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白いワンピの女の子~「逃走中。」のミッション

「せっかく、ミッションに参加したのに、こんなひっかけがあるなんて……。」

「逃走中。も、いきなりレベル上ったなあー。」

 
 
そう、ここは人気番組「逃走中。」の撮影現場。
ミッションに、勇気を出して参加した芸能人や有名人は、レバーの前に来て、頭を抱えてしまったのだ。
 

ミッション:「白いワンピの女の子」の横にあるレバーを引け。時間内に引かないと、ハンターが100体放出される


 
 
お笑い芸人と、アイドル女子、そして、国語の大家である某教授がやってきたのだが、レバーは4つある。
 
 
1つめのレバーの横には、白いワンピを着た女の子がいた。普通は、これが正解だと思うだろう。
 
「しかし、他の3つをよくみてくれ。」
 
眉間にしわを寄せながら、国語の大家が言う。
 
2つ目には、体中が白く塗っていある女の子が、柄物のワンピを着ているのだ。
 

「白い、ワンピの女の子ってことか……。うまい!」


 
お笑い芸人が、言う。

「何がうまいのよ! つまんないのよあんたは!」


アイドル女子に言われて、シュンとなるお笑い芸人。
 

「さよう。これも、白いワンピの女の子だ。」


 
国語の大家が言う。
 
3つめは、白いワンピを着たお母さんと一緒にいる子どもの横のレバーだ。
 

「くうー。白いワンピの女の、子かあ。確かに、そうとも読めるな。」


 
お笑い芸人が言う。

 
そして4つめ。
白いワンピで組み立てられた、女の子の人形がある。
 

「白いワンピの、女の子かあ。これは……、なくない?」


 
アイドル女子が言う。
「そうだよな。ちょっとひねりすぎだよな。」
 
 
「うむ。」
と国語の大家も言う。
 
ということで、候補は三つに絞られた。
ハンター放出まで、あと3分しかない。 

「むむ。これまでこんなミッションはなかった。これはわたしへの挑戦ということか!」


 
国語の大家が、つぶやく。
 
お笑い芸人とアイドル女子は、国語の大家が何を選ぶか、託そうと決めた。
 
「先生……。お願いします。」
「とんちは、関係ないですよね。」

お笑い芸人が言う。
 

「むむむうー。ぐうー。」


 
残り時間はあと1分。ああ、どうなるのか⁉
 
 
 
 

「誰だよ! あんなやつアサインした奴は!」


テレビの編成局では、大騒ぎになっていた。
 
「ちょっと……、笑いを誘おうと思っただけなんですが……。」
ディレクターが言う。
 
「最初のミッションなんだぞ! 100人もハンターが放出されたら、全滅じゃないか!」
 
そわそわしながら、編成局長が言う。
 
「あんなに悩むとは思わなかったんですよ~。芸人あたりが、フツーに読めばいいやろ! と頭を小突いて、レバーを引いて、と思って……。」
 
困っている。編成局も、国語の大家も。ああ、あと30秒だ……。
画面を見守る、編成局の面々。
 


 
そこに、小学1年生の有名子役が走ってきた。

「時間がないよ! こんな簡単な問題、なんでレバーを引かないの?」


 
と叫びながら、1つめの、「白いワンピを着た女の子」の横にあるレバーをガッと引いた。

 

ゴゴ、ゴ、ゴ。ガタン。


 
ハンター100人が乗ったコンテナは、放出される前に無事、止まった。
 
「やったー! 止まった!」
「ミッションクリアだ―!」

国語の大家を除いたみんなが、大喜びする。

 

「き、君、なんでわかったんだ。白い、ワンピを着た、女の子、とかいろいろ読むことができるのだが……。」


 
子役は、はあ? という顔で国語の大家を見る。
 

「だって、句読点がないじゃん。」


 

「え?」


 
崩れ落ちる、国語の大家。
 

「白いワンピースを着た、女の、子、とか書いてないじゃん。なら一気に普通に読めば、あのお姉さんの横のレバーでしょ。」


 
子役が、当然でしょ? とでも言いそうな顔で言う。
 

「おじさん、考え過ぎなんじゃない? くすくす。」


 
と笑いながら、子役は走っていってしまった。
 
 
そのときである。
 

「ハンターだーー!」


――見つかった。
散り散りに逃げる、お笑い芸人とアイドル女子。
国語の大家は、あっという間につかまってしまった。
 
アイドル女子が言う。

「考えてみたらあ、この番組でそんなに考えさせる問題、出るわけなかったよねー。もう! あのおじさんがヘンなこと言うからー。」

「そうだよなー。Qさま!じゃないんだから(笑)」



お笑い芸人も言う。
 
 

「わあーー!」

そのころ、編成局では歓声が上がっていた。
「ひやひやしたけど、いい画が撮れたじゃん!」
「子どもに論破されるって……ぷぷぷ。」
「まあ、終わりよければ、まいっか、ということだな。」

編成局長もご満悦だ。
 
 
 そのころ。
「句読点が……、句読点が……。」
小学生に負けた国語の大家は、捕まった人が入る牢屋の隅で、ブツブツ言っていた。
 

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