
「和文英訳演習室」に挑戦 2025年3月号
はじめに
毎月、演習室に投稿した訳文について、どんなことをかんがえながら訳したかのメモをまとめて記事にしていってます。演習室に投稿されている常連組の方々にはもちろん、参加していない方々にも読みやすい内容にできたらなぁとおもっています。
「そもそも演習室ってなに?」という方は↓の記事をご覧ください。
今回提出した訳文
A long time ago, the track-and-field team I belonged to was strong for a rural middle school back then, and had some national-level students. The sight of their training deeply impressed me with the idea that becoming a faster runner doesn't always require running the whole time. In fact, they dedicated more time to strolling around, loosening up their bodies, or jogging along, and then as if remembering suddenly, they bolted forward at full speed. This approach enabled them not only to lower their resting heart rates, but also to recover their normal condition quickly after exercise.
Later, I discovered that Emil Zatopek, a legendary long-distance athlete nicknamed the "Human Locomotive," had developed this kind of training method: Interval Training. One of its variations, High-Intensity Interval Training, can produce significant effects. This method consists of a cycle of heavy strength training, sprinting, and moderate exercises. It enhances heart-and-lung function and promotes fat-burning, more effectively than other traditional training methods.
出題者:磐崎弘貞先生・Jim Elwood先生
全体の感想など
今回の課題文は『発達障害「グレーゾーン」生き方レッスン』という本からの出題ですが、抜粋された箇所は終始ランニングの話ですね。
個人的にウォーキングやスロージョギングが好きで、一時期YouTubeで解説動画などもみていたこともあり、エミール・ザトペックやHIITの存在は知っていました(だからといっていい英文がかけるかどうかはまた別の話)。
今回いちばん工夫したところは、課題文の文構成を一部組み換えたところです。演習室の参加者で何人かやっている方はいますが、個人的には初挑戦。ほかにもできるだけ「I」をつかわない、be動詞にたよらない、否定形や受動態をさけるなどにも、できる範囲でこだわりました。
第1段落
第1段落は、筆者の陸上部での思い出。いつごろの話なんでしょうね。
1-1 筆者は大昔に、中学の部活で陸上をやっていたが、当時、田舎の中学としては、陸上の強豪校だったこともあり、全国レベルの選手がいた。1-2
その人たちの練習を観察していると、ずっと走っているわけではなく、ぶらぶら歩いたり、体を揺さぶったり、軽く走ったりしている時間のほうが長く、たまに思い出したかのように全力でダッシュするのだった。1-3 なるほど、強くなるためには、ずっと走り続ければいいというものではないのだ、と大いに感心したものだ。1-4 そうした方法で鍛えた選手たちは、平常時の心拍数が少ないだけではなく、運動しても、すぐに元の心拍数に回復した。
1-1
筆者は大昔に、中学の部活で陸上をやっていたが、当時、田舎の中学としては、陸上の強豪校だったこともあり、全国レベルの選手がいた。
『英語は「I」ではじめるな』という本があるように(未読)、できればいきなりIを主語にした英文からはじめたくありません。そこで「昔、じぶんが所属していた陸上部は……」というふうに「陸上部」を主語にします。
「部活」といえばclubが思い浮かびますが、どうも〇〇teamというほうが自然なようです。
「強豪」はシンプルにstrongやpowerfulでいいみたいです。「〜としては」は割合・考慮のforがつかえますね。
「中学校」といえば「junior high school」とならった記憶がありますが、nGramを確認すると1980年代中ごろを境に「middle school」のほうがよくつかわれるようになっています。欧米の学校制度の実情はわかりませんが、とりあえずmiddle schoolにします。語数もすくないし。
「大昔に」「中学の」といってるので、ここでさらに「当時」と訳さなくてもがいいような気がします。一応ウィズダム英和をひいてみたら……
back then (!なつかしんで昔を振り返る気持ちを暗示)
……という表現がでてきました。筆者は無意識にノスタルジックになっていたのかもしれませんね。せっかくなので、つかってみることにしました。
「全国レベル」はnational levelでいいみたいです。中学生の選手であることを明示するために「national-level students」としておきました。
A long time ago, the track-and-field team I belonged to was strong for a rural middle school back then, and had some national-level students.
1-2、1-3
その人たちの練習を観察していると、ずっと走っているわけではなく、ぶらぶら歩いたり、体を揺さぶったり、軽く走ったりしている時間のほうが長く、たまに思い出したかのように全力でダッシュするのだった。なるほど、強くなるためには、ずっと走り続ければいいというものではないのだ、と大いに感心したものだ。
個人的な感想ですが、1-3の「ずっと走り続ければいいというものではない」が1-2の「ずっと走っているわけではなく」とかぶって冗長な感じがします。全体の情報の流れを整理して課題文を組み換えたいとおもいます。
1-2「その人たちの練習を観察して」、1-3「大いに感心した」のは、1-3「強くなるためには、ずっと走り続ければいいというものではないのだ」ということ。彼らは1-2「ぶらぶら歩いたり、体を揺さぶったり、軽く走ったりしている時間のほうが長く、たまに思い出したかのように全力でダッシュするのだった」。
……こんな感じでどうでしょうかね。
「その人たちの練習を観察して」はA careful observation of their training (show that…)という無生物主語構文でいけるでしょう。今回はもうすこしみじかくThe sight of their trainingという主語にします。類似の表現がIDIOMATIC300にもでてきました。
これをimpressという能動態でうけます。
the whole timeは「(好ましくないことについて)絶え間なく, 延々と」ということなので、今回の「ずっと走り続ける」のニュアンスにあいそうです。
「強くなるためには、ずっと走り続ければいいというものではない」といったあとにIn factをはさむと、実際の彼らの練習風景にスムーズにつながる気がします。
時間をつかう表現ではspend doingがおもいうかびますが、より専念している感がでるdedicate more time to doingにしました。
「体を揺さぶる」というのがどういうトレーニング内容かチョットよくわからないのですが、小刻みにジャンプしたり腕や足をふって体をほぐしている様子を想像しました。「loosening up their bodies」。
「たまに思い出したかのように」はどう書くか悩みましたが、検索すると「as if remembering suddenly」という表現がでてきました。
bolt+方向の副詞で「急に駆け出す」だそうです。thunderboltのboltですね。英語ってホント動詞が豊富ですよね。
The sight of their training deeply impressed me with the idea that becoming a faster runner doesn't always require running the whole time. In fact, they dedicated more time to strolling around, loosening up their bodies, or jogging along, and then as if remembering suddenly, they bolted forward at full speed.
1-4
そうした方法で鍛えた選手たちは、平常時の心拍数が少ないだけではなく、運動しても、すぐに元の心拍数に回復した。
「この方法」を無生物主語にしてenableをつかってまとめます。
「〜だけはでなく〜も」といえば、まさにnot only but alsoですね。ありがちすぎるので、ほかにいい感じ表現があればいいのですが……。
「平常時の心拍数」は、resting heart rate(安静時心拍数、略してRHR)という用語をみつけたのでそのままつかいます。
後半の「元の心拍数」では、heart rateをそのままくりかえすと冗長になるので、normal condition(正常な状態)といいかえてみました。
This approach enabled them not only to lower their resting heart rates, but also to recover their normal condition quickly after exercise.
第2段落
第2段落は、インターバルトレーニングについての説明です。
2-1 その後知ったことだが、このトレーニング法は、「人間機関車」と呼ばれたエミール・ザトペックという長距離競技の名選手が開発したもので、インターバルトレーニングと呼ばれる。2-2 そのなかでも効果が高いとされる高強度インターバルトレーニングは、強い筋トレや全力疾走と緩い運動を繰り返し行うトレーニング法で、通常のトレーニング法よりも心肺機能を高める効果や脂肪燃焼効果が優れているとされる。
2-1
その後知ったことだが、このトレーニング法は、「人間機関車」と呼ばれたエミール・ザトペックという長距離競技の名選手が開発したもので、インターバルトレーニングと呼ばれる。
「その後知ったことだが」はなんとか「I」をさけようとしましたが、さすがに無理でした。
「〜は〜によって開発された」という受動態ではなく、「エミール・ザトペックがインターバルトレーニングを開発した」という能動態にして、末尾にInterval Trainingがくるようにしました。そのほうが2-2の高強度インターバルトレーニングにスムーズにつながるとおもいます。
名選手はたんにfamousでいいみたいですが、もうすこし適切な形容詞を探そうとおもいます。greatも候補にあがりましたが、great long-distanceというと「超長距離」とかんちがいされたら困るので、結局、legendaryにしました。
runnerは前のパラグラフでつかっているので、athleteにします。
Wikipediaをみるとザトペックは英語圏では"Czech Locomotive"(チェコの機関車)とよばれているようです。ちょっと悩みましたが、"Human Locomotive"でいくことにしました。
ところで1-2にある全国レベルの選手がこなすトレーニング法は、ザトペックから直伝されたものではなく、本人が実践していたトレーニング法から多少なりともアレンジされてるはずです。
そこでtraining methodの前にthis kind of(こういう種類の)をつけてみました。蛇足かもしれませんが。
Later, I discovered that Emil Zatopek, a legendary long-distance athlete nicknamed the "Human Locomotive," had developed this kind of training method: Interval Training.
2-2
そのなかでも効果が高いとされる高強度インターバルトレーニングは、強い筋トレや全力疾走と緩い運動を繰り返し行うトレーニング法で、通常のトレーニング法よりも心肺機能を高める効果や脂肪燃焼効果が優れているとされる。
ここは以下のようにA、B、Cのカタマリでとらえます。
A「そのなかでも効果が高いとされるのは高強度インターバルトレーニングである」→B「それは強い筋トレや全力疾走と緩い運動を繰り返し行うトレーニング法である」→C「通常のトレーニング法よりも心肺機能を高める効果や脂肪燃焼効果が優れているとされる」
接続詞や分詞構文などを駆使すれば1文にまとめられるでしょうが、長すぎるので適宜区切ったほうが無難でしょう。自分の場合、このままA、B、Cを3つの独立した文に訳したいとおもいます。
まずはAから。
「そのなかでも」は、「(インターバルトレーニングにはさまざまな派生形があるのが)そのなかでも」という意味でしょう。One of the variationsを主語にたてます。
「効果は高い」はbe highly effectiveといえますが、be動詞をさけて一般動詞をつかいたいのでproduce significant effectsとします。
「とされる」はIt is said that… is said to beなど受動態にするのをさけたいところ。canをつければ「することがある」となるので、能動態でも同じような意味になるはずです。
つづいてB。
ここははじめ「激しい運動と緩い運動を交互に」とかんがえました。
しかし、実際に高強度インターバルトレーニング(HIIT)についてしらべると「交互に」というよりもいくつかのメニューを「循環」させていることがおおいようです。そこでconsist of a cycle of(〜の循環から成る)としました。
「緩い運動」はしらべるとgentle exerciseやlight exerciseなどがでてきます。HIITは軽い休憩はあっても中程度の運動はやっているイメージがあったので、moderate exercise(適度な運動)としました。relatively light exerciseとかlighter exerciseとしてもよかったかもしれません。
最後にC。
心肺機能は医学的にはcardiopulmonary functionですが、ちょっと仰々しいきがしたので、heart-and-lung functionとしました。
「通常のトレーニング法」とは、ここでは「従来のトレーニング法」のこととかんがえて、 traditional training methods。そおにotherをつけて意味をより明確にしたつもりです。
One of its variations, High-Intensity Interval Training, can produce significant effects. This method consists of a cycle of heavy strength training, sprinting, and moderate exercises. It enhances heart-and-lung function and promotes fat-burning, more effectively than other traditional training methods.
訳文検討会
※後日追記予定
成績・講評
※後日追記予定