性は、資本関係、人的関係、取引関係の3つの側面から、非常に密接であると言えます。

加えて、公開買付者は1971年に対象者と共同でフランクフルト国際書籍展に出展したことをきっかけに業務提携を開始しており、両社は長年にわたり協調関係にありました。

案件背景

公開買付者と対象者の長年の関係性

  • 1971年: フランクフルト国際書籍展への共同出展を機に業務提携を開始。

  • 1974年: 公開買付者が対象者株式の50万株を取得。

  • 2009年: 対象者の経営悪化を受け、公開買付者が第三者割当増資を引き受け、対象者株式100万株を取得。

  • 2017年: 対象者の株式併合により、公開買付者の所有株式数が15万株(所有割合21.51%)となる。

対象者の経営課題

  • 国内事業の成長鈍化: 対象者の国内事業は市場シェアが高く、さらなる成長が難しい状況に直面しています。

  • 海外事業への成長期待: 成長を海外事業に求める必要性がある一方、アジア地域での販路拡大が課題となっています。

  • 上場維持基準の適合: 2021年の市場区分の見直しに伴い、東京証券取引所スタンダード市場の上場維持基準を満たしていない状況が続いています。

公開買付けの検討開始

  • 2023年9月下旬: 対象者から公開買付者に対し、上場維持基準適合の難しさから、株式非公開化を検討している旨の連絡が入る。

  • 2023年10月中旬・12月下旬: 両社間で面談を実施し、上場維持基準適合に向けた計画などを協議。

  • 2024年1月上旬: 公開買付者は、対象者における上場維持基準適合の可能性が低いと判断し、対象者を連結子会社化し株式を非公開化することを検討開始。

  • 2024年1月中旬: 公開買付者から対象者に対し、公開買付けによる対象者株式の取得を検討している旨を伝達。

  • 2024年1月下旬~3月下旬: 公開買付者による検討の結果、対象者を連結子会社化し株式を非公開化することで、事業面・財務面・組織面でのシナジー効果が期待できると判断。

これらの背景から、公開買付者は、対象者との長年の関係性と、対象者が直面する経営課題の解決を支援する目的で、本公開買付けの実施を決定しました。

特に、対象者株式の非公開化は、上場維持という制約から解放されることで、迅速な連携強化やシナジー創出が可能になり、ひいては対象者の企業価値向上に繋がると考えられています。

案件後の経営方針

公開買付者は、本取引後も、対象者の独立性を尊重し、シナジーの早期実現に向けた最適な経営体制について、本取引完了後に対象者と協議しながら決定する方針です。

  • 役員体制: 大きな変更は予定されておらず、公開買付者からの役員派遣などは現時点で決定事項となっていません。

  • 具体的な方針: 本取引完了後に対象者の意向も踏まえて決定するとしています。

このことから、公開買付者は、対象者の経営への介入を最小限に抑え、対象者の自主性を尊重する姿勢を示しています。また、具体的な経営方針については、対象者との協議を重視し、双方の合意に基づいて決定していく姿勢を示しています。

これは、公開買付者が、対象者の企業文化や事業の独自性を尊重し、円滑な統合を進めたいと考えていることを示唆しています。また、対象者との信頼関係を重視し、長期的な成長を目指している姿勢が伺えます。

案件検討の経緯

公開買付者は、対象者との協議や対象者の直近の業績、市場環境などを踏まえ、2024年1月上旬に対象者を公開買付者の連結子会社化し株式を非公開化することを検討し始めました。その後の具体的な検討の流れは以下の通りです。

  1. 初期提案とデューデリジェンス:

    • 2024年1月中旬、公開買付者から対象者へ、公開買付者を買付者とする公開買付け実施の検討を伝達。

    • 2024年1月下旬~3月下旬、公開買付者により、シナジー効果などについて検討。

    • 2024年4月上旬、ファイナンシャル・アドバイザーとしてAGSコンサルティングを選定。

    • 2024年4月中旬、リーガル・アドバイザーとしてシティユーワ法律事務所を選任。

    • 2024年5月中旬~6月下旬、公開買付者と対象者の大株主である本不応募株主との間で、公開買付けに関する意向確認を実施。

    • 2024年7月上旬~7月下旬、公開買付者により対象者に対するデューデリジェンスを実施。

  2. 価格交渉:

    • 2024年6月25日、公開買付者から対象者へ、本取引に関する意向表明書を提出。

    • 2024年7月5日、対象者から公開買付者へ、本取引に向けた具体的な協議・検討を開始する旨を回答。

    • 2024年7月18日、公開買付者から対象者へ、1株当たり3,200円での買付提案(第1回提案)。

    • 2024年7月19日、対象者から公開買付者へ、買付価格引き上げの要請。

    • 2024年7月25日、公開買付者から対象者へ、1株当たり3,400円での買付提案(第2回提案)。

    • 2024年7月31日、対象者から公開買付者へ、再度の買付価格引き上げの要請。

    • 2024年8月1日、公開買付者から対象者へ、1株当たり3,600円での買付提案(第3回提案)。

    • 2024年8月2日、対象者から公開買付者へ、再度の買付価格引き上げの要請。

    • 2024年8月6日、公開買付者から対象者へ、1株当たり3,900円での買付提案(第4回提案)。

    • 2024年8月6日、対象者から公開買付者へ、再度の買付価格引き上げの要請。

    • 2024年8月7日、公開買付者から対象者へ、1株当たり3,950円での買付提案(第5回提案)。

    • 2024年8月7日、対象者から公開買付者へ、再度の買付価格引き上げの要請。

    • 2024年8月8日、公開買付者から対象者へ、1株当たり4,000円での買付提案(最終提案)。

    • 2024年8月8日、対象者から公開買付者へ、最終提案の受諾を連絡。

  3. 公開買付けの実施決定:

    • 2024年8月14日、公開買付者は、買付価格を1株当たり4,000円として公開買付けを実施することを決定。

取締役会の意見

対象者の取締役会は、公開買付けに賛同し、株主に対して応募を推奨する決議を行いました。この決議は、以下の判断に基づいています。

  • 企業価値向上への貢献: 公開買付者の子会社となることで、公開買付者グループのリソースを活用できるようになり、対象者の企業価値向上に繋がると判断しました。具体的には、

    • 親和性の高い商材による早期の事業シナジーが見込めること

    • 双方の販売網の相互補完による海外市場での取引拡大やイベント業務強化などが期待できること

    • 商材の多言語化や国内市場の開拓などの可能性があること

    • 人的交流による従業員モチベーション向上や企業の魅力向上

    • 物流拠点の相互活用による効率化

    • 公開買付者グループの信用力向上による資金調達力向上

  • 買付価格・諸条件の妥当性:

    • 買付価格およびその他の条件は、対象者株式の価値に関する分析結果や類似案件におけるプレミアム水準との比較から、株主が享受すべき利益を確保した妥当な価格であると判断しました。

    • 公開買付けは、株主に対して適切なプレミアムを上乗せした価格での合理的な株式売却の機会を提供するものと評価しました。

その他のポイント

  • 特別委員会の意見を尊重: 取締役会は、独立した特別委員会が設置され、その答申内容を最大限尊重して意思決定を行いました。

  • 少数株主の利益保護: 公開買付価格や諸条件の妥当性に加え、取引手続きの公正性についても専門家の意見を踏まえ検討し、少数株主の利益が損なわれないよう配慮しています。

  • 取締役・監査役の承認:

    • 利害関係のない取締役4名全員が審議・決議に参加し、全員一致で賛同と応募推奨を決定しました。

    • 利害関係のない監査役2名全員も、上記決議に異議がない旨の意見を表明しています。

    • 公開買付者の執行役員を兼任する取締役1名と監査役1名は、利益相反回避のため、審議・決議に参加していません。

価格の算出方法

公開買付価格は、市場株価法DCF法の2つの手法を用いて算定されました。これらの算定は、公開買付者と対象者、それぞれが独立した第三者機関に依頼して行われました。

公開買付者側の算定

  • 算定機関: 株式会社AGSコンサルティング

  • 算定結果:

    • 市場株価法: 2,587円~2,700円

    • DCF法: 3,586円~4,460円

  • DCF法の詳細:

    • 前提: 対象者の事業計画、デューデリジェンスの結果、一般に公開された情報など。

    • 方法: 2025年3月期以降のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定。

    • シナジー効果: 現時点での収益への影響を見積もることが困難なため、算定には含まれていません。

    • その他: 大幅な増減益は想定されていません。

公開買付者は、これらの算定結果に加え、デューデリジェンスの結果、対象者取締役会による公開買付けへの賛同の可否、対象者株式の市場株価の動向、公開買付けに対する応募の見通しなどを総合的に考慮し、最終的な買付価格を4,000円と決定しました。

対象者側の算定

  • 算定機関: 株式会社MIT Corporate Advisory Services、株式会社プルータス・コンサルティング(特別委員会)

  • 算定結果:

    • 市場株価法: 2,587円~2,700円(両機関とも)

    • DCF法:

      • MIT: 3,503円~4,253円

      • プルータス・コンサルティング: 3,723円~6,663円

  • DCF法の詳細:

    • 前提: 対象者の事業計画、一般に公開された情報など。

    • 方法: 対象者のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定。

    • シナジー効果: 公開買付けの実行を前提としていないため、算定には含まれていません。

    • その他:

      • 対象者の部門別収益予測を積み上げており、大幅な増減益は想定されていません。

      • 設備投資によるフリーキャッシュフローの減少が一部の事業年度で想定されています。

      • 特別委員会は、事業計画の内容・前提条件・作成経緯などが合理的であることを確認しています。

対象者は、これらの算定結果に加え、専門家からの法的助言などを総合的に考慮し、公開買付者からの最終提案価格4,000円を妥当と判断しました。

公開買付価格4,000円は、DCF法による算定結果の範囲内であり、市場株価法による算定結果を上回る価格となっています。また、類似案件におけるプレミアム水準との比較や、対象者株式の直近3年間最高値との比較からも、妥当な価格であると判断されました。

特にDCF法について注目すると:

  • 公開買付者側: 将来のシナジー効果を織り込んでいない保守的な算定となっています。

  • 対象者側: 2つの機関による算定結果に幅があり、プルータス・コンサルティングの算定では上限が6,663円と高額になっています。これは、DCF法における前提条件や割引率などの違いによるものと考えられます。

これらの算定結果を踏まえ、対象者側は、公開買付者との価格交渉を通じて最終提案価格4,000円を引き出し、これを妥当な価格として受諾しました。

一方、公開買付者側も、少数株主の利益を考慮し、対象者取締役会が賛同することを条件として、最終提案価格4,000円での公開買付け実施を決定しました。

最終買付価格4,000円は、以下のプレミアムを含んでいます。

  • 公表日前営業日の終値: 48.15%

  • 過去1ヶ月間の終値単純平均: 52.09%

  • 過去3ヶ月間の終値単純平均: 54.62%

  • 過去6ヶ月間の終値単純平均: 52.91%

公正性担保措置の詳細

公開買付者と対象者は、少数株主の利益を保護し、取引の透明性・公正性を確保するために、様々な公正性担保措置を講じています。特に、「マジョリティ・オブ・マイノリティ」と「マーケットチェック」に関する事項は以下の通りです。

マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)不適用

  • MoMとは、公開買付けにおける買付予定数の下限を、支配株主を除く株主の過半数の賛成を得られる水準に設定するものです。

  • 本公開買付けでは、MoMを適用していません。

  • 理由: MoMを適用すると、公開買付けの成立が不安定になり、対象者株式の売却を希望する少数株主の利益を損なう可能性があるためです。

マーケットチェックの実施

  • 本公開買付けでは、間接的なマーケットチェックを実施しています。

  • 具体的な方法:

    • 公開買付期間の延長: 法定最短期間20営業日に対し、30営業日と設定することで、他の潜在的な買収者が対抗提案を行う機会を確保しています。

    • 対抗提案の制限に関する合意の不締結: 対象者が他の買収提案者と接触することを制限するような合意は行われていません。

その他の公正性担保措置

  • 特別委員会の設置: 独立社外取締役と社外有識者で構成される特別委員会を設置し、取引条件の妥当性や手続きの公正性を客観的に評価しています。

  • 第三者機関による株式価値算定: 独立した第三者機関に株式価値の算定を依頼し、買付価格の妥当性を評価しています。

  • 弁護士からの法的助言: 独立した法律事務所から法的助言を受け、取引手続きの公正性などを確保しています。

  • 十分な情報開示: 取引条件や手続きに関する情報を詳細に開示し、株主が適切な判断を行えるようにしています。

これらの措置により、公開買付者と対象者は、少数株主の利益保護と取引の透明性・公正性の確保に努めています。特に、MoMを適用しない代わりに、公開買付期間の延長や対抗提案の制限に関する合意の不締結など、間接的なマーケットチェックを実施することで、株主により有利な条件での株式売却の機会を提供することを目指しています。

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