不妊治療の当事者として。誰も何もトレードオフにしない働き方を叶える「人事制度 LIFE」、はじめました。
こんにちは、川上真生子です。
キッチハイクというスタートアップで、2023年2月22日付で取締役に就任しました。
はじめに
このnoteでは、私が発案者として制度設計がスタートした「人事制度 LIFE」ができるまでをお伝えします。制度に込めた思いも書いてみました。長文ですがお付き合いください。
こんな人におすすめ
妊活・不妊治療とキャリアの両立に悩んでいる方
女性リーダーの育成やキャリア形成を支援したい人事・管理職の方
多様な働き方の推進に興味がある方
*このnoteは、昨年10月に公開した以下noteの続編です。
「人事制度 LIFE」ができるまで
妊活3年目。不妊治療の当事者として、仕事との両立を考える
まずは自分の話をさせてください。取締役という大役を引き受けた私ですが、ただいま絶賛、不妊治療中です。
2年前に妊活を始めてから、一度の流産を経て、タイミング法、シリンジ法、人工受精とステップアップ。今は初めての体外受精にチャレンジ中で、先週、採卵手術を終えたばかりです(辛かった…!)
3年前に執行役員になったときは仕事と両立できる自信がなかったし、責任あるポジションにつく身として子どもを持つことを無責任に感じてしまい、妊活を1年先送りしました。
不妊治療はアンコントローラブルなことが多いので、今だって自信があるわけではないですが、当時とは明確に違うのは、両立させる覚悟があることと、両立を自分のミッションと捉えていること。
制約の中で最大限コミットする / 自分ができない分をチームで達成するスタンスがあれば、「責任あるポジションで子どもを持つことは無責任」では絶対にないし、両立に奮闘する姿が若いメンバーの何かの参考になるのではと思っています。
そんな思いから、取締役就任が内定したタイミングで、それまで伏せていた妊活のことを「妊活宣言」として社内でオープンにしたのでした。
この「妊活宣言」を機に、キッチハイク代表・山本が、「子どもができる前の女性に向けた新しい制度をつくるのはどう?」と提案してくれました。
そこから生まれたのが、この「人事制度 LIFE」です。
妊活に限らず、多様な当事者にとって働きやすい制度をつくりたい
どんな制度が良いだろう?と考えたときに、私はたまたま妊活の当事者だったけれど、メンバーそれぞれに色々な事情があるはずで。みんなが何ひとつ諦めず人生を謳歌して働ける、インクルーシブな制度にしたいと考えました。
「働きやすさ」について考える座談会を開催
実際、どんな制度があると、みんながより働きやすくなるんだろう?
いろんな当事者の声をあつめて、より良い制度をつくっていけるよう、任意参加で座談会をひらくことに。
どんな反応があるか、ドキドキしながらSlackにポストしたところ、なんと社員の2/3近くが挙手してくれるという反響に!
参加しづらいかな……と思っていた男性メンバーも、勇気ある最初の一人が挙手したら、立て続けに手が上がりました。
デリケートな話題である分、心理的安全性をなにより大事にしたかったので、お互いに顔を見ておしゃべりできる人数に絞って、3度に分けて開催しました。
3度の座談会は、メンバーが違えば出る話題も変わり。生理のこと、他社の制度のこと、ママ・パパのお悩み、リアルな不妊治療の話など……普段なかなかできない突っ込んだ話ができ、お互いをより良く知る機会にもなりました。
一部ではありますが、座談会で出た声をご紹介します。
座談会で出た声(一部)
家族の事情とか、仕事を抜ける理由を事細かに言ってくれると思いやれるのが嬉しい
制度以前に、個人の状況を言える環境があるのがいい。そういうことを理解してくれるチームであることが、めぐりめぐってモチベーションになる
業務時間外でよいから、こういう話ができる場があるとうれしい
生理が重いので、キッチハイクに転職してリモートワークになってすごくありがたい。生理の日でも働けるようになった
男性としても、生理などで体調が悪いメンバーを大前提、めちゃサポートしたい。ただ、想像が及ばずデリカシーがないことを言ってしまいそうな不安があって、声をかけるのをためらってしまう
キャリアマップや体調など、自分の取説をシェアできると良さそう
制度はもとより、カルチャーが大事
座談会で分かったのは、休暇制度や手当・補助といった福利厚生以上に、一緒に働く仲間や上長に自分の体調やキャリアプランを言いやすいカルチャーが求められているということ。
そこで、「福利厚生」ではなく、会社の姿勢を伝えカルチャーを支えるための制度として、「人事制度」と位置付けることにしました。
「人事制度 LIFE」に込めた思い
3度の座談会やコーポレートチームとのディスカッションを経て、今回スタートしたのがこの4つの制度です。
「ライフプラン1on1制度」で、デリケートな話題を話しやすく
「ライフプラン1on1制度」は、まさに座談会から生まれた制度です。
「メンバーそれぞれのライフプランや特性に寄り添い、仕事との両立をサポートしたい」という会社の思いを込めました。
誰に / どこまで共有するか?は個人の意思を尊重したいので、「必ずオープンにしよう」というものではありません(←ここ重要)。
ただ、私自身がそうでしたが、子どもを持ちたい多くの人にとって「子どもを持ちたい」と表明するのは、まだまだ勇気がいることだと思います。重要な仕事を任せてもらえなくなるのでは?コミットメントが低いと思われるのではないか?
そんな不安を払拭するために、「言ってもいいんだよ、応援するよ」という会社のスタンスを示したいと考えました。
また、将来の子どものことだけでなく、育児や介護、自分の身体の特性なども共有が可能です。
特段のサポートを必要としていなくても、知っておいてもらえるだけで気持ちが楽になる(周囲も想像しやすくなる)ことがあると思います。
デリケートな話題に関して、本人も上長も話しやすい環境を制度として用意します。
「AMH検査補助」で、ライフプランを考えるきっかけづくりを
これは、私自身の強い思いで制度化しました。将来子どもを持ちたいと思っているメンバーに、早いうちにライフプランを考えることを推奨したい。そのきっかけとして、AMH検査費用を補助します。
AMH(アンチミューラリアンホルモン)検査とは、卵巣内にどれぐらい卵子が残っているかを推測する検査のこと。卵子の数(正確には原子卵胞)は生まれたときをピークに年齢とともに減っていきますが、減り方には個人差があります。卵子の数が少ない人ほど、妊活を急いだほうが良いということになります。
妊娠適齢期は30代前半まで。36歳を過ぎると、妊娠率が落ちていく
自分の20代を振り返り、もっと早く子どものことを考えておくべきだった…と思います。当時は「子どものことは30代になってから」という感覚で、30代になって周りに子どもができはじめて、ようやくリアリティーを帯びてきて。30代後半や40代で子どもを産んでいる人もいたので、働く女性であればそれが普通だろうと思っていました。
でも、自分が目を向けてこなかっただけで、その陰には、子どもができずに諦めた人や、不妊治療を長年続けている人がたくさんいたのです。
高齢でも子どもができた人をロールモデルにして、当然のように自分もそうできると思っていたけれど、現実は違いました(諦めてないけど!)
私たちの世代は、学校で教わったわけでもないし、20代で出産するのが当たり前だった親世代とも状況が違うしで、妊活や不妊治療について知識が不足しています。
私がまさにそうですが、いざ妊活を始めてから知識を得て、「もっと早く始めていれば……」となるケースがあまりに多いと思います。
働きざかりと妊娠適齢期が重なるジレンマ。でも、不妊治療せず適齢期に産めるのが理想では?
会社を経営する立場として、20代〜30代前半の働きざかりのメンバーの妊娠・出産を後押しするような制度導入は、悩ましい部分もありました。何といっても、事業成長のスピードを落とすわけにはいかないからです。
ですがやはり、本人だけでなく会社にとっても、はたまた社会全体にとっても、不妊治療なんてせずに子どもができるのが一番いいと思うのです。
35%が、不妊治療と仕事の両立を諦めている
不妊治療(特に体外受精などの生殖補助医療)は、身体や精神、金銭面での負担が大きく、通院で仕事を抜けないといけないことが多々あります。しかも排卵日の都合でスケジュールを予測しづらく、「明日の午前中に来てください」なんてこともしょっちゅう。私も、経営メンバーやチームのみんなが協力してくれるからこそ、何とか諦めずに不妊治療を続けられています。
厚生労働省の2017年の調査によると、不妊治療を理由に仕事を辞めた人が16%、不妊治療を諦めたり雇用形態を変えた人も含めると、35%が不妊治療と仕事の両立を断念しています。
会社にとっても、メンバーが不妊治療を理由に退職したり仕事を抜けたりするのは、(ドライな書き方にはなりますが)従業員生産性の観点からできるだけ避けたいことだと思います。不妊治療をするよりも、自然に妊娠・出産するほうが、トータルで見れば仕事への影響は少なくて済みます。
妊娠適齢期に子どもを産んでもキャリアと両立できる社会を目指したい
社会にとっても、不妊治療が増えるほど多額の財源が必要となります。不妊治療が2022年度から保険適用で3割負担になったことはありがたいかぎり(私も恩恵に与っています)ですが、残りの7割は私たちが収める保険料や税金でまかなわれています。
足元の少子化対策として必要なのは分かるけれど、そもそも「妊娠適齢期に子どもを産んでもキャリアと両立できる社会をつくること」が本質的な課題解決なのではないでしょうか。
現在、夫婦全体の5.5組に1組が不妊の検査や治療を受けたことがあるというくらい、不妊は身近な問題になっています。
不妊治療で身体にも心にも時間にも経済的にもたくさんの負担をかけて。これだけ財政難な中で、増え続ける不妊治療費を保険料や税金でまかなって。
それってサステナブルな社会なんだっけ?と強く思います。
より良い社会をつくるため、私たちがモデルケースになりたい
スタートアップは、より良い未来をつくるための存在です。事業を通してはもちろんのこと、会社のありかたとしても、大企業と比べて柔軟で機動力が高いからこそ、理想を追い求めて、あるべきモデルケースをつくれるのではと思います。
とてもチャレンジングではあるけれど、キッチハイクは「妊娠適齢期にキャリアと両立しながら子どもを産める / 妊娠・出産で抜けるメンバーがいてもしっかり事業成長できる」会社を目指します。
そのための象徴的な制度が、今回のAMH検査補助なのです。
「フレックス制度」で、仕事をなるべく抜けずに働けるように
以前から個々人にあわせて柔軟な調整は行なっていましたが、今回あらためて制度化しました。
座談会においても、半日単位ではない短時間の業務抜けや始業/終業の調整を希望する声がありました。妊活にかぎらず、あらゆる当事者にとっての働きやすさを叶えます。
フレックス制度はわりと一般的なので、ここはサクッと。
「やわらかな定住制度」で、場所にしばられない働き方を実現
コロナ以降、キッチハイクでは全社的にリモートワークに切り替えました。
パートナーの転勤が決まり地方移住を希望するメンバーが現れたことをきっかけに、全国どこからでも勤務OKにし、今では全国各地でメンバーが活躍しています。
今回、あらためて「やわらかな定住制度」と名付け、正式に制度化しました。
やわらかな定住(Soft-Residency)とは
「やわらかな定住」とは、キッチハイクが提唱する、ライフステージとライフスタイルに合わせて中長期で地域に住まう、これからの暮らしの選択肢です。
地域移住に関心が高まる一方、これまでは移住=永住するイメージがハードルになりやすいことが課題でした。関係人口を始め地域への関わり方も多様化するなか、家族・地域両者が定住という概念をよりやわらかに捉え直すことで、より時代に沿った家族の暮らし方と、地域にとってのインパクトを実現できると考えています。
「保育園留学®︎」などの事業を通してはもちろんのこと、自分たちの暮らしにおいても、あるべき未来を体現していきます。
かくいう私も、2年前に地元福岡にUターン移住しました。
親を残して上京した身としては、いつかは仕事を辞めて福岡に戻らないといけない、と、地元に戻る = 何かを諦めることだと捉えていました。
それが、好きな仕事をしながら住む場所だけ変える、という働き方ができるなんて、夢のようです。
さいごに
「人事制度 LIFE」は常にアップデートし続ける制度なので、会社の成長とともに、メンバーの多様性の広がりとともに、さらに充実させていきたいと思っています。
目指すのは、メンバーみんなが人生を謳歌しながら素晴らしいパフォーマンスが出せること。
座談会で出た、「会社やチームが個人の事情を理解してくれることが、めぐりめぐってモチベーションにつながる」という言葉が、この「人事制度 LIFE」の意義を言い表していると思います。
GIVEの精神
キッチハイクが大切にしているマインドとして、「GIVEの精神」があります。今回「人事制度 LIFE」をつくったからといって、(そんなメンバーはいないけれど)権利だけを主張するのは、望む姿ではありません。
会社に貢献(GIVE)しているからこそ、周囲もその人を応援したいと思えるし、「人事制度 LIFE」によってその人の「人生を謳歌」を応援することで、さらに仕事のモチベーションが高まっていく。お互いにGIVEしあう両輪が回ることで、会社の成長が加速すると考えています。
私自身も、不妊治療をみんなに応援してもらっているからこそ、仕事で必ず結果を出して恩返ししたいです。
これからも、みんなが人生を謳歌しながら成長しつづけるかっこいい会社を目指していくので、キッチハイクの未来にご期待ください!