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未知との遭遇?タイの大型音楽フェスで見た“ゆるさと熱狂”の正体
海外フェスの照明オペなんて夢のまた夢。そう思っていた僕が、タイの地に降り立った。
誘われたのは「Big Mountain Music Festival」、まるで遊園地のようなステージセットに衝撃を受けたのを今でも覚えています。日本とは違う大らかな雰囲気のなか、初対面同士でも音楽を通じて自然に打ち解けられる。さらに世界的DJが集うEDMフェスやビーチで味わうジャズまで、タイのフェスはとにかく多彩。辛さと甘さが極端な朝食や、謎の日本語看板が溢れる“箱”文化など、カルチャーショックだらけですが、その背景には「とりあえずやってみる」精神が根づいていました。技術力と遊び心が絶妙に混ざり合った“タイの野外フェス”は、想像を超えるエネルギーで僕の心をわしづかみにしてくれたのです。
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序章. タイのフェスと僕の出会い
先日、職場で海外経験の話題が出ました。そのとき、「そういえば、海外の音楽フェスに関わったことがあったな」と思い出し、今更ながら当時の仕事について振り返ってみたいと思います。
今から約6年前のことでした。勤めていた職場の照明デザイナーさんと雑談をしていたときに、ふと「タイのBig Mountain Music Festival、行ってみない?」と誘われたのがすべての始まりです。それまではまったく存在を知らなかった“タイの野外音楽フェス”という世界に、一気に好奇心がかき立てられました。
僕は日本で舞台や放送関係、そしてミュージアムの技術スタッフとして音響や照明のオペレーションを担当していました。しかし、海外の現場、それもタイの音楽フェスとなるとまったくイメージがわかず、正直なところ「どうなっちゃうんだろう……」という不安の方が大きかった記憶があります。そんななか、デザイナーさんが見せてくれた動画には、ド派手な照明がステージ脇に吊るされ、謎めいた観覧車ステージが登場し、会場の真ん中では数えきれないほどの若者たちが踊り狂うという摩訶不思議な光景が映し出されていました。まるでお祭りと遊園地が一体化したような雰囲気に圧倒され、「いつかこういう場所で照明オペレーションをしてみたいかも……」という甘い憧れが芽生えたのを、今でも鮮明に覚えています。
そしてその“いつか”は、意外にも早くやってきました。ありがたいことに、誘ってくれたデザイナーさんの照明チームのサブ・オペ(セカンドオペレーター)として、Big Mountain Music Festival(BMMF)に参加するチャンスをもらえたのです。最初は胸が高鳴ると同時に、「文化も言葉もまったく違う国で、本当にやっていけるんだろうか」と大きな不安が頭をもたげました。しかし、「とりあえずやってみよう!」というタイの人たちのポジティブな空気に後押しされるうちに、最後は“腹をくくってやるしかない”という心境になり、の少しばかりのボーナスという名のもと、ついにバンコク行きの飛行機に乗り込んだのです。
実際にBMMFの現場を体験してみると、そこには想像をはるかに超えるカルチャーショックがありました。日本のフェスとの違いや、そこから見えてきたタイ特有の自由で開放的な雰囲気。そして何より、タイにはBMMF以外にも規模も個性もさまざまな野外フェスが多数存在し、それぞれに独自の魅力があることを知るに至りました。これからは、僕がBMMFで目にした光景と、他のフェスで味わった驚きや楽しさ、そしてそれらを通して感じた“タイの野外フェス”の魅力を、僕なりの視点でじっくりとお話ししていこうと思います。
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1. 多彩すぎるフェスの種類
タイの音楽フェスとひと口に言っても、その幅の広さには本当に驚かされます。僕が照明セカンドオペとして参加したBig Mountain Music Festival(BMMF)は、いわゆるロックやポップを中心とした大型フェス。タイでは「タイで一番大きな音楽祭」とも呼ばれ、毎年12月頃にバンコク近郊の豊かな高原地帯で開催されています。カオヤイの山々に囲まれた会場は、日本で例えるなら富士急ハイランドがそのまま野外ライブ会場に変貌したような雰囲気。晴れわたる空の下、何万人もの観客が思い切り盛り上がる様子は圧巻の一言です。
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一方で、EDM系に目を向けると、S2Oソンクラーン・ミュージックフェスティバルや808 Festivalなど、世界的なDJが集結する大規模イベントが目白押し。水かけ祭りとEDMを融合したS2Oでは、巨大ウォーターガンからの水しぶきを浴びながらダンスするという独特のスタイルが人気を博しています。
ジャズファンには、ホアヒンのビーチで行われるHua Hin Jazz Festivalがおすすめ。真っ白な砂浜に打ち寄せる波音をバックに、一流ジャズミュージシャンの生演奏を楽しめるというのは、まさに大人の優雅な休日といった趣です。また、パタヤ近郊で開催されるWonderfruitのように、「音楽×アート×ウェルネス」を融合させた異色のフェスも存在します。ヨガや瞑想のワークショップまで体験できるというから驚きで、ある意味“ライフスタイルそのもの”を提案しているとも言えます。
最初は「タイの音楽フェス=BMMF」という先入観しかなかった僕ですが、実際に足を踏み入れてみると、この国には本当に多種多様なフェスが息づいているのだと痛感しました。そして何より、BMMF以外のフェスはまだ映像でしか見たことがないにもかかわらず、「またタイに行きたい」と思い続けていたら、気づけばあれからもう6年が経ってしまったのです。いつか再び、あの熱気と開放感を味わいに行きたい──そう強く願っています。
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2. 初めてのバンコクと衝撃の「箱」の多さ
BMMFに参加してまず感じたのは、日本特有のピリピリした雰囲気とはまったく違う空気感が漂っているということでした。そんな中、現地スタッフや照明デザイナーさんからこんな話を耳にしました。
「バンコクのライブハウスやクラブ(いわゆる“箱”)って、すごく充実してるんだよ。とりあえずやってみて、ちょっと失敗しても笑って許してくれるけど、本番になると一気にプロ並みのパフォーマンスを見せる。あの“ゆるさとプロ精神”の両立が、タイの魅力なんだよね」
その環境があるからこそ、オペレーターの技術レベルも自然と高くなるのだとか。僕自身、その“箱”を実際に訪れたわけではありませんが、この話を聞くだけでも、失敗しても周囲が笑顔で支えてくれて、それを糧にさらに成長していける──そんな光景が目に浮かんできます。
「若いうちから実戦経験を積める環境が整っていて、しかもみんなで応援し合いながらレベルを上げていく」。まさに、それこそが現地スタッフや先輩たちが口をそろえて言う、“タイの音楽シーンのエネルギー”なのだと、心からうらやましく思いました。
2. フェスの雰囲気と楽しみ方
いよいよBMMFの当日。会場は緑豊かな高原地帯に複数の大きなステージが並び、僕が担当する「EGG STAGE」は、名前だけ聞くとやや謎めいた雰囲気を漂わせていました。リハーサルの段階ですでに「ああ、これは一筋縄ではいかないぞ」と感じたものです。そしてEGG STAGEの造作、ラインLEDは卵の殻をイメージしたギザギザになっていました。
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そして本番が始まると、ステージ上からの眺めがまたすごい。定番ソングともなれば、観客は合唱状態で一気に盛り上がりますし、そこから背中を押されるようにみんな踊り出す。
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思わず笑ってしまったのは、チーフとセカンドオペレーターが同じ卓を“ノリ”で一緒に操作したり、チーフの知人が急きょオペレーションに加わってきたりする場面。タイでは「とりあえずノリで何とかなる!」という空気感があるんです。でも、だからといって演出のクオリティが低いわけでは決してありません。むしろプロとしての完成度を追求する熱意は全員が共有していて、その曖昧な境界線がとても新鮮でした。
さらに、このフェスは単なる音楽イベントというより、一大カルチャー祭典。会場にはフードやドリンクが充実し、特にタイならではの屋台料理はフェス飯の常識を超えるほどのクオリティです。タイのビールやジュースは安くて美味しく、一日中飽きることがありません。そんな屋台の中には、なぜか日本語が書かれた看板やメニューを見かけることもあり、よく見ると意味不明な文章だったりして思わずクスッとしてしまいます。どうやらタイでは日本語が“かっこいい文字”として捉えられているらしく、現地の人にとってはおしゃれな装飾のような感覚らしいのです。
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3. 山の中の「Ocean」で味わう二択の朝食──激辛か激甘か?
今回のフェスではスタッフやアーティストのために、朝食付きのホテルが用意されていました。ところが、そのホテルの名前が「Ocean」。山の中にあるのに「海」という名前という不思議なギャップに、最初は思わず笑ってしまったんです。
さらにそこで出される朝ごはんが、まるでタイ独特の“二択”状態。辛い料理か、甘い料理か、極端なメニューばかりだったんです。僕は初日に「ここはタイだから辛いのを食べねば!」と意気込んで選んでみたら、予想以上の刺激に思わずむせ返りそうになりました。
翌朝はリベンジとばかりに甘いメニューを頼んでみたら、今度は独特のとりあえずすごい甘み。まさに“極辛”か“激甘”の振り幅。どちらを選んでも驚くほど尖った朝食体験でしたが、そこに漂うのはいつでも“ゆるい”空気。山の中の「Ocean」という名前も含めて、タイらしい不思議な優しさと温かさを改めて感じたエピソードでした。
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4. フェスを彩るバンドやアーティストたち
タイの野外フェスを語るうえで欠かせないのが、やはりステージに立つアーティストです。BMMFのロック/ポップ系ステージにはBodyslamやGetsunova、Palmyといったタイを代表する人気バンドや歌手が登場し、深夜まで観客を魅了します。特にBodyslamの大合唱は名物ですね。僕が担当したステージでも、Telex Telexsというバンドが出演したとき、一気に観客が押し寄せてきて、そのエネルギーに圧倒されたことを覚えています。
台湾のNo Party For Cao Dongや日本のSuchmos、FIVE NEW OLDなど海外からの人気アーティストのパフォーマンスも圧巻でした。そしてタイ国内の実力派から、これからブレイクしそうな若手アーティストまで、さまざまな音楽が同じステージを彩るのもフェスの大きな魅力ですよね。一堂に会した名の知れたアーティストだけでなく、新しい才能との出会いがあるからこそ、フェスはまさに「音楽との出会いの場」だと実感しました。
まさに「音楽との出会いの場」という言葉がぴったりだと感じました。
5.タイのフェスを支える舞台裏
タイの野外フェスというと、つい“楽しさ”や“熱狂”ばかりに目が行きがちですが、その舞台裏では数多くのプロダクション会社が膨大な機材と高度な技術力で支えているんです。たとえばPM Centerは大型コンサートの舞台設備に豊富な実績があり、Vichai Tradingは一流音響機器のディストリビューターとして多くのフェスに機材を提供しています。また、国内最大手の音楽事務所傘下にあるGMM Liveは、イベント制作を自社で手掛けるなど、多方面で存在感を示しているんですよね。
ステージ自体がアート作品のように作り込まれるフェスもあって、そこでは地元のステージデザイン会社と海外の専門家チームが一緒に設計・施工を行い、短期間で大規模なセットを完成させてしまいます。
そして、ふと目をやると、ステージ脇にでかいゴジラのバルーンが鎮座していたり、近くにはUFOを模した風船が浮かんでいたりと、何とも言えない“ゆるさ”が同居しているんです。
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少し離れたところには観覧車がそびえ立つステージもあって、まるでテーマパークのような賑やかさ。
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それらの多彩なステージやオブジェが加わることで、訪れた人々をさらにワクワクさせる空間が完成します。巨大なLEDビジョンにはライブの映像やVJのダイナミックなCGが映し出されます。各所でドローンが飛び交っていました。
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こうしてフェスの裏側を眺めてみると、ハイスペックな機材や巧みなオペレーションで支えられた圧倒的なクオリティと、遊び心あふれるステージデザインや明るい雰囲気が見事に混ざり合い、いかにも“タイらしい”独特の世界が広がっているのを実感します。まさに最先端の技術とあたたかな人間味の融合――それが、タイの大型フェスを特別なものにしている理由なのだと思います。
僕が担当したEGG STAGEはインディーの音楽が主体となる少し小さめのステージで照明卓はGrandMA2でこちらはタイで主流のようです。
僕が担当した「EGG STAGE」は、インディーズ音楽を主体とする、やや小規模なステージでした。照明卓は、当時タイで主流だったGrandMA2を使用していました。
当時の図面(今見るとかなり解像度が荒いのですが)と記憶を頼りに照明機材を振り返ると、大まかには以下のような構成だったと思います。
ROBE BMFL SPOT ×4
Terbly G20HYBRID IP ×6
Cyclon 130rgbw ×32
LED PAR(メーカー不明)×35
PAR (メーカー不明)×16
ムービングライト (メーカー不明)×6
他にもあったような気がしますが、正確なところは思い出せません……。
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終章. 僕が感じたタイ・フェスの魅力とこれから
僕にとってのタイの野外フェスは、まさに「未知の世界」から始まりました。空港に着いた途端、言葉が通じないまま名前の書かれたボードを持った人に声をかけられ、よくわからないままバンに乗せられるという展開に──。真っ暗な道をひたすら走っているときは「こんな山奥に連れて行かれるのは、さすがにヤバいかも……」と内心ヒヤヒヤしました。でも結果的には無事にフェス会場近くの宿まで送ってもらえて、今ではすっかり笑い話です。あのときから、タイ特有の“ゆるいけど優しい”空気に包まれていたのかもしれません。
そしていざBig Mountain Music Festival(BMMF)に参加してみると、大らかな雰囲気でありながらも、プロ意識がしっかり根づいている現場に驚かされました。初対面同士でも音楽を通じてすぐ打ち解ける観客たち、失敗を許容しつつも高い完成度を追求するスタッフ。最近では世界的アーティストが続々と訪れるなど、まさしくアジア屈指の音楽フェス大国と言ってもいいでしょう。
僕自身、セカンドオペレーターとしてあのステージに携わった経験がきっかけで「もっと海外の現場を知りたい」という思いが一段と強くなりました。バンコクには数え切れないほどのライブハウスがあり、パタヤやホアヒン、カオヤイなど地方にも大小さまざまなフェスがある。なかでもWonderfruitのように、寝転びながら星空とアートに浸れるフェスも存在するんです。その多彩さと自由度こそ、タイの野外音楽フェスの真骨頂だと痛感しました。
そして今でも、「また近いうちに、あの山奥の高原地帯か、あるいはパタヤの海辺か、とにかくどこかのタイのフェス会場で照明コンソールを握りたい!」という想いが募るばかりです。「とりあえずやってみる、失敗したら笑って許す。でも音と光で最高の瞬間を作る」そんなスピリットをもう一度、体ごと味わいたいんですよね。もしあなたがタイのフェスに足を運ぶ機会があれば、僕と同じような驚きと喜びに出会えるはず。ぜひ現地で、国境を越えた音楽のエネルギーを堪能してみてください。