れなママVSさくらこママの学歴バトルの結末と「ちよちよ小こどもまつり」
前回は、こちら、そのつづき。目標・終わること!
さくらこママ、切り札って何なの? それならわたしも奥の手を~……。
「ママ? どうしたのママ?」
「あ、れな……。ここは……。」
保健室のベッドだ。れなママはしばらく、ここで寝ていたらしい。
「たおれちゃったんだよう。かねちのわる口いったって、ママたちににらまれて。れながきょうしつに行ったら、さくらこちゃんママが、なんだか、じゃあくなオーラ出してて。」
ママがうつむく。
「それで、学歴きっかけの大ゲンカになったということね……。」
「ううん。じゃあくなオーラにふれたら、ママ、アワふいてたおれちゃったの。」
つまり、夢オチである。少女マンガあるある。すべてはママの夢だった、ということ。
困ったときは、これだ。
れな親子の様子に戻ろう。
「ママー、はやく『ちよちよこどもまつり』にもどろうよー。もうすぐちよちよおにごっこのじかんなの! あれ、だいすきなんだー。」
校庭に小走りで向かう二人。「ちよちよこどもまつり」と書かれた横断幕がある。女子高生が書くような字で書かれている。
よかった。昭和っぽくない。毛筆とかで書かれた明治っぽい横断幕だったら、やっぱり千代田区ね……と、がっかりするだろうな、と思っていたのだ。女子高生封の字。
「令和っぽいわ―。」
と、れなママがつぶやく。
「ここは、千代田区で唯一、『のびのび子育て』を掲げてつくられた新設校。ああ、この学校ができて、本当によかった。」
千代田区でも、のびのび育てたい! と考える一部の千代田区在住父母が、国会議事堂前でデモまでして、創立にこぎつけた学校だ。聞くところによると、どこかの親が政治家を動かしたとか、理念に共感した大地主が、庭をぽんと寄付したとか、千代田区らしいうわさがたくさんある。
「あ、ちよちよおにごっこの時間よ! 見にに行きましょ!」
2年1組のみんなは校庭の一番奥で、キャアキャア言いながら鬼ごっこをしていた。すみっこにいるのは、担任の先生だわ。たしか……。
さくらこママ「リンカン田中先生ー! 今日もジャニーズJr.顔ですねえー!」
担任の先生「そ、その呼び方はやめてくださいっ!」
リンカン田中? ああそうだ。新卒、22歳の先生だったわ。
リンカーンが「リンカン」と書かれた教科書を使った、初代の高校生だったとか……。
れなママは、くすっと笑う。
担任の先生「はいはい、そのとおりですよ。リンカン大統領、ローズベルト大統領。コロンブスなんて、コロンです。そんなことより!」
さくらこママ「そんなことより?」
担任の先生「ちよちよ鬼ごっこを見てくださいよ。お、ともき! いまはお前がカイセイか? がんばって他の子、つかまえろー! はっはっはっ!」
れなママ「カイセイ? なんです? そのオニの呼び方は……。」
リンカン田中先生は、よくぞ聞いてくれました! という顔をしている。
「うちのクラスの、マイルールなんですよー。ちよちよ小は、ひとりも中学受験をしない、新しい小学校じゃないですか。いま、都内にひとりも受験しない小学校なんて、うちだけですよ。 しかも千代田区の学校。こりゃ痛快だ! はっはっはー!」
一人でしゃべり、一人で笑っている、リンカン先生。
そう、学校づくりの途中に、「名門!麹町中→日比谷→東大コースを守る会」のおじいちゃんのひとりが、学校評議委員になってしまったのだ。
「入学書類を出すとき、『我が家は、中学受験いたしません』っていう念書を取られたなあ」
れなママがしみじみ、振り返る。
あ、そうだ! リンカン先生に聞かないと!
「なんで鬼ごっこのオニを、カイセイと呼ぶんです? もしや……、」
リンカン先生「そう! 中学受験は、いつどこで子どもたちを誘惑するか、わかりません。だから、今から逆に、教えておこうと。女子がオニになったら? もちろん、オーインです。いや、何の恨みもないんですよー。ふっふっふっ。」
「怪しい。たぶん、やったな。中学受験。で、サクラ、散ったな。」
向こうの木の下で、「だるまさんがころんだ」をはじめた子たちがいる。
リンカン先生「あ、りこやゆなたちが、『ツクコマがすべった』」をはじめましたよ。よしがんばれ~。ゆながオーインか~。
はい!『ツ、ク、コ、マ、が~、すべった~!』
あ~、めいと、りりかが動いちゃったかー。はっはっはー。」
リンカン先生は、おおはしゃぎだ。
さくらこママ「きっと、筑駒、滑ったのね。リンカン先生……。」
れなママも、うんうんと力強くうなづいた。
しばらくして、鬼ごっこチームがざわめきはじめた。
誰かが、
「ねえ! 今度は、あのおにごっこしよ!」
と、言い出したのだ。
「あれは、れなね。ふふ、仕切りが好きねー。」
すると、
すぐ横から、悲痛な叫びが聞こえてきた。
「れな……! いや白川……。それは……。その鬼ごっこだけは、だめだ……。」
ひざから崩れ落ちる、リンカン先生。
何? 子どもがやっちゃいけない鬼ごっこなんてあるの?
「リンカン先生連れて、近くに行ってみよ!」
すっかり忘れていたさくらこママと一緒に、リンカン先生の両脇を肩で担いで、近くに行ってみた。
れな「あ~! れおくんもカイセイになったの? ゆきなちゃん、もうオーイン? はっはっはー! わたし? 最初から、オーインだよー。ばあ!」
れなママ「この鬼ごっこは……。」
リンカン先生「……ふえ、おに。ふえオニ。増えオニ……。」
絞り出すような声で、リンカン先生が言った。
れなママ「くっくっく。つかまった子がみんな鬼になるなら、そりゃあカイセイとオーインばかりになるわけね。リンカン先生、もうこういう呼び方、やめてくださいねー。」
そのときだ。だいごくんが、こんなことを言いだした。
「おい、さいごのヒビヤは、どこだ? あとひとり、いるはずだぞ。だれだあ?」
はあ? ヒビヤ?
れなママとさくらこママが、顔を見合わせる。
大量のカイセイ、オーインが、たったひとりのヒビヤを探している。
シュールな展開と言えるが……。。
さくらこママ「もうー。リンカン先生! カイセイ、オーインだけならまだしも、逃げる方がヒビヤって……。ヒビヤいじめみたいに見えますよ。先生のたくらみ逆効果です。千代田区の毒にやられていますね……。」
そこに、不安げな顔で隠れる、女の子を見つけた。リンカン先生が言う。
「あ! しまこ! お前、ヒビヤなんだな? 頑張れ! 逃げろ!」
叫ぶリンカン先生に気づいたのは、れなだった。
親も子どもも、ドン引きだ、
隠れている子に叫ぶなんて、なんて、迷惑な先生だろう。
れなと一緒に、ふたりのカイセイ、いや、しゅうとくんと、きゅうじくんが来る。
れな「リンカンせんせい~。ふえおにで、ヒビヤがさいごの一人だけになったら、どうなるか、しってるよねえ~?」
リンカン先生「うん……。ヒビヤは、秒殺だね。」
パチン! と、れなが、指を鳴らす。しゅうとくんときゅうじくんが走り出す。わざとつかまえないでいた最後のヒビヤ、しまこちゃんをつかまえた。
ああ~! と倒れ込むリンカン先生。他の先生たちが、リンカン先生を校長室に引きずりこんでいるのが見える。
れなママ「やっぱり、れなは大物だわ……。」
こんな鬼ごっこも、みんなすぐ忘れるだろう。
だって、みんなはまだ、小学2年生なのだから。
あとがき:長い! いろいろ詰め込みすぎ! オチが弱い! 反省!