リクトとリリコの結婚。
「こ……これはいったいどういうことなんだ?」
リクトは思った。
今日は、彼女のリリコとの結婚の挨拶に来たのだった。
にこやかに、リビングへ通してくれたご両親。
しかし、名乗ったとたん、リビングは阿鼻叫喚の場と化した。
「不吉じゃあ! 怨霊が降臨する! ナンマンダブ、ナンマンダブ。」
と、おばあちゃんが叫べば、
「盛り塩がいくつあっても足らん! この結婚はなしじゃあ!」
と、おじいちゃんもヒートアップする。
渋い顔をしたお父さんが言う。
「なあ、リクトくん。このあたりでは、合わせ鏡は最大の禁忌なんだよ。」
は? 合わせ鏡? 今日は結婚の申し込みに……。あ、そうか!
「怨霊が降臨して、その家を不幸のどん底に落とすと言われている。可我見リクトくん。我が泡瀬家と結婚するということは……。アワセ、カガミ、となってしまうだろう? だからこの結婚は諦めて……。」
もちろん、リクトは納得できない。
「でも、結婚すればリリコさんは可我見リリコになります。アワセカガミは関係ないかと。」
すると、これまで黙っていたおかあさんが言いだす。
「結婚式が問題なんですよ。泡瀬家、可我見家と名前が並ぶじゃないですか。娘の結婚式が、今世紀いちばんの不吉な日となるわ。そんなの、そんなのはイヤー!」
「どれだけの盛り塩が必要になるかわからんー!」
おじいちゃんが、また叫ぶ。
「うう、困ったな……。」
どうしたらいいんだ。リクトは考えに考えた。
「ケーキ入刀です。皆様、カメラをお持ちになって前にいらしてくだい。」
結婚式場の司会の人が案内する。
「キャー! リリコ、きっれー!」
「リクトさんもカッコいい! お似合いのカップルね!」
にっこり微笑む、リクトとリリコ。
ケーキの周りには、5センチくらいの白い三角錐が、たくさん並んでいる。
「その三角錐って、今日の式のテーマなの? なんか、かわいいー!」
「泡瀬家、可我見家ってところには、ずいぶん大きいのがあったよねー。」
リリコが言う。
「え、ええ。風水でね、今日は白い三角錐がいちばんラッキーなんだって!」
「へえー。わたしのときも風水、調べようかなー。」
友だちは、キャイキャイ言いながら写真を撮っていった。
「三角錐、みんなにかわいいっていってもらえてよかった。みんなリクトのおかげ♡」
「いやあ、だって、リリコと結婚したかったんだもん♡」
親族席を見ると、泡瀬家、可我見家の人たちが、仲良く談笑をしていた。
リクトは、そっと胸元に手をやった。
「よかったよ……。盛り塩ペンダントを思いついて。これからも、両家が会うときはこれをしてればいいもんな。」
そう、白い三角錐は、ガラスの中に塩が入った、盛り塩だったのだ。親族全員に、2つセットの盛り塩ペンダントを配った。おじいちゃん、おばあちゃんはちょっと大きめのペンダントだ。
リクトは、泡瀬家が言う通り、盛り塩をすることにしたのだ。ただ、ふつうの盛り塩では嫌だと、リリコが泣き叫ぶ。
そこで、大学時代の友人で、ガラス工房を開いている友だちに、おしゃれな盛り塩三角錐づくりを頼んだのである。
ケーキの周りや二人の席、各テーブルに至るまで、あらゆるところに盛り塩三角錐がある。
「リリコは幸せものだねえ。ここまで、邪気を払ってもらえるなんて。」
おかあさんが、ふと涙ぐむ。
「予算をかなりオーバーしちゃったけど、盛り塩三角錐はまた使うから、まいっか。」
と、リクトは思った。
今後の冠婚葬祭に、泡瀬家と可我見家が会うとき、きっとこの盛り塩三角錐は両家をつなぐ、大事なアイテムになることだろう。
よろしくお願いします!