![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173171426/rectangle_large_type_2_b7e4bcd03c8192713d870075723e48f5.jpeg?width=1200)
地中の星:会津芋小屋
奥会津地方に出張していた時に柳津町芋小屋地区で墓石のほぼ全てが私の姓「杉原」であるのを見かけました。隣町の宿で「同姓ですね」と声をかけてきた主は芋小屋地区に所縁のある方でした。その芋小屋付近で2019年2月に微小地震活動があったことに気づいたので再解析してみました。
芋小屋地区内には気象庁が設置した地震計があります。この地震計だけが記録した微小地震もあるので、この地点単独で解析する意味はあります。周辺の地震観測点記録も使って気象庁が決めた震源位置と単独解析結果を比べると系統的な差があります。そこで両方の折衷案を作ってみました。単独解析で辛うじて検出できた極微小地震は震源断層サイズに見合う円では小さすぎて見えないので十字印で表示しました。
できあがった震源分布図は地中の星のようです。眺めていると思い出がよみがえります。
奥会津地域では私は主に重力変動調査に携わっていましたが、臨時の微小地震観測を手伝ったこともあります。当時は複数地点に設置した地震計から信号ケーブルを敷いてきて一か所で集中記録する方式が主流でした。道路横断が必要な場合は橋の下や土管内を通すか木の枝を伝わせて上空で渡しました。上空を渡すために先ずは小石を縛り付けたガイドロープを投げ上げて枝に引っかけていると、その様子を興味深そうに見ていた同僚がマンガに描いて観測作業の紹介記事にしたことがありました。
奥会津とは別の街中の現場で夕暮時に信号ケーブルを土管に通す作業をしていたことがありました。すると塾通いと思しき親子が通りかかり、母親が小学生男子に「勉強しないと、あのようにして働くことになるよ」と言ったのが聞こえました。こんな言い方をする人が実際にいるのだと少々びっくりしました。
「これは異なことをおっしゃる。ここでケーブルを渡すのは大事な作業ですよ」「服が汚れて大変でしょう」「作業後の達成感に比べれば多少の汚れは気になりません」「汚れた服は自分で洗うのでしょうね」「この程度なら明日もそのまま着れますよ。実は土管に入ったり木に登ること自体も少しワクワクします。お子さんだって外で体を動かすのは好きでしょう」返事が無いので顔を上げると親子は遠り過ぎていた…
実は対話部分は、もしも私が反応していたら、という空想です。当時は夕刻の作業に区切りをつけたい一心でした。対話部分以外は事実です。観測では良い記録を得ることが何より重要、良いルートを選び信号ケーブルを設置することは地震記録ノイズを最小限にするための努力の一環でした。一つ一つの作業が必ずしも報われるわけではないですが、そうした努力の積み重ねで良い観測記録が得られて良い解析結果が得られます。観測時に努力を惜しむと解析で挽回するのは難しい。一方で良い観測と良い解析の好循環でノイズに埋もれがちな信号を検出できれば達成感は大きく展望も開けます。観測屋として懐かしい思い出の一コマでした。
なお地震データ利用に際して、防災科研と気象庁に感謝いたします。