リアルテックベンチャーの天国: 白鬚西共同利用工場について(別名:白鬚西R&Dセンター)
本記事では2020年2月から弊社株式会社CuboRexが入居している白鬚西共同利用工場(以下,本工場と呼称する)について紹介する.本工場には複数の製造業や開発事業者系の企業が入っており,工場型オフィスとして機能している.以下の記事において本工場の特徴を述べていく.
格安の料金で高い天井と広い空間にいろいろな設備が置ける。
本工場は白鬚西共同利用工場という名前からもわかる通り,工場型のオフィスとして一つの工場の中に複数の工場用の部屋がアパートの部屋のように入っている.一部屋は安い部屋だと家賃だけだと月4万円程度という格安の料金から借りることができる.下記の図は白鬚西共同利用工場内において白鬚西R&Dセンターの枠(詳細は後述する)で貸し出している部屋の見取り図である.
下記の図は現在株式会社CuboRexが入居している部屋の入居直前の様子である.遮るもののない部屋で高い天井があるのが特徴である.重量のある加工機械もこの工場であれば設置することが可能である.また電気については動力電源(3相200V)を標準装備している.
広い部屋だと70㎡近くの広さがある.
また各部屋にはキッチンスペースとトイレが常備されている.なおエアコンやネット環境は常備されていない.入居者の手配によって設置可能である.
車が通れる広い廊下で、設備や資材の搬入なども楽にできる
施設のそれぞれの階には車の出入りが可能な通路が整備されており,各オフィス内から直接資材のやり取りが可能である.特にものづくり系の企業にとって資材の搬入出経路の確保は至上命題の一つであり,その点この工場は都内施設としてはとても優れた機能を有する.
屋上には有料で借りれる月極駐車場が存在し,来客の際など一時的な場合であれば無料で利用できる(要事前届出)
モノづくり系の会社が多数入居しているので、加工機の音なども(比較的)気にしなくて良い
入居企業の多くが製造業の企業であるため都内の共有施設としては珍しく騒音に関して比較的寛容である.ただ夜間の騒音や度をこした騒音などについて注意が必要である.
近くに都内最大規模のホームセンターがあり、資材の購入に便利
本工場近く(自転車で3分程度)に都内最大規模を誇るロイヤルホームセンターが存在する.ここの施設では各種工具や木工,金属資材など多種多様な資材を入手することができる.特に入居直後やその後など室内に環境構築のための造作を設置する際などとてもお世話になる.各種板材や金属のカットサービスや無料の配達サービスも提供されておりとても重宝する.
便利な交通アクセス
本工場の最寄り駅は2つあり南千住駅(徒歩13分)と京成関屋駅(14分)が存在する.
南千住駅は、メトロ日比谷線、つくばエキスプレス、JR常磐線の3路線が止まりかなり便利な駅である.
またバイクがあるならこの工場から15分程度あれば秋葉原の方面へも簡単に向かうことができ電子部品関係を入手するのにとても重宝している.
東京電機大学や都立産業技術高専荒川キャンパスが近くにあり工学系の優秀な学生にアプローチしやすい
本工場近辺において東京電機大学と産業技術高専荒川キャンパスが存在しており,工学系の優秀な学生や研究室に対してお互いアプローチしやすい.弊社においてそれが理由で東京電機大学の学生を雇用し,高専の学生さんも定期的に遊びに来ている.
屋外実験環境に恵まれている
本工場の近くには都立汐入公園が存在する.この公園は荒川区における最大規模の公園であり,隅田川とも接したとても気持ちの良い環境の公園である.都内の工場で活動するにあたり屋外環境での実験は実施可能な場所が限られることが多く,遠く郊外までもっていく必要があるケースは珍しくない.そういった状況下において川や大きな開けた土地は屋外実験環境としてとても恵まれた多様性のある環境である.なお念の為いっておくが公園での実験は自己責任または事前に管轄部署の許可をとって実施することが必要である.
また仕事で煮詰まった際など散歩したりスポーツを楽しんだりなど気晴らしにとてもよい場所である.
共有設備
本工場における共有設備として通路を除くと会議室が存在する.内外部との打ち合わせなどを行う際に組合員であれば無料で利用できる.なおインキュベーション施設によくある,共有の工房や工作設備はない.
以上,本工場における特徴について述べてきた.以下の内容では本工場の設立背景や関係性などについて述べていく.
白鬚西共同利用工場の設立背景
本工場の設立背景として南千住周辺の再開発が大きく関わっている.本工場がおかれている近辺は汐入とよばれた地域であり,下図に示すように隅田川の曲がりによって発生した半島のような場所に存在する.この地域の再開発は平成初頭から実施され,それまでは江戸の下町としての風情が大きかった.
こちらは平成2年頃の汐入の映像である.平屋の工場が多く存在することがわかる.それが平成初頭と平成20年以降の再開発によりタワーマンションが多く設置され,学校や公園,病院といった人が居住する空間として整備されていった.
再開発前
再開発後のタワーマンションの様子
そういった背景から再開発の過程で汐入地域において地権者として第二次産業を主に実施されていた事業者を対象に工場施設を集約することを目的として設立されたのが本記事で紹介している白鬚西共同利用工場である.2020年現在も入居者の約1/3程度が当時の地権者の方が金属加工業や染め物,革製品の加工といった事業を実施されている.
入居企業
2020年2月時点で下記の企業が入居しており事業を行っている.入居企業の業種として多いのが金属加工,機械設備や電子部品商社,内装工事,革や縫製系の事業者,機械や電気の開発.製造事業者等である.ただそのうち約半分程度の事業者は倉庫設備として利用している.
2021年4月時点で入居している事業者についてユニークなベンチャー事業者について簡単に紹介しておく。
日本風洞製作所
風の総合商社として主に小型から大型までの風洞装置や風力発電機を開発・製造をしている
Zip infrastructure
都市型新交通として自走ロープウェイの開発をしている。
CuboRex
不整地のパイオニアとして農地や林業といった不整地で使えるクローラシステムなどの動力ユニットの開発・販売をしている
組織構造
現在寺嶋が把握している限りにおける本工場を取り巻く関係性について下記画像にとりまとめた.
基本的な構造としては東京都が所有する工場に入居者が東京都と契約して入居する形である.また工場の管理業務は東京都から委託された汐入工業共同組合が実施する.
入居方法
本工場への入居方法について紹介する.本工場は主に東京都が実施する公募に応募し事前審査を通過したものが採択され,入居が可能になるというシステムになっている.本工場への入居方法は二通り存在する.
一つは白鬚西共同利用工場入居者として入居する方法,もう一つは私達も利用している白鬚西R&Dセンターとして入居する方法である.それぞれ紹介する.
白鬚西共同利用工場入居者として入居する方法
都内で事業を行う者であれば基本的に制約なく公募可能な方法である.
白鬚西R&Dセンターとして入居する方法
もう一つは現在株式会社CuboRexが本工場への入居のために利用している白鬚西R&Dセンターへの入居である.こちらは入居する施設そのものは本工場と一緒である.しかし入居に至るプロセスや趣旨の違いから名称が別れている.前述の方法と異なる点が名前からも分かる通りR&D,つまり研究開発や試作開発を目的として入居する点である.そのため主にベンチャー企業の入居を対象としており,前述の公募で入居した場合と異なり賃料の半額が東京都から補助される.また中小企業振興公社からの経営サポートも受けることができるといったメリットが存在する.現在ハードウェアやリアルテック系のベンチャー企業として事業を成長させていきたい段階であればこちらの方法で応募することをオススメする.
下記の記事は自分たちが白鬚R&Dセンターの公募をみつけるきっかけとなった記事である.こちらもぜひ参考にしてほしい
以上本工場への入居にむけての方法について紹介した.入居にあたっては何点か注意が必要なポイントがあるのでそちらの点についても説明する.
公募開始から目安半年後に入居
今年7月の公募では12月以降の入居となっている.また私達の場合でも2019年9月に公募が行われ入居自体は2月に行われた.そのため公募があってから半年後の入居を目安とする必要がある.なので半年後の状態とそれ以降の成長を加味して部屋の選定など実施する必要がある.自分たちはそのあたりちゃんと計画をしておらずとりあえず公募にでていた一番小さな部屋を契約したため記事執筆時点でオフィス環境内での物の配置で苦労している.
連帯保証人について
私が入居した際に連帯保証人として自身の名義をだした.その際に連帯保証人には一定以上の収入があることを証明する必要があった.ベンチャーの代表などは税金対策のために意図的に会社からの報酬を減らしていることがあるのでその点中小企業振興公社に確認をしておく必要がある.
支社登録の実施
入居後には必ず本店または支店としての登記を,借りたオフィスで行う必要がある.
R&Dでの応募での用意書類
本工場への入居をR&Dで行う場合,ものづくり系の補助金を出すレベルの書類仕事が待っているのでその点事前に覚悟が必要である.面談審査も2回ある.
施設見学が必須
応募にあたっては事前に施設見学が必須のため見学予定日を確認して応募する必要がある.
5年後には退去
R&Dでの応募の場合は5年後には必ず退去しなければならない.更新などは仕組み上できなくっている.またその際には入居時点での現状復帰が求められる.例えば空調施設や電気配線など明らかに次の入居企業が使いそうなものでも退去時点で撤去が必要である.
公募は年に二回
公募は過去の事例を見る限り年2回程度の周期で行われる.ただその時点で部屋が空いていない場合はその限りではない.時期としては僕たちが応募したときは2019年9月にあり,また2020年は6月に公募がされるなど時期は不定期なようである.
気になるポイントや課題・要望
これまで本工場の説明や入居までのことについて説明してきた.本工場は間違いなく都内でハードウェアベンチャーが事業を実施する上でとても優れた施設であり仕組みであることは間違いない.その上で実際に入居してから気になった点やよりよい施設・仕組みとなるための要望について述べる.
中小企業振興公社による経営支援
中小企業振興公社の方が定期的にR&Dで入居している企業を対象に回ってきてくれる.(最近はコロナ関係の影響で途絶えている)その際には入居企業が対象となるような補助金や展示会などの情報を提示してくれており助かっている.ただ自分の希望としては情報提供だけでなく訪問先企業の個別の課題などについても相談にのって頂けたり,マッチングしそうな企業の紹介といった提案などして頂けるととてもありがたい.
ネットワーク設備の問題
コロナ関係の影響もあってか最近はとてもネットの通りが悪い.さこのあたりの事情は組合の情報なども加味すると施設全体の問題らしく事業の進捗をあげるためにも解決が必要である.弊社においてもその辺りが問題となっており2月入居前に固定回線の工事申請をだしたが記事執筆時点の6月末頃になっても工事が完了していない.現在は複数台のポケットWIFIでなんとかしている状況である.(もちろん工事業者にせっついてはいるのだが・・・)
2020/07/19 追記
無事 Nuro光の開通工事が完了しました。約5ヶ月かかりました それまでポケットwifiでなんとかやりくりしてたのでつらかったです。
退去時における現状復帰
上記でも述べたように退去時には現状復帰がもとめられる.入居時点での状況は東京都の担当者が撮影をしているのでその点と比較する形である.ただ私達のときもそうだったが空調設備や電源設備など次の入居者にとっても必要となるものも存在する.そういったものに関しては次の入居者の目処がたっている場合などにおいては退去者と新規入居者の同意のもと退去者が設置したものを引き継いでその後の責任も持つなどといった柔軟なしくみがあることが望ましい.
本工場内における共有工房の設立
本工場における共有施設は通路関係を除くと基本的には会議室以外にはない.私自身は下記の記事にあるように新潟において匠の駅とよばれるものづくり総合支援施設の設立及び運営を実施していた.その経験もあり,本工場内の部屋の一室を共有で利用できる工房設備とすることで本工場がよりハードウェアやリアルテックベンチャー(以下 ベンチャー)にとって魅力的な施設及び仕組みになることを確信している.
特にこれから事業を立ち上げよう,成長させようとしているベンチャーにとって初期の設備導入というのは時間的・お金的に大きなハードルである.その部分を支援できる共有工房があればベンチャーにとって大きな魅力であり東京都における成長企業の誕生を大きく推進することができる.
現在私のほうで記事執筆時点において下記の提案書を作成し,関係者への働きかけを行っている.また入居企業のうち日本風洞製作所やメイカーズファクトリーといった企業が実施当事者として本計画に参画している.本計画は現在2020年12月時点での実現を目指している.
最後に
私自身は「欲しい者が欲しい物を生み出し試せる社会の実現」を目指して活動している.その点において本工場における仕組みや周辺の環境はとても素晴らしい環境である.そういった中で10年20年後または更にその先を見据えて自分にとって必要なこと,そしてそれが社会にとって「欲しい者が欲しい物を生み出し試せる社会の実現」できることを目指して日々活動していく.以上ここまで記事を読んで頂き感謝する.