ちよちよ小の2年1組に新しい先生がやってきた!三ぎょう作文はたのしいな
朝から、千代田区立ちよちよ小の2年1組は、そわそわしていた。
「ちよちよ小こどもまつり」で、身も心もズタボロになったリンカン先生が、全治1か月。今日から、臨時の担任の先生が来るというのだ。
ガラガラ。
教室に、 30代前半くらいの男の先生が入ってきた。
パッと静かになる、2年1組。
「かお、3・5てん。おおいずみ・ようを、レンジでチンしたかんじ。しんちょう、173センチくらい? 5てん。ふつう。せいかくは、どうかしら。」
無意識に、教師を値踏みする、れな。大物だ。しかし、意地悪ではない。
「どんな人でも、いいところを見つけよう」
小1の道徳で習った、ちよちよ小の精神は、しっかり身に付けている。
「やあ! 田中先生のかわりに来た、ノリユキ先生だよ。薬剤師と、ファイナンシャルプランナーと、エッセイを書く人をやってて、最近は、ラジオでもやっているよ。」
そんなにいろいろやっているの? クラス全員が、そう思った。
「もしかしたら、久々に見る、大物かもしれない……。」
と、れなは、ノリユキ先生をまじまじと観察する。
「1時間目は、国語だよ。よし、号車ごとに、リレーエッセイを書こう!」
説明しよう。
「号車」とは、子どもたちの机の列のことだ。廊下側から、1号車、2号車……6号車まである。プリントを配るとき、避難訓練で列になるとき、いつも基本の小集団として呼ばれるのが、号車である。
ノリユキ先生「三行作文でリレーエッセイごっこだ! 前の人が書いた作文に書いてあることをテーマにして、次の人が作文を書くよ! せたがや作文教室っていう有名なお教室で、みんな、最初に書く作文なんだ!」
ノリユキ先生が、黒板に三行作文の説明を書く。
1ぎょう目。○○がすきです。
2ぎょう目。なぜかというと、□□だからです。
3ぎょう目。1ぎょう目、2ぎょう目にかんけいすることなら、なんでもいい。おもったこと、かんがえたこと、かんそう、いけん。
どれでもいいから、1ぎょう、かく。
ノリユキ先生「ほらー。簡単でしょー?」
そして、ノリユキ先生がお手本を書き始めた。
「プールのすいしつけんさがすきです。なぜかというと、みんなのけんこうのためのおしごとだからです。
夏休みには、みんなに、サンバを踊りながら水しつけんさをするところを、見せたいです。」
「サンバって、なにー?」
「ホントだ! 三ぎょうなら、かんたんにかける!」
「作文をどうやってリレーするの? かいたら、はしるの?」
子どもたちが口々に言う。まず一番前の席の子が、書くことになった。
しかし……。1つの号車に6人の机が並んでいるのだ。みんな、書きたくてうずうずしている。
れな「わたし、かいちゃお!」
その一言をきっかけに、わーっとみんなが、書き始めた。
ノリユキ先生「前の人の作文にある言葉を、リレーするんだけど……。」
でも、まいっか、とノリユキ先生は思った。なんといっても、小学2年生。キャイキャイ言いながらも、みんなが楽しそうに三行作文を書いている。それで、いいのだ。うん。
子どもたちが、完成した作文をノリユキ先生の机にどんどん置いていく。少しずつ読んで、花丸をつける。
「大物がすきです。なぜかというと、わたしには大物のさいのうがあるからです。大人になったら、りくとくんとけっこんして、大物なおよめさんになって、大物なおしごとをしたいです。れな」
「やきゅうがすきです。なぜかというと、すずきせいやみたいになりたいからです。ほんとは大たにがすきだけど、にしょうがくしゃたんだいをそつぎょうしたママが、せいやにしなさいというので、そうしようとおもいます。きゅうじ」
ノリユキ先生「みんなー。作文の才能があるなあー。将来、立派なリレーエッセイストになれるぞー。」
ノリユキ先生は、ニコニコしながら、みんなの作品に花丸をつけていった。リレーエッセイとは何か、そして、自分にそれを教えてくれた、「リレーエッセイのイトーさん」について語りながら。
最後の作文は、ずいぶん小さい字で書いてある。
なんだろう? ノリユキ先生は眼鏡をかけて読んでみた。すると……こんなことが書かれていた。
「リンカン先生がすきです。なぜかというと、すべってばかりいるけど、1ねんせいのとき、ずっとかけなかった『む』という字を、一しょうけんめいおしえてくれたからです。リンカン先生はだいじょうぶなのか、しんぱいです。ちな」
はっとする、ノリユキ先生。
「そうだな。ここは、リンカン先生のクラスだった……。」
こういうのには、弱いんだよなオレは。教員免許は持っているけど、ふだんは、保健室の先生なんだよな。しかも医者じゃなくて、薬剤師。そういう仕組みがあるって、みんな知らないだろうなあ。担任って……いいなあ。
ちなの作文に、胸が熱くなったノリユキ先生の目から、涙がひとつぶ、こぼれ落ちた。
そのときである。
れな「てってれー♪」
ちな「ドッキリ、だーいせーいこーう!」
クラスのみんなが爆笑する。
さくらこ「りんじの先生に、『リンカン先生がしんぱい』って、しんみり作文を書いたら、どうなるか? ノリユキ先生は『なく?』『なかない?』。けっかは『なく』でしたー!」
だいご「『なかない』に、かけたやつ、きょうのきゅうしょくのカレーシチューのにく、ぬきな!」
えいと「かったほうは、にく、2ばい! 『なく』にかけて、よかった!」
何だ? 何がおきている? 給食の肉を、賭けた? どういうことだ?
れな「ノリユキ先生、ごめんなさい。先生はとってもおもしろいよ! リンカン先生の100ばい、じゅぎょうも上手!」
りこ「1か月、ノリユキ先生がたんにんになるから、なかよくなるために、みんなでかんがえたのー。」
ゆな「だから、ドッキリしかけて、いい人かどうか、ためしちゃったー。ごめんね♡」
ちな「「む』は、3さいのときから、ちょーとくいなんだからー。はははー!」
ノリユキ先生「え? じゃあ給食の肉を賭けたというのは?」
れな「ああー、それは、ノリで。ふふふ。」
聞いてはいたが……。おもしろい子どもたちじゃあないか。頑張ろう!
ノリユキ先生が、教育への熱い想いで胸がいっぱいになっていたとき、またガラガラ! と、教室の戸が開く音がした。
「え? まさか?」
「リンカン先生?」
「このタイミングで?」
「そんな展開なら、もう、マンガじゃね?」
クラス全員が、扉の方を見た。そこには……。
でっぷり太った、校長先生がいた。
「えーリンカン先生は『新しい先生に2年1組が取られる』とか言い出し~。驚異的な回復力を発揮して、明日から学校に来るそうです~。」
「え~! せっかく、ノリユキ先生となかよくなったのに~?」
「もっと寝てたら? ぜんち一か月じゃなかったの~?」
「ノリユキ先生のほうが、じゅぎょうじょうずなのにねー。」
ぶつくさ言いながらも、なんだかみんな、うれしそうだ。
みんなに聞こえない声で、ちなが、言う。
ちな「よかったあ。1日でなおったなんて、すごいな、リンカン先生。1かげ月もリンカン先生がいないのは、イヤだなっておもってたの。ごめんね、ノリユキ先生。たまには、ほけんしつに、あいにいくね。ふふ!」
ノリユキ先生「この子の作文は、ドッキリのためじゃなかった。そして、2年1組に、保健室のわたしを知っている子がいるとは……。くくく。」
ノリユキ先生の胸に、また熱いものがこみあげてくる。もともと、熱くて優しい先生なのである。
すると、校長先生のスマホが鳴った。電話の相手は、リンカン先生だ。
「ぼくの~、教え子たちに~、早く~、会いたくて~。もう校門に着きますんで~。からだの状態? 今、病院で点滴打ってきたんで~、元気爽快ですよ~! ち~よち~よしょう~♪」
スマホの向こうで、ぐすぐす泣きながら話す、リンカン先生の声が、かすかにみんなに聞こえてきた。
さくら「リンカン先生が、こうかをうたってる!」
ゆうと「これは、なにがあっても、いしをつらぬくときの、リンカン先生だ!」
わあ! と盛り上がる2年1組。
「ぜんち1か月って、1日でなおるものなのー? ちょーじーん!」
「せんせい、すごーい! ちょーじんって、なにー?」
「むりしてない? べつにわたしたち、とられないしー。」
すみっこで、ちながこっそり、ハンカチでなみだをふいている。
「あれ?」
と、れなが気づいた。ノリユキ先生がいない。あ、うしろの黒板に何か書いてある。
「水しつけんさで あいましょう。 ノリユキ先生」
クラスの話題は、すっかりリンカン先生に移っている。教室に来たら、どんなドッキリを仕かけようかと、クラスで作戦会議だ。一応、死なないように手加減しなきゃねとみんな、言っている。
会議から離れて、れなは思った。
「ノリユキ先生は。リレーエッセイというのをおしえてくれた。イトーという男の人がすごいって、あこがれてるってことも。きょうは、リンカン先生からはまなべないこと、まなべたなあー。」
そして、れなは思いつく。
「リレーエッセイのイトーさん」を、エッセイでたおしたら……。
「また一歩、大物に近づけるわね。」
ニヤリと笑った。リレーエッセイは、 闘いではないのだが。
れなが、こっそり自分の作文に何か書いた。
「三ぎょう作文、おもしろかったです。おとなになったら、イトーさんって人を、こてんぱんにするエッセイを、わたしかくね。ありがとう。なつのサンバの水しつけんさ、たのしみだよ。れな」
そして、ぼーっと立っていた校長先生に、
「これぜんぶ、保健室に持ってってくださーい!」
作文用紙の束を渡した。保健室の「薬剤師先生」だと、ちゃあんと知っていたのだ。
れな「作文読んだら、ノリユキ先生、水しつけんさに向けて、すごい準備を始めちゃうかな? ハンドメイドもとくいみたいだし。」
サンバの衣装がすごいとことを、れなは知っている。なぜかというと、ばあばが浅草で踊っているからだ。
「くくく! 夏休みの楽しみがまたひとつ、できた! 大物っぽいけど~うーん、大物認定は、サンバ次第かなー。」
数時間とはいえ、2年1組の担任になった先生だ。夏のプールで、みんな驚くだろうな。ノリユキ先生にまた会えて、喜ぶだろうな。
そう思いながら、れなは、いつもより大きくとくべつな器を、お道具箱の中から出した。給食の時間には、いつもの2倍の肉が入った、カレーシチューが待っている。
「ふふふ! ちよちよ小は、たのしいことばっかり!」
サンバの夏は、もうすぐだ。
あとがき:悩んだときは、最初におもいついたこと!これはオチも、タイトルも、けっこう、そんなもの。いつもの野生のカンで決めちゃった!
このお話は、いつもなかよく(?)させていただいている、
ノリユキ@薬剤師兼ファイナンシャルプランナーさんの、以下の実話を読んで、思いついたもの。薬剤師さんが学校で、人知れず活躍しているなんてー! 皆さんも読んでくださいねー。
ちなみに、れなちゃんシリーズ、けっこうたまってきたんで順番に並べます。まだまだキャラ設定とか、とんでもないオチはまだないとか、課題はあるのだけど……。楽しく書いてまーす!
https://note.com/m_takashimizu/n/n479f07e718a4
こちらは、ちょっとあざとかったか……。ちょっとした、お遊び。
https://note.com/m_takashimizu/n/nc2348c64137b
https://note.com/m_takashimizu/n/n2ed0737c44c2
実際位ある学校名出して、学歴ネタはいかんなーと、軌道修正。
そして、今日につながると。
あざといネタ入れて、もう、れな6かー。
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