見出し画像

溶けるようなバレンタイン

わくわくどきどき。小学生のわたしは、手作りチョコを作ろうと「ひとりでできるもん」ばりにエプロンを可愛くつけて、板チョコを細かくきざむ。

「ああ、わたしチョコ作ってる」

脳内の自分に酔いしれながら、好きなあの子を思い浮かべてすでに頭がとけ始めている。

湯煎でとかす。

ほほう。
母がいない中での、ひとりクッキング。当時小学2年生だった、わたしの脳内は忙しく働きまわる。お留守番を難なくこなしてきた経験から、自信満々に「湯煎」にチャレンジする。

絵にかいてある通りに、熱いお湯の上にボウルをのせ、その中にチョコをいれてゆっくり溶かす。

「ああ、わたしってばチョコ溶かしてる」

スッカリ酔いしれたあたりで、ボウルの底の異変に気付く。白っぽいのだ。

「あれ?」

慌ててヘラでチョコを混ぜると、ボウルの底が抜けた。

そう。わたしは湯煎を良く知らなかった。熱いお湯は、火にかけたまま、ボウルはプラスチックでできていた。叫ぶこともままならず、火を止めて、鍋ごと流し台へ運んでいくと、ボウルは半分原型をとどめていなかった。

ーーー

大好きなあの子にチョコを渡す夢は儚く散った。

鍋とボウルはガチガチに結束し一体化して、新種の器具を生み出してしまった。当たり前だけど、親からサザエさんの波平さんばりに「ばかもーん!!」と怒られたのは言うまでもない。

世の中の女の子たちは、かわいい。

昔から、どこかずれた思い出が1つ混じっている自分を、おいしいと思ってしまうところが、純粋なかわいさに近づけない理由だと思う。

その話を付き合いたての夫に話すと、「手作りチョコはいいからね」とやさしく辞退をうけた。正しいアンサー。

あれから手作りチョコは作っていないのに、バレンタインデーは毎年ワクワクしている。


いいなと思ったら応援しよう!

chimo
読んでくださってありがとうございます。いただいたチップはnoteをたのしくつづける為につかわせていただきます!

この記事が参加している募集