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彼がいなくなった

彼がいなくなった。

ずっと一緒だと思っていたのに、
いつのまにか消えてしまった。
「サヨナラ」の4文字さえ言わずに。

事実を受け入れることには時間がかかったが、不思議と涙は出なかった。焦りとも不安とも悲しみとも違う、心にぽっかりと穴が空いたような感覚。

ありえない。

だって、 朝は一緒だったんだ。
呆れるほど全てがいつも通り。
朝ごはんのときも、これからの予定を確認するためにスケジュール帳を開いたときでさえ、一緒だった。

彼は何処へ行ったのだろう。
何処にも居場所はないと、わかっているはずなのに。

確かに今になって思い返せば、今日はいつもより世界が霞んでいるように思えた。それが兆候だと言われれば、そうなのだろう。けれどどう考えても、今日がサヨナラのタイミングではなかった。

少しショックだったのは、彼がいなくなったことに、すぐには気がつかなかったこと。 そして、わたしの生活は彼がいなくても成り立つという現実を知ってしまったこと。

もしかしたら彼は、既にそれを知っていたのかもしれない。

彼のいない生活など考えられないと思っていたわたしにとって、この現実は有難くも冷たいものだった。

わたしは何度も何度も名前を呼んで、辺りを探し回った。

それでも、 もう。
彼はいない。




償いきれない罪を犯してしまった。





なぜなら彼は、2weekのコンタクトレンズだったから。 わたしの右目にいるはずの、2weekのコンタクトレンズ。

そして今日は、まだたったの、1日目だった。 2week の 1day づかい、それはこの世で最も罪な行動の一つ。

ごめん、 コンタクトレンズ。
約束の期間を共に過ごすことができなくて、本当にごめん。

後悔しても、 もう遅い。
この2週間のために生まれてきた彼の心情を思うと、 胸が痛い。

こうしてわたしは、左右度の違う2weekのコンタクトレンズを、左目分だけなぜか3個も多く持っている。


〈追記〉
彼だと思われるコンタクトレンズと20日ぶりの再会。床に張り付き、乾き、かつての瑞々しい姿は
そこにはなかった。その変わり果てた様子に、
犯した罪の大きさを改めて知る。今の彼にわたしができることは手厚く葬ることだけ。
ありがとう、ごめん。
この先、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。


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