和文英訳演習室(2024年7月号課題)
提出した訳文
全体の感想など
今回の課題文は野口悠紀雄さんの専門である経済のおはなし。「超」整理法シリーズはよんだことがありますが、経済はまったくわからないので内容をつかむのと専門用語の訳をさがしあてるのに苦戦しました。カタメの内容にあわせて単語もカタめの類語におきかえたり、おなじ単語や言いまわしをできるだけさけるようにしてみました。
また、出題者である磐崎弘貞先生の理想とする英文像がまだわからないということもあり、とりあえず今回も遠田和子先生でまなんだスタイルを出発点に英文をブラッシュアップしていきました。
さて、以下は今回の訳文づくりでかんがえたことです。
第1パラグラフ
・「大変重要なことなので繰り返すが、防衛力強化資金にしても剰余金にしても、実質的には赤字国債の増発によって防衛費を賄うにもかかわらず、それをわかりにくくしているだけのことだ。」
ながいので3つにわけて訳していきます。
①「重要なので繰り返す」まででいったんきります。
はじめ"As it is very important, I repeat this."という英文がうかびましたが"Let me reiterate this serious issue:"にしました。複文より単文のほうがスッキリする、repeatよりreiterateのほうがカタイ、this単体よりthis 〜 issueとしたほうが具体的になる……というのが理由です。
②つぎは「AもBもたんにわかりにくいだけ」とまとめます。
「AにしてもBにしても」の「にしても」にとらわれなくても、たんに"both A and B"でもいいはずです。
「防衛力強化資金」は"the Defense Buildup Funds"、「(決算)剰余金」は"the retained earnings"でいいはずです。ここらへんの用語の冠詞の有無、大文字・小文字、単数・複数をどうするかについては財務省のページをみたりGoogle Ngramでくらべたりしてきめていきました。
「わかりにくい」は"smokescreen"という単語をつかいました。「煙幕」のことですが「煙に巻くこと」という比喩にもつかえるようです。防衛の縁語みたいでおもしろいかなとおもいました。
③最後は「実質的にはCはDによってまかなわれる」というふうにします。
ここで受動態をつかうのは、情報の焦点が「赤字国債の増発によって」にあるはずだからです。「まかなう」動詞ははじめは"cover"としていましたが、類義語の"offset"をつかいました。
「赤字国債」は"deficit-covering government bonds"、「増発」は"additional issuance"、「防衛費」は"the National Defense Expenditure"でいいみたいです。
できあがった文を①:②;③というふうにコロンとセミコロンでむすぶことで、もとの課題文にあった1文のつながり感をだしました。
第2パラグラフ
・「宋の国の猿回しが、飼っている猿にトチの実を与えていたが、貧乏になったので、トチの実を減らそうとした。」
ここから「朝三暮四」のエピソードが紹介されますが、いきなり何?となりそうなので、原文にはない"Here is a fable."をたしてワンクッションおきました。
しらべてみると、この「朝三暮四」は宋王朝(960〜1279年)ではなく、春秋戦国時代(前770〜前453年)の宋の国における話だそうです。なので英訳は"Sóng dynasty"ではなく、"Sóng"がただしいようです。国名だけだととわかりにくいので"ancient China"(古代中国の)をたしました。
「貧乏」は"poor"が一般的ですが、ウィズダム英和で〈報道〉のしるしのついていた類義語"impoverished"にしました。「減らす」は"decrease"にしました。課題文の最後にも「減少する」がありますが、そちらは単語をかえて"reduce"にしています。
・「『朝に三個、夕方に四個にする』と猿たちに提案したところ、猿は激怒」
話法をどうするかまよいましたが、物語感のでやすそうな直接話法のままでいくことにしました。
"I'll give you three chestnuts in the morning, and four (chestnuts) in the evening."というふうに2個目のchestnutsは省略しました。
「猿は激怒」は、", which provoked the beasts' uproar. "というふうにwhichでつなげてみました。"uproar"は北村一真・八島純両先生の『上級英単語ロゴフィリア』アスク(2022年)を参考にしました。「大勢が何かに対して抗議や憤慨を示して騒ぐこと」をあらわすらしいので、猿たちがわめいている感じに似つかわしいとおもいました。monkeyという単語はこれまでに2回でているので、今回は"the beasts"としました。
・「そこで、『では、朝に四個、夕方に三個にする』と再提案したら、猿たちは大喜びした。」
おなじ表現をくりかえすと単調になるので"―Well, then, how about 〜?"というふうにしました。chestnutsの個数"FOUR"はキモの部分なので、大文字にして強調しました。"rephrase"は「再提案」ではなく「言い換える」ですが、そのほうが課題文のイイタイコトにちかいとおもうので採用しました。
対比がわかりやすくなるかなとおもって、猿たちのリアクションには"This time"(今度は)をつけてみました。前文でつかった"uproar"と好対照になる単語をさがして"jubilant"(歓喜にあふれる、歓声にわく)をつかいました。
・「これから、『実態は何も変わらないのに、見かけを変えて目先の数字でごまかすこと』を『朝三暮四』というようになった。」
カタイ書き言葉である"Consequently,"(この結果)に、「朝三暮四が〜を意味するようになった」とつづけます。「意味する」の"signify"もカタメの言葉みたいですね。
「実態は〜ごまかすこと」という説明部分は採点ポイントのひとつでしょうね。「見かけを変えて目先の数字で」はチョット重言っぽいので内容を整理して「だますために見かけの数値を変えること、現状が変わらないにもかかわらず」と訳したいとおもいます。
「見かけの数値を変えること」は"altering figures"にしました。alterは部分的に変えることを特にいうそうです。figuresはここでは数値のつもりですが、姿も意味することがありますね。
「現状が変わらないにもかかわらず」は、ウィズダム英和でみつけた"There will be no change in policy."(今後方針に変更はない)という例文を参考に"with no change in the status quo"としました。安井泉先生が「noは予測が裏切られたときに使用. no+単数名詞は『ひとつはあるだろうという予想が裏切られたとき』」と『対訳・注解 不思議の国のアリス』研究社(2017年)にかいていました。"without changing…"でも同様の意味になりますが、noのほうがガッカリ感がでるかなとおもいます。"the status quo"(現状、情勢)は前にどなたかがつかっているのをみたことがあります。ラテン語由来のカッチョイイ単語ですね。
ちなみにインチキ行為をさす口語表現で、monkey business[tricks]というのがあるらしいです。使ってみてもよかったかもしれませんね。
・「防衛力強化資金も決算剰余金の活用も、『朝三暮四』以外の何物でもない。」
この1文はもともと独立した段落ですが、故事を紹介する第2パラグラフとしてひとつにまとめました。また課題文どおりにナントカ金とか朝三暮四を律儀に訳すとながくなるので、意味で訳そうとおもいます。「この言葉は、上記の予算のことをあらわしている」といったことをかいたらいいはずです。
鈴木健士先生の『英文ライティングのメタモルフォーゼ』KADOKAWA(2023年)でみつけた"This 名詞 epitomizes"という表現を参考にしました。目的語の部分をどうしようか検索してみると"what S is about"と組み合わさっているパターンをよく目にしました(いやぁ、あっついわぁ)。
完成した文に"after all"(とどのつまり、結局)をつけることで、これが第2パラグラフではじまった話の結論であることを念押ししました。
第3パラグラフ
・「実際には国債によって賄っているにもかかわらず、それをわかりにくくするもう一つの案が、2022年の暮れに一時浮上した。」
ここでは『メタモルフォーゼ』を参考に、時代+seeという表現をつかいました。「それをわかりにくくするもう一つの案」は"another puzzling (不可解な、困惑させる)plan"としました。puzzlingは『黄リー教』や『ロゴフィリア』にでてきました。
「実際には国債によって賄っているにもかかわらず」は「(冒頭で述べたものと)同じように国債で賄われる」とかんがえて"similarly balanced by government bonds"を文末につけました。冒頭でoffsetをつかったので、ここではbalance(埋め合わせる、収支を合わせる)をつかっています。
ところで、この第3パラグラフは第1パラグラフの類例をあげる役割をはたしているとおもうので、そのことをわかりやすくする1文や接続副詞などをたしてもよかったですね。
・「それは、国債償還期間を、現行の60年からさらに延長するというものだ。」
ウィズダム英和に"extend the pact beyond 2012"(協定を2012年を超えて延長する)という表現がありました。目的語をかえればよさそうですね。
「国際償還期間」は財務省のPDFをみたりして"the government bond redemption period"にしました。「現行の60年」は"the current 60 years"でいいはずです。頭に"It proposed 〜 ing"をつければ完成です。
……と、ここまでかんがえたあとで、ほぼほぼ同じ英文をweb上でみつけておどろきました。
・「これによって一般会計から国債整理基金特別会計に振り込まれる繰入金が減少するので、その分を防衛費に充てようとする考えだ。」
この最後の1文はとくにむずかしくかんじられました。一般会計から特別会計に振り込まれる繰入金?? 内容がよくわかりませんが、とりあえず訳していきます。
「繰入金」は"money transferred"、「一般会計」は"the General Account"、「特別会計」は"the Special Account"、「国債整理基金」は"the Government Debt Consolidation Fund"らしいです。で、頭に"This would reduce"(これによって減少させる)をつけて英文をくみたてました。
「〜しようとする考えだ」までイチイチ訳さなくても、残りの部分を"allocate A to B"(AをBに割り当てる、配分する)を分詞構文にしてくっつければいいはずです。「その分」は差し引きした残りということで"the remainder"にしました。「防衛費」については冒頭で "the National Defense Expenditure"と訳していますが、すこし言いまわしを変えて"the defense spending"にしました。
訳文検討会
※7月下旬ごろ追記予定
成績・講評
※8月下旬ごろ追記予定
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