3つの視点から描いた是枝監督の新作映画「怪物」
映画(怪物)(ネタバレありです)
是枝裕和監督の新作で、カンヌ国際映画祭にも出品された話題作です。私もようやく観ることができましたが、今回の作品は監督のこれまでの作品のベースであった「家族」という概念から拡大したフィールドを描いていると思います。
秀逸したストーリー構成と展開は、今回監督以上に脚本を担当した坂元裕二さんの力量を改めて見る思いでした。同氏はヒットドラマの「東京ラブストーリー」などの脚本を担当しましたが、この映画を3つに分けて構成しています。
私も話題作なので、事前に新聞の映画評を読みましたが、ネタバレしないように斜め読みに留め、3つの視点から描かれる作品ということだけに留意して本編に臨みました。
この3つが誰になるのかを注意しながら観ていきましたが、途中から理解できました。内容は小学校でのいじめを巡る3人の言動を、それぞれの視点から描いています。
最初は息子のいじめを学校に告発するシングルマザーの母親、その息子のクラス担任で加害者とされた教師、さらに当事者である小学生の男の子。シングルマザーゆえに息子を溺愛する母親の過激な言動、その告発内容とはかけ離れた教師の実態、そして真実を知る本人である小学生。
それぞれのシーンが展開していきますが、各人に共通するシーンがオーバーラップして描かれており、それが事実であることを物語っています。ただ事実でありながらも、真実は全く別に存在している訳で、同じ現実でも3人それぞれの視点では全く違う解釈になってしまいます。
真実というか真相は、当事者の小学生が知るのみですが、真相などそんなことはどうでもいい。身に覚えがない教師が、保護者集会でいじめの謝罪を強要されますが、指示した校長は「学校を守るためには、実態なんかどうでもいい」と言い放ちます。
1つの真実は事実となって様々な人に認識される場合、それが必ずしも真実や実態を伝えていない。むしろ逆に理解される場合も珍しくない。まさにそこには「怪物」が潜んでいるかもしれないのです。さらにそうした怪物がデフォルメして巨大化してしまうのが、ネットのSNSであることは疑う余地もありません。
台風一過の青空の下、小学生の男の子が友達と2人で草むらを走るラストシーンの爽快感は、真実を知る者のみが味わえる快感なのかもしれません。最後に音楽を担当した坂本龍一さんのご冥福をお祈り致します。(写真は公式サイトより引用しました。)