日の光に照らされて
僕たちが会うのはいつも夜だった。中学生としてやるべき仕事を終わらせた僕は一目散に自転車を走らせた。輝く君に会うためならどこまででもいける気がした。
初めて君を見たのは部活の大会の開会式の時だった。僕は第六中学校。君は第七中学校。学校順に並ぶと隣同士で座ることになる。僕の左手に映る君はそれはもう眩しかった。それからというもの、頭の中は君のことでいっぱいになった。しかし、学校が違うため会えるのは大会の時だけ。何としてでも君のメールアドレスを手に入れる必要があった。君のいる第七中の男子の中からできるだけ軽率そうな奴は除外して口が堅そうな人物を選ぶ。そうして僕は大した苦労をかけずに貴重な君との連絡手段を手に入れた。
君は忙しいから毎日とは言わないがメールで徐々に君のことを知ることができて嬉しかった。そこで僕は君が部活のほかにも空手を習っていることを知った。いや、空手が本業に違いない。なぜなら君の父親は全国に道場を構える空手流派の館長だったのだ。つまり君自身か、君の将来の旦那さんが跡継ぎということになる。
そこで僕は合点がいく。君は中学生のくせに突然ひとりで海外に行く。「世界中けっこういろんなところに行ってるよ。海外の雰囲気が好きだなー」そんな風に言っていたけどそれは空手のためだったんだね。「海外でもメールは繋がるよね?」僕は必死になって彼女のことを知りたくなった。「今回はただの練習合宿だから2,3日で帰ってくるよ」そう言ってくれたけど、当時の僕は日本と海外が同じ空の下だと頭では認識しているもののどうしても不安になった。「部活終わりに会って話さない?」会う時はいつも部活の大会で使っていた体育館の駐輪場だった。中学3年間のうちに何回会って話したんだろう。また会える口実を作るために漫画を貸した。お土産をねだったりもした。今思うととんでもないが、中学生の僕にはそれぐらいしか思いつかなかった。
「高校はどうするの?」僕が何気なく聞いたこの一言がきっかけになるとは思ってもみなかった。「中学を卒業したらオーストラリアの高校に行くよ」君の流派は当時からすでに日本を出て世界に及んでいる。空手をもっと世界に広めたい、そう言っていた君にとって英語を話せることは当然で、さらに向こうの学校の方がスポーツを勉強するにはよほど環境がいいらしい。話を聞いているうちに僕は素直に受け止めてしまった。悲しいより驚きよりも応援したいという気持ちにさせてくれた君はまさに僕の太陽だった。高校に入るということは少なくとも3年間。そのまま大学に通うならもうあと4年間。君は日本を離れることになる。その間一切日本に帰ってこないわけではない。ただその時から僕自身の君を見る目は変わってしまった。僕とは違う世界に住むすごい人。その時点で僕はすでに君に対して諦めていたようだ。「お土産待っているよ」しょうもない一言で別れを告げた僕に対しても君は暖かな笑顔でこう言った。「また会おうね」
大人になり、再び君と日本で会う機会があった。相変わらず君は眩しかったが、君の笑顔でさえ隠しきれないその左手に光るものを僕は決して見逃さなかった。間違いなく僕は君のことが好きだった。