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彼の誕生日にイタリアン・ポテサラ
もうすぐ、彼の誕生日。
付き合って最初の誕生日だったら、あなたはどんなことを思うだろう?
取り合えず、気合は入れる。
しかし、そんなにお金があるわけじゃないなあ。
こんなとき、女が陥りがちな思考が「手作り」だ。
しかしわたしは、手作りの破壊力、重さ、男の嫌悪感を知っている。
試しに、冗談で聞いてみる。
「手作りのマフラーにしようかなあ。ひと針ひと針、愛をこめて♡」
「重い! いらん! 捨てる!」
そりゃそうよね。
でも、そこまで言われたら、逆に「手作り」にしたい気持ちでいっぱいになったわ。
目の前で捨てられるのはダメージが高いから、消えモノにしよう。
彼の大好きなポテトサラダ。
これなら、文句は言われないはず。
特別な日だから、いつもと違うイタリアン・ポテサラにしよう。
小さく切ったベーコンをカリカリに焼いて、塩コショウで味付け。
いつもは隠し味にごまドレッシングを使うけど、今日はイタリアンドレッシングね。
ちゃんと、すった玉ねぎもほんのちょっぴり。
最後に、パセリをパラパラっとね。
タッパーにかわいいラッピングをして、
「はい! お誕生日おめでとう♡」
彼は驚いた顔で、ラッピングを破り、
「ポテサラかー。」
と、真顔で一言。
そして、スプーンでひと口……。
すると、
「なんだ、このオシャレなポテサラは! オレは普通のポテサラが好きなんだよ!」
「ベーコンとか……ないわー。隠し味もすっぱいし。」
と、もう、けちょんけちょん。
「え、ああ。そうだったんだー……。」
くすん。
男の人にプレゼントして、こんなにばっさり、ばっさりと、切りつけられるなんて初めて。自然に、顔がこわばっていく。
不穏な空気に気づいた彼。一口食べる。
「いや、味はおいしいんだけどさあー。」
うそ言ってんじゃないわよ!
「ベーコン、ないわー」
ちゃんと、私の耳にインプットされているんですけど?
そこがいちばん、工夫したところだったのにい!
ぶすっとした顔で、わたしが二口食べる。
おいしいじゃない。
「悪かったよ。でも、オレ、ウソが言えない人間だからさ。」
もう、今それ言う?
ウソは言えなくても、人の労はねぎらってほしいわ。
「味はおいしい」ということで、あと三口、彼は食べた。
わたしは、もう一口食べた。食べれば食べるほど、おいしいじゃないの。
でもね、いい年して、
「ひどーい! もう知らない!」
と言って、ふとんにもぐりこんだりしないわけ。
彼が最後のひと口を食べたら、そっと見えないところにタッパーを隠す。
そこから、もうイタリアン・ポテサラの話はしない。
そこから、普通に戻る。
いつもの、楽しい食卓に。
ぐだぐだ、ひっぱっても何のいいこともない。
今日は、楽しい彼の誕生日なんだから。
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