ザッハトルテに睨まれた
ザッハトルテが好きです。
スターバックスでアルバイトをしていた頃、バレンタインの時期になると毎年ザッハトルテが店頭に並んでいた。
フードペアリングといって、飲み物と食べ物にも相性のよい組み合わせがある。ザッハトルテと相性のよいコーヒーは、カフェベロナという珈琲豆だった。
はじめてカフェベロナとザッハトルテを一緒に食べたとき、ふたつが合わさって舌のうえで心地よく溶けていく感覚があった。
わたしは、コーヒーもケーキも大好きだけど、どっちもすぐ胃がもたれる。コーヒーもケーキも、半分くらいがちょうどいいというタイプだ。しかし、フードペアリングの手にかかると、両方ともペロリと完食してしまう。
それからザッハトルテが出る時期になると、毎年早めに出勤し、出勤前にカフェベロナとザッハトルテを食べるようになった。それが楽しみだった。
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それから3年が経ち、ヨーロッパ周遊の旅にでる。調べていくうちに、ウィーンはザッハトルテ発祥の地だと知る。これは行かなくては!
ウィーン滞在中、わたしは発祥の地のザッハトルテを求めて、『ホテルザッハー』のカフェへ向かった。
ホテルの右手側に、【CAFE SACHER】と書かれた入り口がある。さすが、ザッハトルテ発祥の店。店前には行列が出来ている。写真を撮りながらも「早く並ばなければ」と、そわそわしていた。もう、目の前を通りすぎる馬にきゃーきゃーしている場合ではない。
暑い日差しの中、店前の列に並ぶ。
店に入ると、廊下を挟んで左右に部屋がある。店内は結構広いみたいだ。順番待ちをしていると、店員さんが「どうぞ」とグラスに入った水を持ってきてくれた。(喉カラカラだったの、ナイスタイミング!)
水をのみながら、ザッハトルテを食べている人々を眺める。赤を基調とした部屋に、天井からはシャンデリア。これぞ私が想像していたヨーロッパ、というような店内だ。これはテンションがあがらないわけがない。
ちょうど水を飲み干した頃、右側の部屋の席に案内された。
部屋に入ってすぐの席に座る。店内さんのコスチュームがかわいすぎて、すかさずシャッターを切る。(ブレた)奥の壁には、皇妃エリザベートの肖像画。
店内のあまりのかわいさに、メニュー表と辺りを交互にキョロキョロしながらも、メニューの1番目立つところにある、コーヒーとザッハトルテのセットを頼む。
かわいいウェイターのおじさまがケーキを運んでくる。黒の蝶ネクタイがよく似合う、白髪の笑顔が素敵なおじさま。小さな声で「ダンケ」と返す。
ザッハーのザッハトルテは、スポンジケーキの間に、アプリコットジャムがうすくサンドされており、まわりをチョコレートでコーティングされている。そして、甘くないホイップがたっぷり。
コーヒーはミルクの泡がのったメランジェ。ウィーンの代表的なコーヒーだ。ここのメランジェは、上にちょこんとホイップクリームが乗っている。メランジェあいかわらずかわいい。
ウィーンのカフェはコーヒーを頼むと水をつけてくれるのがありがたい。(他のヨーロッパの国々で水のサービスはほぼないの)
ザッハトルテの上にのっかる、店名が入ったチョコレートがなんともかわいらしい。
ぱくり。
水で口を潤してから、ザッハトルテを一口たべる。
ん?わたしが今まで食べてきたザッハトルテとはだいぶ違う。もはや違うケーキのような気がしてきた。
甘いチョコレートケーキと、酸味のあるアプリコットジャム。それにホイップをいっしょに食べる。美味しい。しかし、私の胃は半分くらい食べたところで「ちょっと待ってくれ」と悲鳴をあげはじめた。
フォークを置き、メランジェを飲む。このふわふわの泡が美味しい。
メランジェと水に助けを求めながら、なんとかザッハトルテを最後まで食べきる。
ザッハトルテが悪いんじゃない、わたしの胃が悪いのだ。ごめんねザッハー...。
やっぱりスタバで食べていたザッハトルテのように、ペロリとはいかなかった。恐るべし、フードペアリング。
(スタバのザッハトルテの方が好きだな...)
発祥の店の中でこんなこと思っていいのかと、自分を一瞬責めたが、わたしはスタバのザッハトルテの方がすきだ。正直、本場のザッハトルテはあまり好みではなかった。
まぁ、でも、それでいいのだ。発祥の店で食べる、ということに意味を感じていた。
どんな食べ物も、発祥の地で誕生し、様々な国や人の手をたどってより美味しいものに変化していくんだと思う。
名物の店の味が期待はずれ、だなんて良くあることだ。モンサンミッシェル のオムレツだってそうだった(ごめんなさい)そういうものだと思う。...でも、イタリアのイカスミパスタ発祥の店のイカスミパスタは最高に美味しかったな...。ま、結局味の好みは人それぞれ違うしな〜!なんてゆるい考えでまとまった。
そんなことを思いながら、カフェザッハーを後にして、歩いてすぐのウィーン国立歌劇場へ向かう。帰り際、ガラスケースに並ぶザッハトルテに睨まれた気がした。
ごめんごめん。でも、この店で君を食べれたことは最高に嬉しかったよ。
また会おうね、とは言わないけれど。
2019/6/13 Vienna, Austria.