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診療報酬改定:人材確保は益々困難に

2024年診療報酬改定の「トリプル改定」は、医療・介護・障害福祉の3つの報酬が同時に改定されます。これは、2025年、2040年問題への対応策であり重要なポイントとして注目されていますが、その影響は医療機関の規模によって異なるようです。

診療報酬改定は医療従事者の所得増に繋がり、就業率・定着率UPを図る狙いがあります。しかし規模に依ってはメリットよりもデメリットが大きくなる場合があるのです。

今回は地方の中小医療機関における現状について書いていきます。

厚生労働省の資料より

「トリプル改定」の概要

・医療分野での改定

医師・看護師などの医療従事者の処遇改善と確保、地域医療の維持、高度急性期医療の推進、外来医療の機能分化、ICT化の促進などが柱になる見込み。

・介護分野での改定

介護職員の賃金アップ、介護施設の大規模修繕への支援、医療との連携強化、認知症ケアの充実化、在宅介護サービスの拡充などが重視されそう。

・障害福祉分野での改定

障害福祉従事者の人材確保対策、グループホームの確保、就労支援施設の機能強化、重度障害者への支援拡充などが検討課題に。

基本方針:4つの柱

厚生労働省の「令和6年度診療報酬改定 【全体概要版】」のなかでは4つの柱が記されています。
*令和6年度診療報酬改定の概要 (全体概要版)

1: 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進

医療従事者の賃上げと人材確保対策、タスクシフティング/シェアリング、チーム医療の推進、ICTの活用による業務効率化、医療資源の地域偏在への対応などを掲げています。医療界での人手不足が深刻化する中、働き方改革とICTの活用によって、医療従事者の勤務環境改善と人材確保を目指すことが重視されています。

2: ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進

医療DXの推進と遠隔医療、地域包括ケアシステムの深化と多職種連携、入院・外来医療の機能分化と連携、新興感染症対策が打ち出されています。2025年以降の超高齢社会に向けて、地域完結型の医療提供体制の構築と、DXによる医療の質・効率化が重要課題とされています。

3: 安心・安全で質の高い医療の推進

物価高騰への対応、安全な医療提供体制の評価、アウトカム評価の推進、重点分野への適切な評価、生活習慣病対策と重症化予防、口腔機能管理と質の高い歯科医療、薬局・薬剤師の地域機能評価と業務転換、医薬品イノベーションと安定供給の確保などを掲げています。患者にとって安心・安全な質の高い医療サービスの提供が主眼となっています。

4: 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上

後発医薬品・バイオ後続品の使用促進、費用対効果評価の活用、医療資源の適正評価、医療DXと遠隔医療の推進、入院医療の適正評価、外来機能分化、生活習慣病対策と重症化予防、適正薬物治療の推進、薬局の地域機能評価などを掲げています。限りある医療資源の効率的活用と、制度の適正化によって、医療保険制度の持続可能性を高めることが目指されています。

以上が令和6年度診療報酬改定の4つの基本方針の柱です。人材確保と働き方改革、地域包括ケアとDX、質の高い安全な医療、制度の効率化と適正化が主要課題とされていることが分かります。超高齢社会を控え、持続可能で質の高い医療提供体制の構築が求められていると言えるでしょう。

地方中小医療機関の現状

メリット・デメリットへの対応

【メリット】

  1. 医療従事者の処遇改善
    給与の引き上げにより、医師、看護師、その他コメディカルスタッフの収入が増えます。これにより働き続けるインセンティブが高まり、定着率の向上や有能な人材確保が期待できます。

  2. 医療機関の経営基盤が強化
    基本料金の値上げで医療機関の収入が増加します。この増収分を人件費や設備投資に振り向けられるため、経営の安定化と医療サービス提供体制の強化につながります。

  3. 質の高い医療サービスが提供
    経営基盤が整備され、優秀な人材と先進の医療機器が揃えば、患者さんに対してより手厚く質の高い医療が提供可能になるはずです。

  4. 地域医療の確保
    基本料金の引き上げにより、地方の中小病院の経営改善が見込まれます。医師不足に悩む過疎地域でも、一定の医療提供体制が維持できるようになります。  

【デメリット】

  1. 患者の自己負担が増える
    診療報酬の値上げ分は、最終的には国民の皆さんの医療費負担増につながります。一部の方は受診を控える可能性があります。

  2. 需要の変動に伴うリスク
    自己負担増により、一時的に医療需要が落ち込む恐れがあります。需要減に合わせて人件費や設備投資を絞らざるを得ず、本来の目的が達成できない可能性もあります。

  3. 制度変更によるコスト
    診療報酬の改定に伴い、様々な制度変更が必要になります。医療機関や保険者の事務コストが嵩む可能性があります。

対応に格差が生じている

現状の問題点としては、「メリットの享受・デメリットの解消」に差が生じている点です。

【大手病院の対応】
大手病院では、早々と給与アップを実施しました。一方で、患者増に備えて外来診療体制の強化や手術室の増設なども検討されています。設備投資の原資確保と患者サービス向上を両立させる動きがあります。
ただし、医師や看護師の確保が課題となっています。給与アップによるインセンティブ付与だけでなく、働き方改革の推進や教育研修制度の充実など、総合的な取り組みが必要とされています。

【中小病院の対応】
地方の中小病院は、基本料金の値上げを歓迎する一方で、対応に四苦八苦している実態があります。値上げ幅が不十分との指摘もあり、経営上のメリットが限定的です。
そのため、経営改善への活用より、むしろ最低限の設備更新や人件費確保に給与アップ分を回さざるを得ない病院も多数あります。将来的な医業発展に向けた投資は、なかなか難しい状況です。

【診療所の対応】
個人の診療所では、料金値上げ分を収入アップに充て、経営の安定化を図る動きがみられます。一方で、患者の受診控えを危惧する声も上がっています。
そこで、診療所によっては値上げ分を最小限に抑える対応を取るところも。地域に根差した小規模医療機関の厳しい経営実態がうかがえます。  

大手は人材確保と設備投資

大手医療機関と地方中小とでは格差が多きくなってしまう可能性があります。そのためより一層人材確保が重要な課題となるでしょう。

人材確保、地方中小病院の課題

中小病院、特に地方の病院では、医師や看護師不足が深刻な状況が長年続いており、そうした状況を打開する起爆剤となるはずが、この度の診療報酬改定でした。給与アップにより医療従事者のインセンティブが高まり、定着と確保が期待できるからです。

しかし、課題は給与面だけにはありません。病院の施設や設備の老朽化、勤務環境の良くない点なども、人材確保の足かせとなっています。診療報酬増収分を人件費に回すだけでなく、病院の環境整備や最新医療機器の導入、院内保育所や教育研修制度の拡充なども検討されています。総合的にインセンティブを高める取り組みが重要視されているのです。

一方、経営の安定化にも力を入れなければなりません。医療法人化による経営基盤強化に加え、経営コンサルタントの起用や、大手病院などとの連携・統合なども視野に入れる動きがあります。

このように、地方の中小病院は診療報酬改定を追い風に、二つの大きな課題、人材確保と経営力強化に着手しています。これらの課題を乗り越えることができるかが、地域医療の維持と発展を左右することになります。診療報酬改定の本当の成果が、中小病院の人材確保対策にかかっていると言えるでしょう。

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