母とわたしと、ヨーグルト。
わたしが「ヨーグルトのある食卓」ときいて思い浮かべるのは、母と一緒にとる朝食だ。
母はシンプルな無糖のヨーグルトが好きで、これを毎朝欠かさずに食べる。
パンとサラダとコーヒー、それにヨーグルト。
たまにフルーツ。
これがだいたい、いつものパターン。
◇
このテーマでわたしに何が書けるかな、と考えたときに、思い出したことがある。
幼い頃のわたしは、無糖のヨーグルトの酸味が苦手だったこと。
お砂糖やジャムがあればなんとか食べられるのだけど、やっぱりちょっと酸っぱくて、"はじめから甘さのあるやつを買ってくれたらいいのに" と、いつも思っていた。
そのことを、今の今まで、すっかり忘れていた。
いったいいつから、あの酸っぱさが気にならなくなったのだろう。
◇
わたしの地元はとても田舎で、周囲に進学校と呼ばれる高校が全くなかった。だから、姉二人もわたしも、高校に進学するタイミングで実家を出た。
高校時代、姉との二人暮らしでは、朝ごはんを作る余裕なんてなくて、いつもふりかけご飯。
ヨーグルトを食べることも少なくなった。
慣れない環境でがんばりきれなくて、母のごはんが恋しくて、何度も帰りたくなった。
ときどき帰省すると、朝食には必ずヨーグルトが並ぶ。本当は学校に行かなければならない朝にも、何度か実家でヨーグルトを食べた。
そうして、帰省を繰り返すうちにだんだんと、ヨーグルトを食べながら、ああ、帰ってきたのだな、と実感することが多くなった。
母はわたしの部屋に泊まりにくるときにも、必ずヨーグルトを買ってきた。朝食にヨーグルトを食べると、なんだかほっとして、実家にいるような気分になれた。
◇
実家を離れて、8年。
わたしはいま、無糖のヨーグルトを、ひとりでも買うようになった。たまに切らしてしまうけれど、だいたいいつも冷蔵庫にはいっている。
いつからかヨーグルトが、ほっとできる味のひとつになった。以前は苦手だったあの酸っぱさが気にならなくなった。
美味しい料理はもちろんだけど、今ではヨーグルトも、母の味のひとつだと思う。
今日、母が泊まりにくる。
ヨーグルト、買いにいこう。