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エモいとは何か? :エモさの構造メモ
1. エモい=感覚ではなく、会話の構造
「エモい」という言葉は写真、音楽、映画、SNSなど、さまざまなシーンで用いられます。人によっては「懐かしさ」を覚えるし、別の人にとっては「切なさ」を呼び起こすかもしれません。一方で、誰かは「まったくピンと来ない」と感じることもあるでしょう。つまり、“エモい”という感覚には、実は人それぞれの情緒や記憶が大きく影響しているのです。
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たとえば、ある夕暮れの写真を見て「この雰囲気、エモいわ〜」と思う人もいれば、「特に何も感じない」という人もいるかもしれません。それは、その写真に対して自分の過去の記憶や感情を重ね合わせているかどうかの違いが大きいのです。だからこそ、“エモい”とは、単にモノ自体が持つ性質というよりも、それをきっかけに“誰かと話したい・共有したい”という会話の構造で成り立っているといえます。
2. エモい写真やアートは、"それについて話したくなる"ことが本質
「エモい写真」というと、フィルムカメラ特有のぼんやりとした風合いや、どこか懐かしさを覚えるような光景を思い浮かべるかもしれません。この“懐かしさ”には、実は共通認識のようでいて実態があいまいな“バーチャルな懐かしさ”が含まれています。レトロな色彩やセピア色の写真、夕暮れのオレンジ色は、どこかで共有されている“昔っぽさ”のイメージを刺激し、人によっては強い郷愁を感じます。
しかし、こうした懐かしさや情緒は、必ずしも全員が同じように共感するわけではありません。友人が「エモい!」と絶賛していても、自分は「まあキレイだけど、それほど…」としか思えない場合もある。でも、それが「何も感じない」わけでもないのが面白いところ。曖昧な空気感や微妙な温度差があることで、人は自然と「それってどういう風にエモいの?」と話題にしたくなるのです。
結局、“エモさ”とは、人それぞれの情緒や記憶、そして“この感覚を誰かとシェアしたい”という気持ちが組み合わさることで成立します。物体や風景そのものにエモい属性が宿るのではなく、人間同士の「語りたくなる空気感」こそがエモさの本質なのです。
3. エモさは"再帰的な体験"である
エモいものに触れた瞬間、人はしばしば過去の記憶を無意識に呼び起こします。そして、その記憶を誰かと共有するとき、もう一度その感情が蘇り、新たな体験として上書きされるのです。これがエモさの“再帰的(recursive)な構造”といえます。
例えば、学生の頃によく聴いていた曲に再会し、「この曲、めっちゃエモい!」と思わず口にしたとしましょう。すると、自分自身があの頃抱いていた悩みや喜び、友達との思い出が一気に甦る。その上で、誰かが「私もその曲好きだった!」と言ってくれたら、さらに会話が盛り上がり、当時の感情をいっそう強く追体験することになります。
アーティストやクリエイターが「エモい作品を作るにはどうすればいいのか?」とディスカッションするのも、同じ構造です。「これはエモい」「いや、あれはもっとエモい」と言い合うたび、体験や想像力が互いに刺激され、再帰的に“エモさ”が増幅していくのです。
4. エモさをデザインする方法
1. 個人的な記憶を刺激する要素を入れる
見た人や聞いた人にとって“懐かしい”と感じるトリガーを上手に使うと、エモさが引き出されやすくなります。たとえば、古い町並み、フィルムの粒子感、夕暮れの独特なグラデーションなど。こうしたビジュアルや音の情報が、「これ、なんかあの頃を思い出すな…」と情緒を誘発するのです。
2. 曖昧な空気感を残す
情報量を詰め込みすぎると、受け手がそこに自分の体験を重ねにくくなります。むしろ、少し抽象的だったり、ぼんやりとした余白があるほうが「これって自分なりにこう解釈できるかも?」と想像力を働かせやすくなるわけです。この曖昧さが、結果として「私が感じるエモさ」と「あなたが感じるエモさ」の微妙な差異を生み出し、会話を生むきっかけになります。
3. 「これエモいよね?」と言いたくなる仕掛けを作る
一番大切なのは、作品や写真を見た人が思わず「ねえ、これさ…」と話しかけたくなるポイントを設計することです。キャプションを短めにして余韻を残す、人物の表情を意図的に曖昧にする、ストーリーの核心をわざとぼかす……そうした小さな工夫が、受け手の側で勝手に“物語”を作る余地を生み出し、“エモい”と評価される確率を高めてくれます。
5. エモい=アートの構造
アーティストやキュレーターが「アートって何だろう?」と語り合うとき、その議論自体が新たなアートを生むように、“エモいとは何だろう?”と語る行為そのものが、エモいものをさらにエモくしていきます。
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実際、エモい写真や音楽、映像作品は、“感覚的だけどどこか懐かしくて、現実と過去の記憶が混ざり合うような不思議な感情”を想起させることが多いもの。そこに「語りたい」「共有したい」と思う余地があればあるほど、エモさは再帰的に深まっていくのです。
6. ストーリーで語れば“読む苦痛”が消える
エモさを伝えるとき、ただ情報を並べるだけではちょっと味気ないですよね。「エモい写真って何?」と説明するときに、特徴を箇条書きにするだけだと、「ふーん、そういうものか」と頭では理解できても、心に響く感じがしません。でも、そこにストーリーが加わるとどうでしょう? 読んだ人が自分の思い出や感情と結びつけて、「わかる!」と感じやすくなるんです。
たとえば、先ほどのフィルム写真の話を使って「なぜエモさを感じるのか?」を説明する際に、実際にあったエピソードや制作者の思いを盛り込むと、一気に臨場感が増して読みやすくなります。
例:「昔、祖父母の家に行くといつも見せられたアルバムの色あせた写真。あの頃は、ただの“古い写真”にしか見えなかった。それが今、フィルムカメラの味わいと呼ばれるものだと知ったとき、なぜか胸がキュッとなった」
このようにストーリーで語ると、ノウハウだけを箇条書きにするよりも、読み手の感情や想像力を引き込みやすいのです。エモいものの背景にある“製作者の想い”や“裏側の感情”までも描くと、読む側は「もっと知りたい」と思うし、そこに対する共感や興味が高まります。
まとめ:エモい=感覚と会話が織りなす構造
エモいものは、それについて語ることでエモくなる(エモさの再生産)
エモさは文脈とコミュニケーションによって決まる(固定されたエモさは存在しない)
エモい体験は再帰的(recursive)に生み出される(もう一度その感覚を経験し直す)
エモさの本質は、“エモいもの”そのものではなく、それが“エモい”と共有される場にある
物語を盛り込んだ文章によって“エモさ”はより際立つ
「エモい写真を撮りたい」「エモい作品を作りたい」「エモさを演出した文章を書きたい」というとき、重要なのは、作品の完成度だけではなく、受け手がどんな会話をしたくなるか、どんなストーリーを想像するかを意識すること。そこにこそ“エモさの鍵”が潜んでいます。
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エモいものは感覚的で曖昧なものですが、だからこそ人は共有しようとして会話を広げます。その行為自体が新たな体験や共感を生み、結果としてより強い“エモさ”を育てていくのです。
あなたにとって“エモい瞬間”はどんなとき?
最後に、あなたご自身に問いかけてみてください。
どんな写真を見ると「エモいなぁ」と思いますか?
どの音楽を聴くと、思わず懐かしくて胸が締め付けられますか?
もしよかったら、ぜひコメントやSNSでシェアしてください。あなたの“エモい瞬間”を知ることで、また誰かのエモさが広がっていくかもしれません。まさにそれが、エモさの“会話による再生産”なのです。